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#60 ちょっと待ってよ
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ヒルの群生を抜けると、そこは草地だった。
密林に囲まれた、児童公園ほどの円形の平地である。
どうやらこのジャングルには、所々にこうした木々の密生していない空間が点在しているらしい。
助かった、と思いたいところだったが、油断は禁物である。
さっきアリ塚があった場所も、こんなふうに拓けた快適そうな草原だったのだ。
しかし、気をつけなきゃ、と思った時には、すでに遅かった。
私の騎乗する便所コオロギが、何がどうしたのか、いきなりつんのめってひっくり返ったのである。
「いかん! 罠だ! こんなとこにロープが張ってある!」
見ると、ラルクもソフィアも私同様、丈の短い草の上に転げ落ちている。
なるほど、私たちの乗った便所コオロギは、木と木の間に張り渡されたロープに足を取られて転倒したということらしい。
でも、誰がこんなことを?
「勘弁してよね!」
憤然と立ち上がったのは、戦闘服姿のソフィアである。
「アリ人間の次は何なのよ? いい加減ゆっくり休ませてくれないかな?」
まったく同感である。
どうしてこの世界では、こうも次から次へと厄介ごとばかり持ち上がるのだ。
私がネット小説で得た知識によれば、異世界転生とはもっと楽チンなはずである。
最近の読者の傾向として、面倒なものや暗い話は敬遠されるから、主人公はとにかく運がよくて無敵なスキルの持ち主であるはずなのだ。
成長するのはステータスやスキルだけで、そこに人間的な成長物語なんて暑苦しいものはいらないし、出てくる女の子はみんなメンヘラかツンデレで、ハーレムの構成要素でありさえすればそれでいい。
ここはそういうお手軽な世界になぜなっていない?
もしこれがネット小説なら、まだるっこしくて誰も読まないだろうから、ポイントも入るはずがない。
などとどうでもいいことに頭を使っていた時である。
突然、
カン!
という乾いた音がして、すぐ横の木立に何か突き刺さった。
見てびっくり。
手裏剣だった。
「わ! なんでこんなとこに忍者が?」
叫んだ私の声を、あろうことか、変声期前の少年の声がさえぎった。
「おいらはニンジャなんかじゃねーよ。かかったな。この帝国の犬どもめが」
顔を上げると、草地の中央に太くて高い木が一本立っていて、その上に小屋がかかっていた。
小屋の屋根の上に、上半身裸の男の子が仁王立ちになっている。
少年は、手製のボウガンのようなものを構えていた。
どうもこの手裏剣は、あの武器から撃ち出したものらしい。
「あなたは誰? 帝国って、何?」
鋭いソフィアの声が飛ぶ。
「おいらは山田一平。こう見えても、勇者の血を引く男。人呼んで、”暗闇始末人”」
暗闇始末人?
私は唖然とした。
なんだそれは。
こいつ、ただの馬鹿なのか。
それにしても、ヤマダイッペイって、それってまんま、私の元居た世界ふうの名前じゃない!
ダサすぎて、かえってこの世界ではキラキラネームの部類に入ってしまうだろう。
「あなた、日本から来たの?」
我慢できなくなって、私は訊き返した。
ならばこの子、向こうに帰る方法を知っているのでは?
そう思ったのだ。
「なんだ、おまえは? 腸詰帝国の斥候の分際で、どうして日本のことを知っている?」
少年が目を剥いたようだった。
驚いているのだ。
でも、と思う。
腸詰帝国って、いったい、何?
密林に囲まれた、児童公園ほどの円形の平地である。
どうやらこのジャングルには、所々にこうした木々の密生していない空間が点在しているらしい。
助かった、と思いたいところだったが、油断は禁物である。
さっきアリ塚があった場所も、こんなふうに拓けた快適そうな草原だったのだ。
しかし、気をつけなきゃ、と思った時には、すでに遅かった。
私の騎乗する便所コオロギが、何がどうしたのか、いきなりつんのめってひっくり返ったのである。
「いかん! 罠だ! こんなとこにロープが張ってある!」
見ると、ラルクもソフィアも私同様、丈の短い草の上に転げ落ちている。
なるほど、私たちの乗った便所コオロギは、木と木の間に張り渡されたロープに足を取られて転倒したということらしい。
でも、誰がこんなことを?
「勘弁してよね!」
憤然と立ち上がったのは、戦闘服姿のソフィアである。
「アリ人間の次は何なのよ? いい加減ゆっくり休ませてくれないかな?」
まったく同感である。
どうしてこの世界では、こうも次から次へと厄介ごとばかり持ち上がるのだ。
私がネット小説で得た知識によれば、異世界転生とはもっと楽チンなはずである。
最近の読者の傾向として、面倒なものや暗い話は敬遠されるから、主人公はとにかく運がよくて無敵なスキルの持ち主であるはずなのだ。
成長するのはステータスやスキルだけで、そこに人間的な成長物語なんて暑苦しいものはいらないし、出てくる女の子はみんなメンヘラかツンデレで、ハーレムの構成要素でありさえすればそれでいい。
ここはそういうお手軽な世界になぜなっていない?
もしこれがネット小説なら、まだるっこしくて誰も読まないだろうから、ポイントも入るはずがない。
などとどうでもいいことに頭を使っていた時である。
突然、
カン!
という乾いた音がして、すぐ横の木立に何か突き刺さった。
見てびっくり。
手裏剣だった。
「わ! なんでこんなとこに忍者が?」
叫んだ私の声を、あろうことか、変声期前の少年の声がさえぎった。
「おいらはニンジャなんかじゃねーよ。かかったな。この帝国の犬どもめが」
顔を上げると、草地の中央に太くて高い木が一本立っていて、その上に小屋がかかっていた。
小屋の屋根の上に、上半身裸の男の子が仁王立ちになっている。
少年は、手製のボウガンのようなものを構えていた。
どうもこの手裏剣は、あの武器から撃ち出したものらしい。
「あなたは誰? 帝国って、何?」
鋭いソフィアの声が飛ぶ。
「おいらは山田一平。こう見えても、勇者の血を引く男。人呼んで、”暗闇始末人”」
暗闇始末人?
私は唖然とした。
なんだそれは。
こいつ、ただの馬鹿なのか。
それにしても、ヤマダイッペイって、それってまんま、私の元居た世界ふうの名前じゃない!
ダサすぎて、かえってこの世界ではキラキラネームの部類に入ってしまうだろう。
「あなた、日本から来たの?」
我慢できなくなって、私は訊き返した。
ならばこの子、向こうに帰る方法を知っているのでは?
そう思ったのだ。
「なんだ、おまえは? 腸詰帝国の斥候の分際で、どうして日本のことを知っている?」
少年が目を剥いたようだった。
驚いているのだ。
でも、と思う。
腸詰帝国って、いったい、何?
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