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#101 浮遊都市ポラリスの秘密①
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見渡す限り、えんえんと赤茶けた大地が続いている。
どうやら、目の前にそびえる山ー須弥山は、活火山であるようだ。
それは、明らかに火山地帯に特有の光景だった。
白煙を頂上からたなびかせる山の威容をバックにして、角ばった岩がごろごろ転がり、いたるところで大地の割れ目が蒸気を噴き上げている。
空気はいがらっぽく、つんと鼻をつく硫黄の匂いが色濃く漂っている。
地面が熱すぎて、このボロボロのスニーカーでは、そろそろ歩くのがつらいんだけど。
その荒廃した世界の中心に、それは屹立していた。
透明な物質でできた、とてつもなく高い塔。
その頂は青空を突き抜け、成層圏までも伸びているのだろう。
首が痛くなるほど見上げても、針のような塔の先端は陽光に溶け、先にあるはずの都市の姿は見えてこない。
これが、無重力軌道エレベーター?
すごい。
私が元いた世界でも、この手の技術は研究されていた。
だが、理論だけで、まだ実用化には程遠かったはずだ。
それをこの世界では、実現してしまっているというのか。
考えてみれば、ここは不思議な世界だった。
輸送手段は馬車や動物に限られているのに、人々は魔輝石とやらで電力を供給し、しかも魔法も共存しているときている。
おそらく、と思う。
よくある話だが、太古、この世界には素晴らしく発達していた文明が存在していたに違いない。
それが滅びて、いくつかの技術が残り、人々はその原理を知らないまま、その忘れ形見を使い続けている。
そんなところではないか。
だから、エネルギー源は存在しても、知識がないから、自動車や航空機は未だに開発されずにいる。
唯一の例外が、これから赴く浮遊都市ポラリスというわけなのだろう。
そこには、あのエレベーターを管理する人たちが住んでいるに違いないからだ。
「なんだか、すんなりここまで来ちゃったけど」
夕陽に輝くエレベーターの軌道を見上げて、ソフィアがつぶやいた。
「うまくいきすぎて、あたしちょっと怖い」
私も同感だった。
確かに、腸詰帝国の基地を後にしてからというもの、私たちは何の障害にも遭っていなかった。
ボスが消えてしまったせいか、帝国からの追手もやってこないし、新たなモブどもの現れる気配もない。
「俺も気になってはいる。第一に、アラクネが出てこない、帝国のゾンビ技術は間違いなく彼女のものなのに、その開発者が登場しないとは。よもやあのアリ塚の中で、アリ人間どもに食われてしまったとも思えない」
そうだった。
蟻塚の中で私たちが遭遇したあのボンテージ魔女。
あの子はいったいあれからどうなったのだろう。
私のエクスタシー・ハリケーンで一時的に戦闘不能状態にしたものの、効果はじきに切れたに決まっている。
「そんなの、何でもいいじゃん。きっと女王アリにでも食われちまったんだろうよ。それより、あそこが登り口みたいだ。かなり険しい道だから、おまえら、足元に気をつけろ」
一平が指さしたのは、火山のふもとの一角である。
なるほど、そのあたりから山肌に沿って、細い道が中腹のエレベーターの基部まで急角度で続いている。
なんせ足場が悪いので、そこにたどり着くまでに、1時間近くかかった。
更にのぼり道には当然ガードレールや手すりなどという洒落たものはなく、運動神経ゼロで高所恐怖症の私は、ひたすら小柄なソフィアにしがみつかねばならなかった。
広いステージのような一枚岩の上に出たのは、マジで体力がつきかけた時のことである。
「着いた」
珍しく安堵の表情をあらわにして、ラルクがひとりごちた。
「なんかすごいね。ロンバルディアにこんなものがあるなんて」
眼前に出現したのは、超近代的なハイテクビルにそっくりな建造物。
そのガラス張りの壁面を見上げて、ソフィアがうっとりとつぶやいた。
「一番乗りいっ!」
子供らしさを爆発させて、自動ドアと思しきエントランスに一平が突進していく。
が、すぐにその前で立ち止まると、途方に暮れたようにこっちを振り向いた。
「おい、ラルク。ドアが開かないんだけど、これ、どうすんだい?」
「IDカードが必要なんだ」
ラルクが上着のポケットから、キャッシュカードみたいなものを取り出した。
「以前、まだポラリスと下界との交流が盛んだったころ、各村の長に配られた通行券のようなものだ。父上に頼んで貸してもらってきた」
やるじゃん、ラルク。
見直したよ。ほんの少しだけど。
だが。
ラルクが自動ドアの脇のボックスにカードをかざしてみても、何の反応もない。
「カードが古すぎるのか」
ラルクが首をかしげた。
「暗証番号が変わっているのかな」
ラルクが言い終わった、その瞬間だった。
妙な声が聞こえてきた。
聞いたこともない老人の声が、突如としてこう言ったのだ。
「あー、よく寝たわい。およ? ところで、ここはどこなんじゃ?」
どうやら、目の前にそびえる山ー須弥山は、活火山であるようだ。
それは、明らかに火山地帯に特有の光景だった。
白煙を頂上からたなびかせる山の威容をバックにして、角ばった岩がごろごろ転がり、いたるところで大地の割れ目が蒸気を噴き上げている。
空気はいがらっぽく、つんと鼻をつく硫黄の匂いが色濃く漂っている。
地面が熱すぎて、このボロボロのスニーカーでは、そろそろ歩くのがつらいんだけど。
その荒廃した世界の中心に、それは屹立していた。
透明な物質でできた、とてつもなく高い塔。
その頂は青空を突き抜け、成層圏までも伸びているのだろう。
首が痛くなるほど見上げても、針のような塔の先端は陽光に溶け、先にあるはずの都市の姿は見えてこない。
これが、無重力軌道エレベーター?
