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#3 黄金の山羊亭
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しばらく歩くと、民家風の建物が見えてきた。
看板からして、どうやら食事を提供する店らしい。
レストランというほど大きくないが、近づくと焼き肉のいい匂いが漂ってきた。
「マスター、いる?」
ためらいもなくドアを開けると、ソフィアが慣れたふうに声をかけた。
「おや、珍しい。ソフィア姫じゃないか。こんなところに何の用だい? 今頃、てっきり皇太子妃になってるかと思ってたのに」
奥の厨房から出てきたのは、ひげもじゃの熊みたいな大男。
「いろいろあってね」
美少女の顔が一瞬曇った。
「ちょっと実家に帰るとこなの」
「がっはは、まさか、最近はやりの婚約破棄ってやつじゃあるまいな」
ひげもじゃは、ずいぶん話好きのようだった。
ソフィアが露骨に嫌がっているのに、がんがん話しかけてくる。
かわいそうになって、私は横から口をはさむことにした。
「ところでおじさん、ここはどこなんですか? なんていう国? よければ教えてほしいんですけど」
「どこって…サンフローレンスに決まってるだろうが。ロンバルディア王国の、サンフローレンス州だよ。おまえさん、見たところ、エロ魔導士のようだが、異国から来たのかい?」
「はあ、日本から。さっきまで、釣りしてたんですけど、そしたら急にミサイルが落ちてきて」
エロ魔導士、エロ魔導士とみんなして言わないでほしかった。
黒魔導士ならかっこいいから我慢できるけど、黒とエロではえらい違いである。
それに、さっきからテーブルの下で試してるんだけど、リングが外れないのだ。
私のクリちゃんのつけ根にしっかりはまり込んだまま、びくとも動かない。
これが取れないと、おそらく私は一生エロ魔導士のままだろう。
「ニホン? ミサイル? なんだそれ?」
ひげ男があきれ顔で私を見た。
「話はあと。私、おなかペコペコなの。馬車は食人花に潰されちゃうし。もう、踏んだり蹴ったりとはこのことね」
「最近モブが増えてるからね」
スタミナ定食2人前ででいいかい?
そう確認すると、マスターがため息混じりにつぶやいた。
「ろくにお供も連れないで歩くなんて自殺行為だよ。この前もそこの森で、女冒険者のパーティがはぐれゴブリンたちに襲われて集団レイプされたばっかりだ。ソフィアちゃんも気をつけなよ」
こんな異世界にも定食があるのか。
私は物珍しげに店の中を見回した。
店の名前は『黄金の山羊亭』。
入る前に確かめたら、何語かわからないけど、流れるような文字でそう書いてあった。
日本語じゃないのに、それがすんなり読めてしまったということは、いよいよ私の異世界転生は本物のようだ。
第一、よく聞いてみると、ソフィアたちのしゃべっている言葉は日本語ではない。
異国の言語なのに、耳から入ってくるなり、どうやら私の脳内で日本語に変換されてしまうらしいのだ。
「王宮に上がる前はね、よくここに家族で食事に来たの。父も兄もここのスタミナ定食が大好物でね、いつのまにか私も感化されていた。でも、ほんと久しぶり。王宮の気取ったディナーなんかより、こっちのほうがずっとおいしいわ。まあ、それも私が平民の出だっていう証拠なんでしょうけど」
肉を器用にナイフとフォークで切り分けながら、なんだか諦めたような口調で、ソフィアが言った。
「何かつらいことでもあったの?」
抜群に美味な定食を忙しく口に運びながら、私はついそうたずねていた。
「今は言いたくない」
ソフィアが首を振った。
「まだ心の整理がついていないから」
どこの世界にも、悩める美少女は居るということか。
「それより、翔子ってエロ魔導士のくせにあんまりエロくないよね」
ふいにソフィアが話題を変えたので、私はびっくりした。
「私の知ってるエロ魔導士はみんな、外見だけじゃなく、中身までものすごくエロいものなんだけど、翔子って変にさっぱりしてるっていうか…色気が足りないっていうか…。処女だからかな? ひょっとして、まだ研修中?」
