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#20 防人たち
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「おお、ソフィアじゃないか。よくきてくれた、と言いたいとこだが、婚約はどうした?」
石造りの建物。
その見張り台から、金髪のイケメンがこちらを見下ろしていた。
「この非常時に、私だけのんびり婚約なんてしてる場合じゃないでしょ」
言い返すそばで、ソフィアがささやいた。
「あれが、次男のカイル。サンフローレンス騎士団の副隊長よ」
「ははは、おまえらしいな。フェルマー王子の腰抜けぶりに愛想つかして逃げ出してきたか。ところでそっちのでっかいお姉さんは誰なんだ?」
「彼女は翔子。エロ魔導士よ。わざわざ異界から、私たちを応援に来てくれたの」
「は、はじめまして」
頭を下げると、
「エロ魔導士だと? こりゃいい! ラルクのカタブツ野郎が聞いたら腰を抜かすぞ! さ、そうとわかったら、ふたりとも中に入れ。歓迎する」
石段を上り、建物の中に一歩足を踏み入れると、そこは石造りの大きな広間で、何十人もの男たちが三々五々、少数のグループを作り、あちこちにたむろしていた。
「みんな、援軍が来てくれた。紹介しよう、わが妹のソフィアと、魔導士のショーコだ」
ラルクの言葉に、全員が一斉に振り向いた。
と思ったら、爆発するように歓声が上がる。
「ソフィア姫!」
「ようこそ姫!」
「なんてお美しい!」
「ようし! これで百人力だ! オークどもなんて、蹴散らしてくれるわ!」
ソフィアの人気はすさまじいものだった。
日本のアイドルの握手会もかくやというありさまである。
「おお、ソフィア、戻ったか」
人混みが、モーゼの十戒の海のように割れると、黒い顎髭を生やした威厳のある中年男性が現れた。
「父上。お元気そうでなによりです」
軽く会釈して、ソフィアが言う。
「婚約破棄されたときいたが」
その横に立つ、背の高い若者が、表情一つ変えずに言った。
これが兄のラルクだろうか。
弟のカイルと比べると、ずいぶんとまたクールな印象の男である。
「さすがラルク。耳が早い」
睨み返すような目つきで、ソフィアが言い返した。
「ちょっと奸計にはめられちゃってね。悪役令嬢扱いされて、王宮を追放されたってわけ」
「ソフィアさまが悪役令嬢だと?」
「許せん! いくら王族といえ、失礼にもほどがある!」
色めき立つ男たち。
私はこれほどまでに慕われているソフィアが、ちょっぴりうらやましくなった。
「フェルマー王子の従妹のジェスティーヌは、要注意人物だ。母方は魔女の家系だといううわさもある。大方、罠を仕組んだのはあの女だろう」
「めったなことを言うでない、ラルク」
父親が長男をいさめた。
「王家を批判したら、身の破滅だぞ」
「なに、大したことではないさ」
ラルクは涼しい顔をしている。
「父上、いや、将軍は上を気にしすぎる。百年ぶりに魔王がよみがえった今、王族も平民もないのだ。勝ち組になるか、負け組になるか、死ぬか生き残るか、それしかないのだから」
そう言い捨てると、マントを翻して大股に外に出て行ってしまった。
「ったく、兄貴のやつ」
金髪イケメン坊やのカイルが肩をすくめた。
「事情通なのはいいけど、ほんと変人なんだから」
「そう言うな。あれはあれなりに、国のことを思っているのだ。それより、そなた、魔導士と言ったな。魔導士の参戦というのはうれしい限りだが、いったいどんな魔法が使えるのだ? よかったら教えてくれ。それによって、戦略が変わってくる」
いきなり話を振られ、私は凍りついた。
男たちの視線が、ソフィアから私へと、一斉に移った。
