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#57 秘密兵器
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そこは、サラブレッドなどを管理する馬小屋に似ていた。
左手にいくつも仕切りがあり、その個別のスペースに、何やら妙なものが鎮座しているのだ。
バッタである。
いや、正確にいうと、それはカマドウマにそっくりだった。
カマドウマ。
別名、便所コオロギである。
たくましい後ろ脚。
前傾姿勢を保った、流線形のボディ。
ゴキブリのそれを思わせる長い2本の触角。
色は真っ黒で、遠目に見ると、なんだか米軍の秘密兵器みたいだった。
なんせ、ふつうのカマドウマの何千倍も大きいのである。
床から頭部まで、高さ3メートルはありそうなのだ。
「これ、ただの便所コオロギじゃない」
私は呆れて言った。
「とてつもなくでかいけど」
便所コオロギなら、よく知っている。
都会ではとんと見かけないが、小学生の頃、お盆になると必ず帰省していた祖母の家の台所に、こいつがたいてい居たからだ。
「見てわからない? これはね、乗り物なんだよ」
早くも1頭の背中によじ登ったソフィアが叫び返してきた。
「ほら、ここに鞍がついてるでしょ」
「あ、ほんとだ」
なるほど、どのカマドウマにも、鞍と手綱がつけてあるようだ。
「アリ人間たちは、ジャングルを遠出する時、これを使うに違いない。見ろ、この発達した後ろ脚を。たぶんこいつは、馬車より速いし、多少の障害物ならジャンプして飛び越えることができるはずだ」
ソフィアの隣のカマドウマに乗り込んだラルクが、得意げに説明する。
「待って。私も乗る」
そうと聞いたからには、バッタだろうが便所コオロギだろうが、もう構うものか。
ジャングルを徒歩で逃げることを思えば、どの道天国だ。
「そおれっ!」
私は手前の1頭に飛びついた。
が、ソフィアと違って発達し過ぎた胸が邪魔で、なかなか背中に這い上がれない。
そうこうしているうちに、背後が騒がしくなってきた。
正気に戻ったアリ人間たちが、追いかけてきたのだろうか。
が、どうやらそうではなさそうだった。
いきなりソフィアが叫んだのである。
「翔子、急いで! また来た! 変なのが!」
「変なのって?」
「ぶっちゃけガチやばすぎ」
ラルクが言った。
「見ろ。アリ人間たちが次々に食い殺されてるぞ。ぼやぼやしてたら次は俺たちの番だ」
「食い殺される? な、何に?」
おそるおそる振り返った私は、
「ぎゃ」
悲鳴を上げた。
世界中でいちばん苦手なやつ。
それが穴の向こうで暴れ回っているのが、視界に入ってきたからだった。
左手にいくつも仕切りがあり、その個別のスペースに、何やら妙なものが鎮座しているのだ。
バッタである。
いや、正確にいうと、それはカマドウマにそっくりだった。
カマドウマ。
別名、便所コオロギである。
たくましい後ろ脚。
前傾姿勢を保った、流線形のボディ。
ゴキブリのそれを思わせる長い2本の触角。
色は真っ黒で、遠目に見ると、なんだか米軍の秘密兵器みたいだった。
なんせ、ふつうのカマドウマの何千倍も大きいのである。
床から頭部まで、高さ3メートルはありそうなのだ。
「これ、ただの便所コオロギじゃない」
私は呆れて言った。
「とてつもなくでかいけど」
便所コオロギなら、よく知っている。
都会ではとんと見かけないが、小学生の頃、お盆になると必ず帰省していた祖母の家の台所に、こいつがたいてい居たからだ。
「見てわからない? これはね、乗り物なんだよ」
早くも1頭の背中によじ登ったソフィアが叫び返してきた。
「ほら、ここに鞍がついてるでしょ」
「あ、ほんとだ」
なるほど、どのカマドウマにも、鞍と手綱がつけてあるようだ。
「アリ人間たちは、ジャングルを遠出する時、これを使うに違いない。見ろ、この発達した後ろ脚を。たぶんこいつは、馬車より速いし、多少の障害物ならジャンプして飛び越えることができるはずだ」
ソフィアの隣のカマドウマに乗り込んだラルクが、得意げに説明する。
「待って。私も乗る」
そうと聞いたからには、バッタだろうが便所コオロギだろうが、もう構うものか。
ジャングルを徒歩で逃げることを思えば、どの道天国だ。
「そおれっ!」
私は手前の1頭に飛びついた。
が、ソフィアと違って発達し過ぎた胸が邪魔で、なかなか背中に這い上がれない。
そうこうしているうちに、背後が騒がしくなってきた。
正気に戻ったアリ人間たちが、追いかけてきたのだろうか。
が、どうやらそうではなさそうだった。
いきなりソフィアが叫んだのである。
「翔子、急いで! また来た! 変なのが!」
「変なのって?」
「ぶっちゃけガチやばすぎ」
ラルクが言った。
「見ろ。アリ人間たちが次々に食い殺されてるぞ。ぼやぼやしてたら次は俺たちの番だ」
「食い殺される? な、何に?」
おそるおそる振り返った私は、
「ぎゃ」
悲鳴を上げた。
世界中でいちばん苦手なやつ。
それが穴の向こうで暴れ回っているのが、視界に入ってきたからだった。
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