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#83 儀式③
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あの液体は生理食塩水だろうか。
その中を浮遊する先生の首は、漂白したみたいに青白い。
血走った眼を半眼に開いたまま、正面から僕を見つめている。
先生が、死んだ?
僕は衝撃に打ちのめされた。
蓮月が殺され、乙都が捕まり、最後の頼みの綱だった泰良先生まで…。
この夜の病棟で、僕の仲間はもう誰もいない。
眺めているうちに、心が冷えてきた。
それにしても…。
こう表現するのは不謹慎かもしれないが、首だけにされた先生は、正直、気味が悪かった。
可哀想というより、不気味でしかたない。
斜めに断ち切られた首の断面からは、ふやけてぶよぶよになった皮膚がレースのように切り口を取り巻いていて、中心から折れた脊椎が垂直に飛び出している。
切断面から生えた血管が液体に揺らめいて、まるで水母の肢のように見える。
「彼女はオルガノイドにも人権があると言い張ってね。この儀式にもなかなかうんと言わないんだよ。君たちには、せめて自然な形での接触の機会を与えるべきだと主張してやまないんだ。人工的につくり出されたオルガノイドにそんなものがあるはずないのは、火を見るより明らかなんだがね。オルガノイドは必要とされる臓器を増殖するための培養基に過ぎない。少年、キミが前立腺培養のためにつくられたようにね」
僕の背後で北条真琴が言った。
前立腺?
増殖?
何のことだろう?
そもそも、オルガノイドとは何なのだ?
が、長くひとつのことを考えるのは困難だった。
躰の変化が、僕の思考の大半を奪い去ろうとしていた。
目を凝らすと、先生の首の入った容器が鏡の役割を果たし、そのガラスの表面に、僕の姿が映っていた。
首から上が肥大して周囲の皮が剥け、ハート形をしたピンク色の大きな頭部が濡れて光っている。
オオサンショウウオの頭のようなその部分には、先端に縦に切れ込みがあり、そこに小さな口が開いている。
躰は筋肉でできた筒のように太くなり、皮膚の下にうねうねした血管が浮き出ている。
手足は完全に消滅して、下半身は鏡に映したように、上半身そっくりの形に変貌していた。
上半身と下半身の境目あたりに、皺くちゃの袋が足の代わりに生えてきている。
やわらかい袋の中にあるのは、ふたつのアーモンド形の硬い球のようなものだ。
これではまるで・・・。
異様な昂りに身を震わせて、僕は思った。
亀頭がふたつある、ペニスじゃないか…。
海綿体を充血させ、カチカチに勃起した肉棒の両端に赤剥けの亀頭を備えた、等身大の生物ー。
睾丸をも備えた、独立した双頭の男性器というものがこの世に存在するとすれば・・・。
あり得ないことだが、それが、今の僕なのだ。
「ああん…」
背筋が総毛立つほど淫らな声が聞こえ、僕ははっと顔を上げた。
見ると、全裸に剥かれた乙都が、ベッドに仰向けにされている。
まるで今から出産するかのように、こちらに向けて、股を開いているのだ。
M字形に開脚させられた乙都の股間に、凄まじい吸引力で、僕の目は吸い寄せられた。
むっちりとした白い内腿の狭間で、にこ毛に隠された秘所が左右に開き、入口に光る露を宿している。
その奥に開いた穴は内臓を覗かせたように赤く爛れ、縁を蠢めかせてあたかも僕を誘っているかのようだ。
「したいだろ?」
淫靡な声で、真琴がささやいた。
「それでいいんだよ。オルガノイド、おまえはそのためにつくられたんだからね」
その中を浮遊する先生の首は、漂白したみたいに青白い。
血走った眼を半眼に開いたまま、正面から僕を見つめている。
先生が、死んだ?
僕は衝撃に打ちのめされた。
蓮月が殺され、乙都が捕まり、最後の頼みの綱だった泰良先生まで…。
この夜の病棟で、僕の仲間はもう誰もいない。
眺めているうちに、心が冷えてきた。
それにしても…。
こう表現するのは不謹慎かもしれないが、首だけにされた先生は、正直、気味が悪かった。
可哀想というより、不気味でしかたない。
斜めに断ち切られた首の断面からは、ふやけてぶよぶよになった皮膚がレースのように切り口を取り巻いていて、中心から折れた脊椎が垂直に飛び出している。
切断面から生えた血管が液体に揺らめいて、まるで水母の肢のように見える。
「彼女はオルガノイドにも人権があると言い張ってね。この儀式にもなかなかうんと言わないんだよ。君たちには、せめて自然な形での接触の機会を与えるべきだと主張してやまないんだ。人工的につくり出されたオルガノイドにそんなものがあるはずないのは、火を見るより明らかなんだがね。オルガノイドは必要とされる臓器を増殖するための培養基に過ぎない。少年、キミが前立腺培養のためにつくられたようにね」
僕の背後で北条真琴が言った。
前立腺?
増殖?
何のことだろう?
そもそも、オルガノイドとは何なのだ?
が、長くひとつのことを考えるのは困難だった。
躰の変化が、僕の思考の大半を奪い去ろうとしていた。
目を凝らすと、先生の首の入った容器が鏡の役割を果たし、そのガラスの表面に、僕の姿が映っていた。
首から上が肥大して周囲の皮が剥け、ハート形をしたピンク色の大きな頭部が濡れて光っている。
オオサンショウウオの頭のようなその部分には、先端に縦に切れ込みがあり、そこに小さな口が開いている。
躰は筋肉でできた筒のように太くなり、皮膚の下にうねうねした血管が浮き出ている。
手足は完全に消滅して、下半身は鏡に映したように、上半身そっくりの形に変貌していた。
上半身と下半身の境目あたりに、皺くちゃの袋が足の代わりに生えてきている。
やわらかい袋の中にあるのは、ふたつのアーモンド形の硬い球のようなものだ。
これではまるで・・・。
異様な昂りに身を震わせて、僕は思った。
亀頭がふたつある、ペニスじゃないか…。
海綿体を充血させ、カチカチに勃起した肉棒の両端に赤剥けの亀頭を備えた、等身大の生物ー。
睾丸をも備えた、独立した双頭の男性器というものがこの世に存在するとすれば・・・。
あり得ないことだが、それが、今の僕なのだ。
「ああん…」
背筋が総毛立つほど淫らな声が聞こえ、僕ははっと顔を上げた。
見ると、全裸に剥かれた乙都が、ベッドに仰向けにされている。
まるで今から出産するかのように、こちらに向けて、股を開いているのだ。
M字形に開脚させられた乙都の股間に、凄まじい吸引力で、僕の目は吸い寄せられた。
むっちりとした白い内腿の狭間で、にこ毛に隠された秘所が左右に開き、入口に光る露を宿している。
その奥に開いた穴は内臓を覗かせたように赤く爛れ、縁を蠢めかせてあたかも僕を誘っているかのようだ。
「したいだろ?」
淫靡な声で、真琴がささやいた。
「それでいいんだよ。オルガノイド、おまえはそのためにつくられたんだからね」
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