フリーズした私の脇腹を、ソフィアが肘で突っついた。
仕方なく、私は口を開いた。
「私が使えるのは、そ、その…エロ魔法です」
石造りの建物。
その見張り台から、金髪のイケメンがこちらを見下ろしていた。
「この非常時に、私だけのんびり婚約なんてしてる場合じゃないでしょ」
言い返すそばで、ソフィアがささやいた。
「あれが、次男のカイル。サンフローレンス騎士団の副隊長よ」
「ははは、おまえらしいな。フェルマー王子の腰抜けぶりに愛想つかして逃げ出してきたか。ところでそっちのでっかいお姉さんは誰なんだ?」
「彼女は翔子。エロ魔導士よ。わざわざ異界から、私たちを応援に来てくれたの」
「は、はじめまして」
頭を下げると、
「エロ魔導士だと? こりゃいい! ラルクのカタブツ野郎が聞いたら腰を抜かすぞ! さ、そうとわかったら、ふたりとも中に入れ。歓迎する」
石段を上り、建物の中に一歩足を踏み入れると、そこは石造りの大きな広間で、何十人もの男たちが三々五々、少数のグループを作り、あちこちにたむろしていた。
「みんな、援軍が来てくれた。紹介しよう、わが妹のソフィアと、魔導士のショーコだ」
ラルクの言葉に、全員が一斉に振り向いた。
と思ったら、爆発するように歓声が上がる。
「ソフィア姫!」
「ようこそ姫!」
「なんてお美しい!」
「ようし! これで百人力だ! オークどもなんて、蹴散らしてくれるわ!」
ソフィアの人気はすさまじいものだった。
日本のアイドルの握手会もかくやというありさまである。
「おお、ソフィア、戻ったか」
人混みが、モーゼの十戒の海のように割れると、黒い顎髭を生やした威厳のある中年男性が現れた。
「父上。お元気そうでなによりです」
軽く会釈して、ソフィアが言う。
「婚約破棄されたときいたが」
その横に立つ、背の高い若者が、表情一つ変えずに言った。
これが兄のラルクだろうか。
弟のカイルと比べると、ずいぶんとまたクールな印象の男である。
「さすがラルク。耳が早い」
睨み返すような目つきで、ソフィアが言い返した。
「ちょっと奸計にはめられちゃってね。悪役令嬢扱いされて、王宮を追放されたってわけ」
「ソフィアさまが悪役令嬢だと?」
「許せん! いくら王族といえ、失礼にもほどがある!」
色めき立つ男たち。
私はこれほどまでに慕われているソフィアが、ちょっぴりうらやましくなった。
「フェルマー王子の従妹のジェスティーヌは、要注意人物だ。母方は魔女の家系だといううわさもある。大方、罠を仕組んだのはあの女だろう」
「めったなことを言うでない、ラルク」
父親が長男をいさめた。
「王家を批判したら、身の破滅だぞ」
「なに、大したことではないさ」
ラルクは涼しい顔をしている。
「父上、いや、将軍は上を気にしすぎる。百年ぶりに魔王がよみがえった今、王族も平民もないのだ。勝ち組になるか、負け組になるか、死ぬか生き残るか、それしかないのだから」
そう言い捨てると、マントを翻して大股に外に出て行ってしまった。
「ったく、兄貴のやつ」
金髪イケメン坊やのカイルが肩をすくめた。
「事情通なのはいいけど、ほんと変人なんだから」
「そう言うな。あれはあれなりに、国のことを思っているのだ。それより、そなた、魔導士と言ったな。魔導士の参戦というのはうれしい限りだが、いったいどんな魔法が使えるのだ? よかったら教えてくれ。それによって、戦略が変わってくる」
いきなり話を振られ、私は凍りついた。
男たちの視線が、ソフィアから私へと、一斉に移った。
フリーズした私の脇腹を、ソフィアが肘で突っついた。
仕方なく、私は口を開いた。
「私が使えるのは、そ、その…エロ魔法です」
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