58 / 88
#57 恐怖の手術③
しおりを挟む
ゴム手袋をした乙都の手の中でのたうっているのは、針金みたいに細い生き物だった。
僕がさっき、床のクーラーボックスの中にちらりと見た”あれ”である。
「あたしも一匹」
蓮月がかがんで、クーラーボックスからもう一匹の生き物をつかみ上げた。
バタバタ跳ねるその針金そっくりの生き物は、游に長さが1メートルはありそうだ。
「そ、それは…?」
唇をわななかせて、僕は訊いた。
「見ての通り、生体血管だよ。ミミズというか、まあ、線虫の一種かな」
言うことを聞かない生き物と格闘しながら、乙都が答えた。
「中は空洞だから心配いらないよ。ちゃんと血管の役割は果たすし、何よりも頑丈だし」
「ただ、相性が悪いと、稀に心臓を食い破られることがあるってさ。血管に心臓食われてちゃ世話ないんだけど」
剛腕で生きた血管を組み伏せて、蓮月が縁起でもないフォローをする。
「そ、そんなものを、どうやって…」
「簡単だよ。あんたの両手首には、点滴用のシリンダーが取りつけてある。チューブをつなぐだけで、すぐに点滴を行えるように、注射器の先みたいなのを刺してテープで止めてあるだろう? その中にこいつを挿入するだけさ。頭さえ入れてやれば、後は勝手に心臓まで進軍していく。昼間の手術と比べれば、ずいぶん単純だ」
クールな口調で説明しながら、乙都が僕の右手首に両手で握った線虫を近づけていく。
反対側では、蓮月がすでに同じ作業に入っていた。
「三匹同時に行くぞ。そのほうが、痛みが長引かなくて済む」
いつのまにか、先生も線虫を手にしているようだ。
右手に虫を握って、左手で萎えた僕の性器を上に向けている。
「ショックで心停止したらどうします?」
乙都が、僕の右手に刺さった点滴用シリンダーに線虫の頭を押し込みながら、物騒なことを言う。
「そこは賭けだな。血流が止まる前に生体血管が心臓まで貫通すればそれでよし。もし間に合わなければ、脳死状態だ。その時は、最重要器官だけを基盤から摘出することになる」
片手で器用に性器の包皮を剥き、亀頭を露わにして、先生が答えた。
「そうしたら、この少年は廃棄処分ですか」
「まあな。可哀想だが仕方がない」
「昼間の乙都がなんて思うか」
「それもおまえの一部だろう。記憶なんてなんとでもなる」
「あるいはうちが彼女の一部なのかも」
「どっちもおんなじことさ。それより、行くぞ」
「あいさあ」
「了解です」
そして次の瞬間、両手首と性器の先が、焼きごてを当てられたかのようにカッと熱くなった。
「うぐっ、うぎゃあああああっ!」
三方から全身を激痛に貫かれ、全裸で鋼鉄の機械に挟まれたまま、僕はベッドの上で硬直した。
ヒューズが飛ぶように意識が雲散霧消する寸前、先生が忌々しげにつぶやくのが聞えてきた。
「まずいな。心機能が急速に落ちてる。線虫の行く先で、冠動脈が一気に全部詰まってしまったらしい」
僕がさっき、床のクーラーボックスの中にちらりと見た”あれ”である。
「あたしも一匹」
蓮月がかがんで、クーラーボックスからもう一匹の生き物をつかみ上げた。
バタバタ跳ねるその針金そっくりの生き物は、游に長さが1メートルはありそうだ。
「そ、それは…?」
唇をわななかせて、僕は訊いた。
「見ての通り、生体血管だよ。ミミズというか、まあ、線虫の一種かな」
言うことを聞かない生き物と格闘しながら、乙都が答えた。
「中は空洞だから心配いらないよ。ちゃんと血管の役割は果たすし、何よりも頑丈だし」
「ただ、相性が悪いと、稀に心臓を食い破られることがあるってさ。血管に心臓食われてちゃ世話ないんだけど」
剛腕で生きた血管を組み伏せて、蓮月が縁起でもないフォローをする。
「そ、そんなものを、どうやって…」
「簡単だよ。あんたの両手首には、点滴用のシリンダーが取りつけてある。チューブをつなぐだけで、すぐに点滴を行えるように、注射器の先みたいなのを刺してテープで止めてあるだろう? その中にこいつを挿入するだけさ。頭さえ入れてやれば、後は勝手に心臓まで進軍していく。昼間の手術と比べれば、ずいぶん単純だ」
クールな口調で説明しながら、乙都が僕の右手首に両手で握った線虫を近づけていく。
反対側では、蓮月がすでに同じ作業に入っていた。
「三匹同時に行くぞ。そのほうが、痛みが長引かなくて済む」
いつのまにか、先生も線虫を手にしているようだ。
右手に虫を握って、左手で萎えた僕の性器を上に向けている。
「ショックで心停止したらどうします?」
乙都が、僕の右手に刺さった点滴用シリンダーに線虫の頭を押し込みながら、物騒なことを言う。
「そこは賭けだな。血流が止まる前に生体血管が心臓まで貫通すればそれでよし。もし間に合わなければ、脳死状態だ。その時は、最重要器官だけを基盤から摘出することになる」
片手で器用に性器の包皮を剥き、亀頭を露わにして、先生が答えた。
「そうしたら、この少年は廃棄処分ですか」
「まあな。可哀想だが仕方がない」
「昼間の乙都がなんて思うか」
「それもおまえの一部だろう。記憶なんてなんとでもなる」
「あるいはうちが彼女の一部なのかも」
「どっちもおんなじことさ。それより、行くぞ」
「あいさあ」
「了解です」
そして次の瞬間、両手首と性器の先が、焼きごてを当てられたかのようにカッと熱くなった。
「うぐっ、うぎゃあああああっ!」
三方から全身を激痛に貫かれ、全裸で鋼鉄の機械に挟まれたまま、僕はベッドの上で硬直した。
ヒューズが飛ぶように意識が雲散霧消する寸前、先生が忌々しげにつぶやくのが聞えてきた。
「まずいな。心機能が急速に落ちてる。線虫の行く先で、冠動脈が一気に全部詰まってしまったらしい」
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる