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#102 浮遊都市ポラリスの秘密②
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「誰だ? おまえは」
鋭い声で、ラルクが言った。
その目は、眼鏡越しにじっと一平のほうを睨みつけている。
「誰だって、今更何だよそれ。俺は山田一平だよ。おっさん、もうぼけちまったのか?」
呆れ顔で言い返す一平。
「おまえじゃない。その肩の上に乗っかってる変なやつだ」
「肩の上?」
一平が気味悪そうに首を回し、それに気づいて、
「ひゃっ!」
と悲鳴を上げた。
その時には、私の目にもそれが見えていた。
一平の右肩に、ドブねずみほどの大きさの人間が腰かけているのだ。
貧弱な身体に不釣り合いな、鉢の開いた大きな頭。
ボロ布を身にまとったそいつは、なんと、元の世界の妖怪漫画に出てきた”子泣き爺”に瓜ふたつだった。
「あれ、妖怪なの?」
私の言葉に、子泣き爺がギョロ目を私に向けて、不愉快そうに答えた。
「失礼なやつじゃな。わしこそはコボルト王、@@@@@@じゃぞ」
肝心の名前のところは、長過ぎて聞き取る気にもなれなかった。
とにかく、自称、何かの王様と言いたいらしい。
「あ」
口に手を当て、叫んだのはソフィアである。
「コボルト王って、ひょっとしてあなた、さっきの」
「なるほど、あの遺跡はコボルト族のものだったのか」
妹の発言に、わが意を得たりとばかりに、ラルクがうなずいた。
遺跡と言えば、帝国に辿り着く前に休憩したあの兵馬俑か。
そういえば、あそこにあった豪華な棺桶。
蓋が開いたのはいいけれど、中には何も入っていなかった。
でも、あれは、空っぽだったわけではなく、この子泣き爺が入っていたというわけなのか。
「そうじゃ、いきなり外に連れ出されたんで、疲れて眠ってしまったわい。ところでここはどこなのじゃ? そしておまえらは何者なのだ?」
「なんでおいらにくっついてくるんだよ! あっち行けよ! このジジイ!」
ぴょんぴょん飛び跳ねる一平。
が、爺様はくっついたままである。
「無駄だ、一平。そいつはすでに死んでいる。コボルト王というのは嘘ではないにしろ、すでに肉体は朽ち果て、霊魂だけになっているのだ。どうやら、最初にあの棺桶に触ったおまえに憑りついたとみえる」
「げ。幽霊かよ。マジやめてほしいんですけど」
ラルクの血も涙もない指摘に、一平はすでに卒倒寸前だ。
「あのさ、名前、長ったらしくて覚えられないから、幽霊さんのこと、これからコボちゃんって呼んでいい?」
何を言い出すかと思ったら、ソフィアったら妙に友好的じゃない。
「コボちゃん? なんじゃそれは。じゃが、まあ、おまえさんはなかなかの別嬪じゃから特別に許す」
相好をくずして爺様がうなずいた。
なんだ。
王様とか言っちゃって、ただのエロオヤジじゃないの。
「ここはポラリスへ昇る軌道エレベーター乗り場で、我々は魔王を倒す勇者みたいなものだ。そしておまえは、すでに死んでいる。コボルト族と言えば、何百年も前に絶滅したと聞いているからな」
「なに? そうのか?」
目を丸くして驚く爺様。
「え? コボちゃん、知らなかったの? 第1次魔王大戦の時だよね。歴史の教科書にも載ってるよ」
と、これはソフィア。
「むう。少々寝すぎたか」
腕組みをして、爺様が考え込む。
「死ぬまで寝るなよ」
一平がぼやいた。
「まあ、ちょうどいい。あんた、幽霊なら、この扉くらい通り抜けられるだろう。ちょっと中に入って、制御室の様子を見てきてくれないか? IDカードを使っても、扉が開かないんだ」
さすがラルク。
何があっても動じないどころか、使えるなら初対面の幽霊すらも使おうという腹らしい。
「そのくらい、朝飯前だ」
