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#80 東病棟ナース・ステーションの謎⑤
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「お、おまえは…」
僕は言葉を失った。
目の前で揺れているのは、あの”顔”だった。
病棟の窓の外、墓地の墓石の陰から僕を見つめていたあの顔。
「何度も会ってるのだが、改めて初めましてというべきかな、オルガノイド君」
三日月形の笑みを口元に浮かべて、黒い顔の女が言った。
オルガノイド・・・?
これも、断片的に何度か耳にした言葉である。
でも、何のことなのか、さっぱりわからない。
「私はホウジョウマコト。循環器内科と心臓外科の統括部長だ。鎌倉幕府執権の北条氏の北条に、真実の真、それから楽器の琴で、北条真琴。君は確か、由井颯太だったね。ふふん、オルガノイドにしては、ずいぶんとまた、今風の名前をつけたものだ」
長い首の先でゆらゆら揺れながら、女が続けた。
ここが夜の世界だからだろうか。
北条真琴と名乗った女は、ひどく不気味な姿をしていた。
本体は、車椅子の上に乗った大きなプランターである。
そこから太く長い茎のような胴体と、触手のような二本の腕が生えている。
胴体は一度天井近くまで伸び、そこからなだらかな曲線を描いて僕の前まで下りてきているのだが、その先端が細い首の上に乗った黒い女の顔になっているのだ。
おかっぱ頭の、市松人形みたいな輪郭を持った顔である。
ただ、ブラックホールみたいに黒く、白く開いた眼と口しかわからない。
彼女はそのプランター状の下半身から生えた二本の可動式の触手で、僕の自由を奪っているのだった。
金属製の、電気スタンドの首そっくりの長い腕の先に一対の鉤爪がついていて、それで僕の胴体を両サイドから挟みつけているのである。
「タイラ君から聞いてはいたが、それにしても、見事に妖蛆化してしまったようだね。その姿では、もう人間とは呼べないだろう」
にやにや笑いながら、自分の奇怪な姿は棚に上げ、北条真琴が言う。
「まあでも、その姿のほうが、ある意味、面倒がなくていい。目的達成の前に、いちいち人間の雄と雌の生殖行動を見せつけられていたのでは、時間がいくらあっても足りないからね。かといって、人工授精では、成功率が格段に下がってしまうし」
「な、何を言ってるんだ? 乙都を放せ。泰良先生はどこだ? オルガノイドって何なんだ?」
拘束から逃れようと、僕は身をよじった。
が、手足がないため、金属アームに抗うこともままならない。
「そんなに一度に質問されても答えようがないよ。まずは儀式の準備といこうか。みんな、始めてくれ」
北条の声に、宙吊りにされたブラック・ナースたちがうなずいた。
と、突然、乙都を取り囲む十人ほどのナースたちに、変化が始まった。
半袖のナース服から露出した腕が、束になった蔦のようなものに変わっていく。
腕だけでなく、ミニワンピースから伸びた足も、気味の悪い茶褐色の蔦の束に変わり始めている。
「裸に剥け」
北条が命じると同時だった。
ナースたちの蔦状の触手の束がぐわっと宙に伸び上がったかと思うと、一斉に乙都めがけて殺到し始めたのだ。
僕は言葉を失った。
目の前で揺れているのは、あの”顔”だった。
病棟の窓の外、墓地の墓石の陰から僕を見つめていたあの顔。
「何度も会ってるのだが、改めて初めましてというべきかな、オルガノイド君」
三日月形の笑みを口元に浮かべて、黒い顔の女が言った。
オルガノイド・・・?
これも、断片的に何度か耳にした言葉である。
でも、何のことなのか、さっぱりわからない。
「私はホウジョウマコト。循環器内科と心臓外科の統括部長だ。鎌倉幕府執権の北条氏の北条に、真実の真、それから楽器の琴で、北条真琴。君は確か、由井颯太だったね。ふふん、オルガノイドにしては、ずいぶんとまた、今風の名前をつけたものだ」
長い首の先でゆらゆら揺れながら、女が続けた。
ここが夜の世界だからだろうか。
北条真琴と名乗った女は、ひどく不気味な姿をしていた。
本体は、車椅子の上に乗った大きなプランターである。
そこから太く長い茎のような胴体と、触手のような二本の腕が生えている。
胴体は一度天井近くまで伸び、そこからなだらかな曲線を描いて僕の前まで下りてきているのだが、その先端が細い首の上に乗った黒い女の顔になっているのだ。
おかっぱ頭の、市松人形みたいな輪郭を持った顔である。
ただ、ブラックホールみたいに黒く、白く開いた眼と口しかわからない。
彼女はそのプランター状の下半身から生えた二本の可動式の触手で、僕の自由を奪っているのだった。
金属製の、電気スタンドの首そっくりの長い腕の先に一対の鉤爪がついていて、それで僕の胴体を両サイドから挟みつけているのである。
「タイラ君から聞いてはいたが、それにしても、見事に妖蛆化してしまったようだね。その姿では、もう人間とは呼べないだろう」
にやにや笑いながら、自分の奇怪な姿は棚に上げ、北条真琴が言う。
「まあでも、その姿のほうが、ある意味、面倒がなくていい。目的達成の前に、いちいち人間の雄と雌の生殖行動を見せつけられていたのでは、時間がいくらあっても足りないからね。かといって、人工授精では、成功率が格段に下がってしまうし」
「な、何を言ってるんだ? 乙都を放せ。泰良先生はどこだ? オルガノイドって何なんだ?」
拘束から逃れようと、僕は身をよじった。
が、手足がないため、金属アームに抗うこともままならない。
「そんなに一度に質問されても答えようがないよ。まずは儀式の準備といこうか。みんな、始めてくれ」
北条の声に、宙吊りにされたブラック・ナースたちがうなずいた。
と、突然、乙都を取り囲む十人ほどのナースたちに、変化が始まった。
半袖のナース服から露出した腕が、束になった蔦のようなものに変わっていく。
腕だけでなく、ミニワンピースから伸びた足も、気味の悪い茶褐色の蔦の束に変わり始めている。
「裸に剥け」
北条が命じると同時だった。
ナースたちの蔦状の触手の束がぐわっと宙に伸び上がったかと思うと、一斉に乙都めがけて殺到し始めたのだ。
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