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#84 腸詰帝国
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隧道の出口は、小高い丘の中腹に通じていた。
眼下には、遠い山並みを背景に、広大な荒れ地が広がっている。
その黄土色一色の大地に、その建物群は建っていた。
カマボコ型をした工場みたいなのが数棟、すり鉢状の荒れ地の底に、コケみたいにへばりついているのだ。
なんか、ショボい。
「悪の帝国の秘密基地っていうより、〇〇フーズって看板が似合いそう」
正直な感想を述べると、
「だよねー。これじゃ、ただの工場団地だよ」
ソフィアがあっさり同意した。
「あそこに光る垂直の線が見えるだろう。あれが、浮遊都市ポラリスへ続く無重力エレベーターだ」
工場群の向こう、山のふもとあたりを指さして、ラルクが説明する。
「なんとかして、あの基地を通り抜けることさえできれば、目的地は近い」
小手をかざしてその方角に目をやると、なるほど、陽を浴びてキラキラ光る蜘蛛の糸みたいなものが見えた。
あれが、エレベーター?
あれを昇りさえすれば、快適なお風呂も、新しい下着も、おいしい食事も手に入るというわけか。
浮遊都市というのがどんなものかわからないが、少なくともこのジャングルで暮らすよりは、何百倍何千倍もマシに違いない。
「そりゃそうだけど、でも、どうやって見つからないようにあの基地を抜けるんだよ?
不服そうに口をとがらせて一平が言った。
「連中に見つかったら最後、女はひき肉にされてソーセージに、男は殺されてゾンビにされちまうんだぜ」
「翔子のミサイルで奇襲攻撃をかけたらどうかしら? ここからさっきみたいにバババーンって」
可愛い顔して平気で無茶を言うのは、ソフィアの癖である。
「そんな、無理よ。いったい何発ミサイルが要ると思ってるの? 基地を全滅させる前に、私のおっぱいのほうがオーバーヒートして、溶けちゃうよ」
私は無意識のうちに、ぱつんぱつんのセーラー服の胸元を両腕でかばっていた。
「そうだな。奇襲というのは、成功すれば効果が高いが、失敗のリスクも大きい。敵の武装状況がわからぬままに、こっちから攻撃するのは、いくらなんでも無謀すぎるだろう」
「じゃあ、どうすんだよ」
「けっこう人の出入りが多いようだ。通行人のふりをして、というのは無理そうだな」
「こんな辺鄙なとこに、通行人がいるわけねーだろ」
「あー、あれはどうかな」
ソフィアが崖から身を乗り出した。
「ほら、いちばん奥の、山側の倉庫を見てよ。あの、『?5』ってかいてあるやつ。さっきからあそこに何台も馬車が横づけになって、何か降ろしてるんだけど、あの積み荷に紛れ込むことができたら、少なくともあそこまではフリーパスってことじゃない? あの5番倉庫まで行けば、裏が山だから、エレベーターまですぐだよ」
「へーえ、ソフィアって頭いい!」
ほめると、
「てへ」
と舌を出してソフィアがしがみついてきた。
「けど、おまえら、あれ、何の積み荷か知ってるのか?」
呆れたように言ったのは、一平だ。
「何なの? 腸詰の素材じゃないの?」
口にして初めて、私はその意味に思い至って、ぞっとなった。
「そうさ、つまり、大量の人間の女の死体ってことだ。たぶん、近くの村が、また襲われたんだろうな」
眼下には、遠い山並みを背景に、広大な荒れ地が広がっている。
その黄土色一色の大地に、その建物群は建っていた。
カマボコ型をした工場みたいなのが数棟、すり鉢状の荒れ地の底に、コケみたいにへばりついているのだ。
なんか、ショボい。
「悪の帝国の秘密基地っていうより、〇〇フーズって看板が似合いそう」
正直な感想を述べると、
「だよねー。これじゃ、ただの工場団地だよ」
ソフィアがあっさり同意した。
「あそこに光る垂直の線が見えるだろう。あれが、浮遊都市ポラリスへ続く無重力エレベーターだ」
工場群の向こう、山のふもとあたりを指さして、ラルクが説明する。
「なんとかして、あの基地を通り抜けることさえできれば、目的地は近い」
小手をかざしてその方角に目をやると、なるほど、陽を浴びてキラキラ光る蜘蛛の糸みたいなものが見えた。
あれが、エレベーター?
あれを昇りさえすれば、快適なお風呂も、新しい下着も、おいしい食事も手に入るというわけか。
浮遊都市というのがどんなものかわからないが、少なくともこのジャングルで暮らすよりは、何百倍何千倍もマシに違いない。
「そりゃそうだけど、でも、どうやって見つからないようにあの基地を抜けるんだよ?
不服そうに口をとがらせて一平が言った。
「連中に見つかったら最後、女はひき肉にされてソーセージに、男は殺されてゾンビにされちまうんだぜ」
「翔子のミサイルで奇襲攻撃をかけたらどうかしら? ここからさっきみたいにバババーンって」
可愛い顔して平気で無茶を言うのは、ソフィアの癖である。
「そんな、無理よ。いったい何発ミサイルが要ると思ってるの? 基地を全滅させる前に、私のおっぱいのほうがオーバーヒートして、溶けちゃうよ」
私は無意識のうちに、ぱつんぱつんのセーラー服の胸元を両腕でかばっていた。
「そうだな。奇襲というのは、成功すれば効果が高いが、失敗のリスクも大きい。敵の武装状況がわからぬままに、こっちから攻撃するのは、いくらなんでも無謀すぎるだろう」
「じゃあ、どうすんだよ」
「けっこう人の出入りが多いようだ。通行人のふりをして、というのは無理そうだな」
「こんな辺鄙なとこに、通行人がいるわけねーだろ」
「あー、あれはどうかな」
ソフィアが崖から身を乗り出した。
「ほら、いちばん奥の、山側の倉庫を見てよ。あの、『?5』ってかいてあるやつ。さっきからあそこに何台も馬車が横づけになって、何か降ろしてるんだけど、あの積み荷に紛れ込むことができたら、少なくともあそこまではフリーパスってことじゃない? あの5番倉庫まで行けば、裏が山だから、エレベーターまですぐだよ」
「へーえ、ソフィアって頭いい!」
ほめると、
「てへ」
と舌を出してソフィアがしがみついてきた。
「けど、おまえら、あれ、何の積み荷か知ってるのか?」
呆れたように言ったのは、一平だ。
「何なの? 腸詰の素材じゃないの?」
口にして初めて、私はその意味に思い至って、ぞっとなった。
「そうさ、つまり、大量の人間の女の死体ってことだ。たぶん、近くの村が、また襲われたんだろうな」
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