断るかと思いきや、あっさりとコボちゃんが了承したのには驚いた。
幽霊って、きっと暇なのだろう。
鋭い声で、ラルクが言った。
その目は、眼鏡越しにじっと一平のほうを睨みつけている。
「誰だって、今更何だよそれ。俺は山田一平だよ。おっさん、もうぼけちまったのか?」
呆れ顔で言い返す一平。
「おまえじゃない。その肩の上に乗っかってる変なやつだ」
「肩の上?」
一平が気味悪そうに首を回し、それに気づいて、
「ひゃっ!」
と悲鳴を上げた。
その時には、私の目にもそれが見えていた。
一平の右肩に、ドブねずみほどの大きさの人間が腰かけているのだ。
貧弱な身体に不釣り合いな、鉢の開いた大きな頭。
ボロ布を身にまとったそいつは、なんと、元の世界の妖怪漫画に出てきた”子泣き爺”に瓜ふたつだった。
「あれ、妖怪なの?」
私の言葉に、子泣き爺がギョロ目を私に向けて、不愉快そうに答えた。
「失礼なやつじゃな。わしこそはコボルト王、@@@@@@じゃぞ」
肝心の名前のところは、長過ぎて聞き取る気にもなれなかった。
とにかく、自称、何かの王様と言いたいらしい。
「あ」
口に手を当て、叫んだのはソフィアである。
「コボルト王って、ひょっとしてあなた、さっきの」
「なるほど、あの遺跡はコボルト族のものだったのか」
妹の発言に、わが意を得たりとばかりに、ラルクがうなずいた。
遺跡と言えば、帝国に辿り着く前に休憩したあの兵馬俑か。
そういえば、あそこにあった豪華な棺桶。
蓋が開いたのはいいけれど、中には何も入っていなかった。
でも、あれは、空っぽだったわけではなく、この子泣き爺が入っていたというわけなのか。
「そうじゃ、いきなり外に連れ出されたんで、疲れて眠ってしまったわい。ところでここはどこなのじゃ? そしておまえらは何者なのだ?」
「なんでおいらにくっついてくるんだよ! あっち行けよ! このジジイ!」
ぴょんぴょん飛び跳ねる一平。
が、爺様はくっついたままである。
「無駄だ、一平。そいつはすでに死んでいる。コボルト王というのは嘘ではないにしろ、すでに肉体は朽ち果て、霊魂だけになっているのだ。どうやら、最初にあの棺桶に触ったおまえに憑りついたとみえる」
「げ。幽霊かよ。マジやめてほしいんですけど」
ラルクの血も涙もない指摘に、一平はすでに卒倒寸前だ。
「あのさ、名前、長ったらしくて覚えられないから、幽霊さんのこと、これからコボちゃんって呼んでいい?」
何を言い出すかと思ったら、ソフィアったら妙に友好的じゃない。
「コボちゃん? なんじゃそれは。じゃが、まあ、おまえさんはなかなかの別嬪じゃから特別に許す」
相好をくずして爺様がうなずいた。
なんだ。
王様とか言っちゃって、ただのエロオヤジじゃないの。
「ここはポラリスへ昇る軌道エレベーター乗り場で、我々は魔王を倒す勇者みたいなものだ。そしておまえは、すでに死んでいる。コボルト族と言えば、何百年も前に絶滅したと聞いているからな」
「なに? そうのか?」
目を丸くして驚く爺様。
「え? コボちゃん、知らなかったの? 第1次魔王大戦の時だよね。歴史の教科書にも載ってるよ」
と、これはソフィア。
「むう。少々寝すぎたか」
腕組みをして、爺様が考え込む。
「死ぬまで寝るなよ」
一平がぼやいた。
「まあ、ちょうどいい。あんた、幽霊なら、この扉くらい通り抜けられるだろう。ちょっと中に入って、制御室の様子を見てきてくれないか? IDカードを使っても、扉が開かないんだ」
さすがラルク。
何があっても動じないどころか、使えるなら初対面の幽霊すらも使おうという腹らしい。
「そのくらい、朝飯前だ」
断るかと思いきや、あっさりとコボちゃんが了承したのには驚いた。
幽霊って、きっと暇なのだろう。
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