異世界病棟

#82 儀式②

　天井から宙吊りにされた乙都は、異形の看護師たちのおびただしい触手に、明らかに犯されようとしていた。
　そして信じられないことに、それを嫌がるどころか、受け入れ始めていた。
　ピンク色に染まった頬。
　固く閉じた眼。
　薄く開いた唇。
　時折その間から漏れる、切なく甘い喘ぎ声。
　乳房ごと締め上げられ、勃起した桜色の乳首。
　蠢く触手で盛り上がったショーツのクロッチの部分に広がる黒い染み･･･。
　そのどれもが、乙都の健康な女体が、異常ともいえる性的刺激に反応していることを示している･･･。
　それに伴って、僕の躰にも変化が生じ始めていた。
　むろん、蚯蚓のような体型だから、もう男性器にあたる器官はない。
　なのに、疼くような快感とともに少しずつ身体中が膨張し、全身の皮膚が硬くなっていくのだ。
　そうー。
　まるで僕の全身が、あの器官に変身してしまったかのように･･･。
「やめろ！」
　僕は叫んだ。
　蛆虫と化した僕の口は、円筒形の鼻づらの先にある。
　その器官を開閉させて、不明瞭な声で僕は言い募った。
「乙都を放せ！　先生を出せ！　泰良先生はどこだ！」
「何、会いたいのか？　泰良なら、そこだよ」
　北条真琴が言って、長い茎に支えられた顏をナースステーションの中央に向けた。
　ぽつんと置かれたベッドの上に、ひと抱えほどもある立方体の箱が乗っている。
　箱はガラス張りで、中に何か浮いていた。
「ちょっとした意見の相違があってね」
　澄ました口調で、真琴が言う。
「こうするしか、なかったんだよ」
　何だろう？
　この女、何が言いたいんだ？
　と、その時、箱の中で物体が揺れ、うつろな瞳が僕を見た。
　目を凝らし、その正体に気づいた僕は、思わずあっと声を上げていた。
　そ、そんな…。
　こんなの、あり得ない…。
「せ、先生…」
　四角い容器の中、透明な液体に浮遊しているのは、顎の下で切断された泰良瑞季女医の頭部だったのだ。