異世界病棟

戸影絵麻

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#43 発作

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 踏切の信号機みたいに、意識が警告を発し、狂おしく赤く明減する。
 とにか苦しい。
 いくら口を開けて一生懸命息を吸っても、肺まで空気が入ってこない。
 そんな状況だ。
「どうしようどうしよう」
 乙都がパニックになっている。
「颯太さん、大丈夫ですか? 颯太さん、しっかり!」 
 僕の鼻孔に酸素吸入器の管を差し直しながら、そんなひとり言をつぶやいている。
 見上げた白い天井に、いつのまにか、乙都が捨てたはずのあのヒトガタが貼りついている。
 さまざまな幅の長方形を組み合わせただけの、粗末な紙の人形だ。
 その股間から生えた三本目の足が、途中から捩じ切られ、血に染まっているように見えるのは僕の気のせいか。
 もしかして、あれは・・・。
 あの矢印みたいな三本目の足の表すものはー。
 息苦しさのあまり、僕はそれ以上思考を続けることができなくなった。
「く、苦しい・・・」
 大きく口を開けてのけぞった時、
「ええい、もう、こうなったら・・・」
 乙都が叫んで、僕の上に覆い被さってきた。
 弾力のある胸が僕の痩せた胸におしつけられたかと思うと、温かく湿ったもので口を塞がれた。
 気管に、ほのかに甘い香りのする息が吹き込まれる。
 乙都が僕を抱きしめ、人工呼吸を始めたのだ。
 その効果は覿面だった。
 すぐに、あれほど苦しかった肺が、嘘のように楽になった。
 視界が戻ってくる。
 乙都の頭越しに、天井が見える。
 が、あの紙人形の姿はすでにそこにはなかった。
 助かった。
 わけもなく、僕はそう直感した。
 呪い?
 混濁する意識の隅でちらっとそう思った。
 その呪いを、乙都が捨て身の人工呼吸で解いてくれたというわけか?
「うはあ、やるじゃん、オト」
 乙都は無我夢中で僕の口に息を吹き込んでいる。
 そこにぬっと現れた蓮月が、目を真ん丸にしてつぶやいた。
「レンゲちゃん、先生、呼んできて」
 顏を上げると、それには取り合わず、乙都が突き詰めた声で言った。
「颯太さんの様子が変なの。危機は脱したみたいだけど、急いで」




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