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#134 幻界のミューズ⑭
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「あ、でも、あれでしょ?」
ひとつの可能性に思い当たり、私はすかさず言い返した。
「要は、ミューズの女神に会って、その加護を受ければ、別に私がレベル99にならなくても、魔王なんてイチコロなんですよね?」
そうだ。
そもそも私たちは、そのためにこの旅を続けているのである。
幻界とやらの扉を開けて、女神を呼び覚まし、代わりに魔王をやっつけてもらえばいい。
ただそれだけのことではないか?
何も好き好んで、3万年も洗ってないという魔王ふんどしにこだわる必要はない。
そう思ったのだ。
「確かにそれはそうだが…ただ、ミューズの女神に謁見できたとして、その後どうなるのかは、全くもって不明なんだ」
だが、なぜか、ラルクは煮え切らない。
「そうさのう。女神の加護を受けた勇者は、無敵の力を授かると聞いたことがあるが、それがどんなものなのかは、当の勇者でないとわからんからのう」
おばばが、今度は正面の顔を使ってラルクに同意する。
「とにかくさ、早くそのミューズの所へ行こうよ。で、鍵はどうなったの? この街にあるんでしょ?」
「ああ。今、ソフィアと一平が回収に行っている。そろそろ戻ってくるころだが」
ラルクの言葉が終わらぬうちだった。
往来に面した引き戸がガラガラと開いて、埃まみれの一平が顔をのぞかせた。
「ったく、なんであんなとこに鍵を立てとくんだよ? ばあちゃん、根本的に考え方、おかしいって」
どうしてだか、少しばかり不機嫌なようだ。
そこに、背中に何かかさばるものを背負ったソフィアが、のっそりと入ってきた。
「ふー、重いのなんのって」
どさり。
ソフィアが床に放り出したのは、差し渡し1メートルはありそうな、巨大な真鍮製の鍵である。
「これが、幻界の扉の鍵?」
半信半疑で私はたずねた。
なんでこんなに大きいのだろう?
文化祭の演劇のはりぼてじゃあるまいし。これじゃ、神秘性のかけらもない。
「どこにあったの?」
「このイオンの屋上だよ。避雷針の代わりに立ててあったんだ」
憮然とした面持ちで、一平が答えた。
「避雷針?」
「かさばりすぎて、邪魔だったものでのう」
おばばが首をすくめ、済まなさそうにこうべを垂れる。
「まさかそれをまた使う時が来るとは、思ってもみなかったしのう」
「まあ、手に入ったから、いいとしようじゃないか」
ラルクが間に割って入る。
「それより、次の問題は、幻界の扉の場所だ。それをまず突き止めねばならない」
「え? 兄者も知らないの?」
鼻の頭に汗の粒を浮かべたソフィアが、呆気にとられた表情でラルクを見やった。
ここまで引っ張り回しておいて、目的地も知らぬとはどういうわけだ。
そう言いたいのだろう。
「ああ。だが、このポラリスには、ロンバルディアじゅうの書物を集めた王立図書館があると聞いている。そこに行けば、なにか手がかりが見つかるのではないかと思うんだ」
きまり悪げにラルクが言い訳した時である。
「なんだ、そんなことか」
おばばの後ろの顔が、呆れたように言った。
「場所ならわしらが教えてしんぜよう。ただ、たどり着けるかどうかは、また話が別だがな」
「どこなの? それは」
ソフィアが身を乗り出した。
「稲沢市じゃ」
自信たっぷりに、おばばが言った。
「ほえ?」
私は唖然とした。
これ、どこかで聞いた地名だよ。
「愛知県稲沢市の、スーパー銭湯『宝湯』。それこそが、秘密の扉のありかなのじゃよ」
ひとつの可能性に思い当たり、私はすかさず言い返した。
「要は、ミューズの女神に会って、その加護を受ければ、別に私がレベル99にならなくても、魔王なんてイチコロなんですよね?」
そうだ。
そもそも私たちは、そのためにこの旅を続けているのである。
幻界とやらの扉を開けて、女神を呼び覚まし、代わりに魔王をやっつけてもらえばいい。
ただそれだけのことではないか?
何も好き好んで、3万年も洗ってないという魔王ふんどしにこだわる必要はない。
そう思ったのだ。
「確かにそれはそうだが…ただ、ミューズの女神に謁見できたとして、その後どうなるのかは、全くもって不明なんだ」
だが、なぜか、ラルクは煮え切らない。
「そうさのう。女神の加護を受けた勇者は、無敵の力を授かると聞いたことがあるが、それがどんなものなのかは、当の勇者でないとわからんからのう」
おばばが、今度は正面の顔を使ってラルクに同意する。
「とにかくさ、早くそのミューズの所へ行こうよ。で、鍵はどうなったの? この街にあるんでしょ?」
「ああ。今、ソフィアと一平が回収に行っている。そろそろ戻ってくるころだが」
ラルクの言葉が終わらぬうちだった。
往来に面した引き戸がガラガラと開いて、埃まみれの一平が顔をのぞかせた。
「ったく、なんであんなとこに鍵を立てとくんだよ? ばあちゃん、根本的に考え方、おかしいって」
どうしてだか、少しばかり不機嫌なようだ。
そこに、背中に何かかさばるものを背負ったソフィアが、のっそりと入ってきた。
「ふー、重いのなんのって」
どさり。
ソフィアが床に放り出したのは、差し渡し1メートルはありそうな、巨大な真鍮製の鍵である。
「これが、幻界の扉の鍵?」
半信半疑で私はたずねた。
なんでこんなに大きいのだろう?
文化祭の演劇のはりぼてじゃあるまいし。これじゃ、神秘性のかけらもない。
「どこにあったの?」
「このイオンの屋上だよ。避雷針の代わりに立ててあったんだ」
憮然とした面持ちで、一平が答えた。
「避雷針?」
「かさばりすぎて、邪魔だったものでのう」
おばばが首をすくめ、済まなさそうにこうべを垂れる。
「まさかそれをまた使う時が来るとは、思ってもみなかったしのう」
「まあ、手に入ったから、いいとしようじゃないか」
ラルクが間に割って入る。
「それより、次の問題は、幻界の扉の場所だ。それをまず突き止めねばならない」
「え? 兄者も知らないの?」
鼻の頭に汗の粒を浮かべたソフィアが、呆気にとられた表情でラルクを見やった。
ここまで引っ張り回しておいて、目的地も知らぬとはどういうわけだ。
そう言いたいのだろう。
「ああ。だが、このポラリスには、ロンバルディアじゅうの書物を集めた王立図書館があると聞いている。そこに行けば、なにか手がかりが見つかるのではないかと思うんだ」
きまり悪げにラルクが言い訳した時である。
「なんだ、そんなことか」
おばばの後ろの顔が、呆れたように言った。
「場所ならわしらが教えてしんぜよう。ただ、たどり着けるかどうかは、また話が別だがな」
「どこなの? それは」
ソフィアが身を乗り出した。
「稲沢市じゃ」
自信たっぷりに、おばばが言った。
「ほえ?」
私は唖然とした。
これ、どこかで聞いた地名だよ。
「愛知県稲沢市の、スーパー銭湯『宝湯』。それこそが、秘密の扉のありかなのじゃよ」
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