う。
私は返答に詰まった。
ソフィアの指摘は、まさに図星だったからである。
看板からして、どうやら食事を提供する店らしい。
レストランというほど大きくないが、近づくと焼き肉のいい匂いが漂ってきた。
「マスター、いる?」
ためらいもなくドアを開けると、ソフィアが慣れたふうに声をかけた。
「おや、珍しい。ソフィア姫じゃないか。こんなところに何の用だい? 今頃、てっきり皇太子妃になってるかと思ってたのに」
奥の厨房から出てきたのは、ひげもじゃの熊みたいな大男。
「いろいろあってね」
美少女の顔が一瞬曇った。
「ちょっと実家に帰るとこなの」
「がっはは、まさか、最近はやりの婚約破棄ってやつじゃあるまいな」
ひげもじゃは、ずいぶん話好きのようだった。
ソフィアが露骨に嫌がっているのに、がんがん話しかけてくる。
かわいそうになって、私は横から口をはさむことにした。
「ところでおじさん、ここはどこなんですか? なんていう国? よければ教えてほしいんですけど」
「どこって…サンフローレンスに決まってるだろうが。ロンバルディア王国の、サンフローレンス州だよ。おまえさん、見たところ、エロ魔導士のようだが、異国から来たのかい?」
「はあ、日本から。さっきまで、釣りしてたんですけど、そしたら急にミサイルが落ちてきて」
エロ魔導士、エロ魔導士とみんなして言わないでほしかった。
黒魔導士ならかっこいいから我慢できるけど、黒とエロではえらい違いである。
それに、さっきからテーブルの下で試してるんだけど、リングが外れないのだ。
私のクリちゃんのつけ根にしっかりはまり込んだまま、びくとも動かない。
これが取れないと、おそらく私は一生エロ魔導士のままだろう。
「ニホン? ミサイル? なんだそれ?」
ひげ男があきれ顔で私を見た。
「話はあと。私、おなかペコペコなの。馬車は食人花に潰されちゃうし。もう、踏んだり蹴ったりとはこのことね」
「最近モブが増えてるからね」
スタミナ定食2人前ででいいかい?
そう確認すると、マスターがため息混じりにつぶやいた。
「ろくにお供も連れないで歩くなんて自殺行為だよ。この前もそこの森で、女冒険者のパーティがはぐれゴブリンたちに襲われて集団レイプされたばっかりだ。ソフィアちゃんも気をつけなよ」
こんな異世界にも定食があるのか。
私は物珍しげに店の中を見回した。
店の名前は『黄金の山羊亭』。
入る前に確かめたら、何語かわからないけど、流れるような文字でそう書いてあった。
日本語じゃないのに、それがすんなり読めてしまったということは、いよいよ私の異世界転生は本物のようだ。
第一、よく聞いてみると、ソフィアたちのしゃべっている言葉は日本語ではない。
異国の言語なのに、耳から入ってくるなり、どうやら私の脳内で日本語に変換されてしまうらしいのだ。
「王宮に上がる前はね、よくここに家族で食事に来たの。父も兄もここのスタミナ定食が大好物でね、いつのまにか私も感化されていた。でも、ほんと久しぶり。王宮の気取ったディナーなんかより、こっちのほうがずっとおいしいわ。まあ、それも私が平民の出だっていう証拠なんでしょうけど」
肉を器用にナイフとフォークで切り分けながら、なんだか諦めたような口調で、ソフィアが言った。
「何かつらいことでもあったの?」
抜群に美味な定食を忙しく口に運びながら、私はついそうたずねていた。
「今は言いたくない」
ソフィアが首を振った。
「まだ心の整理がついていないから」
どこの世界にも、悩める美少女は居るということか。
「それより、翔子ってエロ魔導士のくせにあんまりエロくないよね」
ふいにソフィアが話題を変えたので、私はびっくりした。
「私の知ってるエロ魔導士はみんな、外見だけじゃなく、中身までものすごくエロいものなんだけど、翔子って変にさっぱりしてるっていうか…色気が足りないっていうか…。処女だからかな? ひょっとして、まだ研修中?」
う。
私は返答に詰まった。
ソフィアの指摘は、まさに図星だったからである。
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