59 / 88
#58 深淵に潜むもの①
しおりを挟む
いつのまにか僕は、天井に浮かんで、真下に横たわる”それ”を見下ろしていた。
肉体と痛みから解放され、意識はかつてないほど静謐だった。
眼下に横たわるおぞましい物体…。
それは、もはや人の躰とはいえなかった。
生体ポリフェノールで構成された一枚の板。
そこにさまざまな臓器が、配置だけは人の体内と同じように、上部から順番に、脳、眼球、食道、気管、肺、胃という具合に広く間隔を取って配置されている。
臓器と臓器をつなぐ人工血管も精巧に模倣されているので、それは遠目には配線に覆われたクリスマスツリーのように見えないこともない。
今、その”基盤”は死にかけていた。
中央で拍動する心臓の動きでそれとわかった。
膨らんだり縮んだりするそのリズムに、大きな狂いが生じている。
形も妙にいびつで、今にも破裂しそうに見える。
その心臓に新鮮な動脈血を送る二本の血管に、同時に結節が生じているせいだった。
結節は”眼”に似ていた。
冷ややかに死にゆく心臓を見守る二つの眼。
その結節に向かって、血管の中を進軍する二匹の環形生物たち。
が、環形生物はもう一匹いて、それは基盤の下部、尿道の中を垂直に上昇していた。
尿道は袋のような前立腺に囲まれ、奥で枝分かれしてそれぞれ膀胱と精嚢に続いている。
三匹目の環形生物が向かうのは細い枝道、すなわち精嚢に続くほうだ。
カウパー腺嚢と精嚢を有するその部位は、目立たないながらもこの基盤の最重要部分である。
なぜならその部位こそが、基盤が感じる性的興奮を使ってネクタルを製造する器官の集合体だからだ。
ネクタル…。
そう、神の酒。
肉体と痛みから解放され、意識はかつてないほど静謐だった。
眼下に横たわるおぞましい物体…。
それは、もはや人の躰とはいえなかった。
生体ポリフェノールで構成された一枚の板。
そこにさまざまな臓器が、配置だけは人の体内と同じように、上部から順番に、脳、眼球、食道、気管、肺、胃という具合に広く間隔を取って配置されている。
臓器と臓器をつなぐ人工血管も精巧に模倣されているので、それは遠目には配線に覆われたクリスマスツリーのように見えないこともない。
今、その”基盤”は死にかけていた。
中央で拍動する心臓の動きでそれとわかった。
膨らんだり縮んだりするそのリズムに、大きな狂いが生じている。
形も妙にいびつで、今にも破裂しそうに見える。
その心臓に新鮮な動脈血を送る二本の血管に、同時に結節が生じているせいだった。
結節は”眼”に似ていた。
冷ややかに死にゆく心臓を見守る二つの眼。
その結節に向かって、血管の中を進軍する二匹の環形生物たち。
が、環形生物はもう一匹いて、それは基盤の下部、尿道の中を垂直に上昇していた。
尿道は袋のような前立腺に囲まれ、奥で枝分かれしてそれぞれ膀胱と精嚢に続いている。
三匹目の環形生物が向かうのは細い枝道、すなわち精嚢に続くほうだ。
カウパー腺嚢と精嚢を有するその部位は、目立たないながらもこの基盤の最重要部分である。
なぜならその部位こそが、基盤が感じる性的興奮を使ってネクタルを製造する器官の集合体だからだ。
ネクタル…。
そう、神の酒。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる