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#55 恐怖の手術①
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ピーっと音が響き、セキュリティボックスの”目”が緑色の輝きを点すと、エアロックのような分厚い扉が静かに開いた。
扉は二重になっていて、ふたつめを抜けると、そこは真昼のように明るい集中治療室の中だった。
かなり広い空間なのだが、あちこちに手術用のベッドやそれを取り囲む機械類が置かれ、なんだか実験室みたいな印象だ。
背後の閉まった二重扉の向こうでは、ガンガンとドアに何かがぶつかる音がする。
あのもののけたちの援軍がやってきたのだろうか。
機器類は細菌やウィルスの付着を防ぐためか、すべて透明なビニールで覆われている。
まず、乙都がフロアの真ん中の手術用キッドに歩み寄り、なにやら点検を始めた。
その間に奥のドアからガラス張りの小部屋に入った蓮月が、中で作業を開始する。
「準備できました」
「こちらもOKです」
ふたりが戻ってくると、先生は僕を乗せたベッドを中央の手術用ベッドに横づけした。
「移すぞ」
そう、先生が乙都と蓮月に声をかけ、
「よいしょ」
ふたりが僕の躰を軽々と持ち上げる。
手術用ベッドに移される瞬間、床に奇妙なものが置いてあるのが、ちらっと見えた。
長方形の大きな発泡スチロールの箱である。
箱には蓋がなく、中に水のような液体が満たされている。
それだけなら別になんということもないのだが、その中を何か細長いものがうねうねと泳いでいるのだ。
ICUの中に、ウナギ?
一瞬、我が目を疑った。
気のせいか、消毒液の匂いに混じって、磯臭い臭気がする。
が、それが僕の視界に映り込んだのはほんの束の間のことで、深く考えるまでもなく、僕は新しいベッドに横たえられ、なぜかまた病衣をはぎ取られ、あっという間に全裸にさせられていた。
「う~ん、何度触ってもいいねえ。このすべすべのお肌」
蓮月が濡れたガーゼで僕の躰を撫で回す。
「レンゲったら、やめなよ。また変なことすると、昼間のオトが悲しむよ」
僕の左手首にきつく黒いチューブを巻きながら、乙都が言う。
「昼間は昼間、夜は夜だろ? あたしらがなにやろうと、昼間のあの子たちはどうせ覚えてないよ」
「そうは言うけど、潜在意識には残るから」
「ふたりとも、なにをごちゃごちゃやっている。朝まであんまり時間がない。急ぐぞ。乙都は左手、蓮月は右手をそれぞれ動かないように確保しろ。生体ステントは3本移植する。少年の冠動脈は、残った2本も全部詰まりかけているからな。急がないと、24時間以内に心臓が止まる」
「生体ステントを、3本、ですか? 冠動脈以外にも、まだほかに?」
黒マスクから出た乙都の大きな眼が、ちらりと例の箱が置かれているほうに落ちた。
「性器だよ」
当然のように、瑞季先生が言った。
「カテーテル代わりに、尿道にも、もう1本挿入しておく。基盤全体の機能が弱って、各部の結合が緩んできているから、まず応急処置で最も重要な部分を強化しておかないと」
扉は二重になっていて、ふたつめを抜けると、そこは真昼のように明るい集中治療室の中だった。
かなり広い空間なのだが、あちこちに手術用のベッドやそれを取り囲む機械類が置かれ、なんだか実験室みたいな印象だ。
背後の閉まった二重扉の向こうでは、ガンガンとドアに何かがぶつかる音がする。
あのもののけたちの援軍がやってきたのだろうか。
機器類は細菌やウィルスの付着を防ぐためか、すべて透明なビニールで覆われている。
まず、乙都がフロアの真ん中の手術用キッドに歩み寄り、なにやら点検を始めた。
その間に奥のドアからガラス張りの小部屋に入った蓮月が、中で作業を開始する。
「準備できました」
「こちらもOKです」
ふたりが戻ってくると、先生は僕を乗せたベッドを中央の手術用ベッドに横づけした。
「移すぞ」
そう、先生が乙都と蓮月に声をかけ、
「よいしょ」
ふたりが僕の躰を軽々と持ち上げる。
手術用ベッドに移される瞬間、床に奇妙なものが置いてあるのが、ちらっと見えた。
長方形の大きな発泡スチロールの箱である。
箱には蓋がなく、中に水のような液体が満たされている。
それだけなら別になんということもないのだが、その中を何か細長いものがうねうねと泳いでいるのだ。
ICUの中に、ウナギ?
一瞬、我が目を疑った。
気のせいか、消毒液の匂いに混じって、磯臭い臭気がする。
が、それが僕の視界に映り込んだのはほんの束の間のことで、深く考えるまでもなく、僕は新しいベッドに横たえられ、なぜかまた病衣をはぎ取られ、あっという間に全裸にさせられていた。
「う~ん、何度触ってもいいねえ。このすべすべのお肌」
蓮月が濡れたガーゼで僕の躰を撫で回す。
「レンゲったら、やめなよ。また変なことすると、昼間のオトが悲しむよ」
僕の左手首にきつく黒いチューブを巻きながら、乙都が言う。
「昼間は昼間、夜は夜だろ? あたしらがなにやろうと、昼間のあの子たちはどうせ覚えてないよ」
「そうは言うけど、潜在意識には残るから」
「ふたりとも、なにをごちゃごちゃやっている。朝まであんまり時間がない。急ぐぞ。乙都は左手、蓮月は右手をそれぞれ動かないように確保しろ。生体ステントは3本移植する。少年の冠動脈は、残った2本も全部詰まりかけているからな。急がないと、24時間以内に心臓が止まる」
「生体ステントを、3本、ですか? 冠動脈以外にも、まだほかに?」
黒マスクから出た乙都の大きな眼が、ちらりと例の箱が置かれているほうに落ちた。
「性器だよ」
当然のように、瑞季先生が言った。
「カテーテル代わりに、尿道にも、もう1本挿入しておく。基盤全体の機能が弱って、各部の結合が緩んできているから、まず応急処置で最も重要な部分を強化しておかないと」
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