すごい。
私が元いた世界でも、この手の技術は研究されていた。
だが、理論だけで、まだ実用化には程遠かったはずだ。
それをこの世界では、実現してしまっているというのか。
考えてみれば、ここは不思議な世界だった。
輸送手段は馬車や動物に限られているのに、人々は魔輝石とやらで電力を供給し、しかも魔法も共存しているときている。
おそらく、と思う。
よくある話だが、太古、この世界には素晴らしく発達していた文明が存在していたに違いない。
それが滅びて、いくつかの技術が残り、人々はその原理を知らないまま、その忘れ形見を使い続けている。
そんなところではないか。
だから、エネルギー源は存在しても、知識がないから、自動車や航空機は未だに開発されずにいる。
唯一の例外が、これから赴く浮遊都市ポラリスというわけなのだろう。
そこには、あのエレベーターを管理する人たちが住んでいるに違いないからだ。
「なんだか、すんなりここまで来ちゃったけど」
夕陽に輝くエレベーターの軌道を見上げて、ソフィアがつぶやいた。
「うまくいきすぎて、あたしちょっと怖い」
私も同感だった。
確かに、腸詰帝国の基地を後にしてからというもの、私たちは何の障害にも遭っていなかった。
ボスが消えてしまったせいか、帝国からの追手もやってこないし、新たなモブどもの現れる気配もない。
「俺も気になってはいる。第一に、アラクネが出てこない、帝国のゾンビ技術は間違いなく彼女のものなのに、その開発者が登場しないとは。よもやあのアリ塚の中で、アリ人間どもに食われてしまったとも思えない」
そうだった。
蟻塚の中で私たちが遭遇したあのボンテージ魔女。
あの子はいったいあれからどうなったのだろう。
私のエクスタシー・ハリケーンで一時的に戦闘不能状態にしたものの、効果はじきに切れたに決まっている。
「そんなの、何でもいいじゃん。きっと女王アリにでも食われちまったんだろうよ。それより、あそこが登り口みたいだ。かなり険しい道だから、おまえら、足元に気をつけろ」
一平が指さしたのは、火山のふもとの一角である。
なるほど、そのあたりから山肌に沿って、細い道が中腹のエレベーターの基部まで急角度で続いている。
なんせ足場が悪いので、そこにたどり着くまでに、1時間近くかかった。
更にのぼり道には当然ガードレールや手すりなどという洒落たものはなく、運動神経ゼロで高所恐怖症の私は、ひたすら小柄なソフィアにしがみつかねばならなかった。
広いステージのような一枚岩の上に出たのは、マジで体力がつきかけた時のことである。
「着いた」
珍しく安堵の表情をあらわにして、ラルクがひとりごちた。
「なんかすごいね。ロンバルディアにこんなものがあるなんて」
眼前に出現したのは、超近代的なハイテクビルにそっくりな建造物。
そのガラス張りの壁面を見上げて、ソフィアがうっとりとつぶやいた。
「一番乗りいっ!」
子供らしさを爆発させて、自動ドアと思しきエントランスに一平が突進していく。
が、すぐにその前で立ち止まると、途方に暮れたようにこっちを振り向いた。
「おい、ラルク。ドアが開かないんだけど、これ、どうすんだい?」
「IDカードが必要なんだ」
ラルクが上着のポケットから、キャッシュカードみたいなものを取り出した。
「以前、まだポラリスと下界との交流が盛んだったころ、各村の長に配られた通行券のようなものだ。父上に頼んで貸してもらってきた」
やるじゃん、ラルク。
見直したよ。ほんの少しだけど。
だが。
ラルクが自動ドアの脇のボックスにカードをかざしてみても、何の反応もない。
「カードが古すぎるのか」
ラルクが首をかしげた。
「暗証番号が変わっているのかな」
ラルクが言い終わった、その瞬間だった。
妙な声が聞こえてきた。
聞いたこともない老人の声が、突如としてこう言ったのだ。
「あー、よく寝たわい。およ? ところで、ここはどこなんじゃ?」
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