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#49 エレベーターホールの死闘①
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「ご、ごめんなさい…」
先生の剣幕に押され、僕はあわてて掛布団を鼻の下まで引き上げた。
尿のほうは、もうどうしようもなかった。
いったん排尿が始まってしまったら、誰だって途中で止めるなんてできないからだ。
「エレベーターホールが見えてきました」
急角度でベッドがコーナーを曲がると、先頭に立っていた蓮月が言った。
「でも、まずいですねえ。”ひともどき”がわんさか湧いてます。少年のおしっこの匂いを嗅ぎつけて、早くも興奮のるつぼみたいですよ」
「くう、だからいわんこっちゃない! どうせ東棟のやつらがまた霊園荒らしを始めたんだろう。人骨なら、旧墓地を漁れば掃いて捨てるほど埋まっているからな」
ひともどき?
人骨?
旧墓地?
相変わらず先生の口から飛び出る単語は不気味なものばかりである。
「仕方がない。オト、一番近いエレベーターまでの間に、聖水を撒け。きょうはどんな成分を仕込んである?」
「まだ寒いので、柚子をベースにした出汁に、中東の地下教会直輸入の聖水を混ぜてみました。試作品なので、効果のほどはわかりません」
「柚子か。悪くない。たぶん、いけるだろう。それでいい」
「ありがとうございます」
乙都が巨大注射器をよっこらせと抱え直すと、点滴スタンドを左肩に担いだ蓮月が訊いた。
「あたしは何を?」
「私がこれでひともどきたちの注意を逸らす」
ずぼっ。
言うなり先生が布団をめくって、いきなり僕の下半身からカテーテルを引き抜いた。
「あひっ!」
尿道から管が抜ける異様な快感に、僕はベッドの上でバウンドした。
「その間に、レンゲはエレベーターに走って、回数ボタンを押してくれ。そして箱が上がってきたら、やつらに侵入されないよう、入口を死守するんだ」
「OK。お安いご用!」
レンゲの返事を聞くや否や、先生がカテーテルを放り投げた。
尿パットをつけたままのプラスチックの管が、くるくる回りながら右手のほうに飛んでいく。
ずざざざざっ!
あううううっ!
ばうっ! ばうっ!
一斉に何かが動く気配。
進行方向に、確かに何か得体の知れないものたちが、たくさんひしめきあっているようだ。
「オト、今だ! 噴霧開始!」
先生の声に、
「ラジャー!」
乙都が機関銃のように巨大注射器を振り上げる。
その先端に突き出た銀色の注射針から噴水のように透明な液体が噴き上がると、
ぎゃあああああっ!
気色の悪い悲鳴があたりに満ち満ちた。
「もらったあっ!」
レンゲが歓声を上げ、獰猛な雄牛のようにダッシュする。
「急げ! 東病棟側通路から、第二陣!」
ベッドの柵を握った両手に力を込め、ぐいっと前に押し出すと、先生が蓮月の背中に向けてそう警告を発した。
先生の剣幕に押され、僕はあわてて掛布団を鼻の下まで引き上げた。
尿のほうは、もうどうしようもなかった。
いったん排尿が始まってしまったら、誰だって途中で止めるなんてできないからだ。
「エレベーターホールが見えてきました」
急角度でベッドがコーナーを曲がると、先頭に立っていた蓮月が言った。
「でも、まずいですねえ。”ひともどき”がわんさか湧いてます。少年のおしっこの匂いを嗅ぎつけて、早くも興奮のるつぼみたいですよ」
「くう、だからいわんこっちゃない! どうせ東棟のやつらがまた霊園荒らしを始めたんだろう。人骨なら、旧墓地を漁れば掃いて捨てるほど埋まっているからな」
ひともどき?
人骨?
旧墓地?
相変わらず先生の口から飛び出る単語は不気味なものばかりである。
「仕方がない。オト、一番近いエレベーターまでの間に、聖水を撒け。きょうはどんな成分を仕込んである?」
「まだ寒いので、柚子をベースにした出汁に、中東の地下教会直輸入の聖水を混ぜてみました。試作品なので、効果のほどはわかりません」
「柚子か。悪くない。たぶん、いけるだろう。それでいい」
「ありがとうございます」
乙都が巨大注射器をよっこらせと抱え直すと、点滴スタンドを左肩に担いだ蓮月が訊いた。
「あたしは何を?」
「私がこれでひともどきたちの注意を逸らす」
ずぼっ。
言うなり先生が布団をめくって、いきなり僕の下半身からカテーテルを引き抜いた。
「あひっ!」
尿道から管が抜ける異様な快感に、僕はベッドの上でバウンドした。
「その間に、レンゲはエレベーターに走って、回数ボタンを押してくれ。そして箱が上がってきたら、やつらに侵入されないよう、入口を死守するんだ」
「OK。お安いご用!」
レンゲの返事を聞くや否や、先生がカテーテルを放り投げた。
尿パットをつけたままのプラスチックの管が、くるくる回りながら右手のほうに飛んでいく。
ずざざざざっ!
あううううっ!
ばうっ! ばうっ!
一斉に何かが動く気配。
進行方向に、確かに何か得体の知れないものたちが、たくさんひしめきあっているようだ。
「オト、今だ! 噴霧開始!」
先生の声に、
「ラジャー!」
乙都が機関銃のように巨大注射器を振り上げる。
その先端に突き出た銀色の注射針から噴水のように透明な液体が噴き上がると、
ぎゃあああああっ!
気色の悪い悲鳴があたりに満ち満ちた。
「もらったあっ!」
レンゲが歓声を上げ、獰猛な雄牛のようにダッシュする。
「急げ! 東病棟側通路から、第二陣!」
ベッドの柵を握った両手に力を込め、ぐいっと前に押し出すと、先生が蓮月の背中に向けてそう警告を発した。
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