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#42 メッセージ
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「そういえば、レンゲちゃん、先生が、今晩は寮から出るなって。あなた、きのう一晩中いなかったでしょ」
ベッドを押しながら、乙都が蓮月に話しかけた。
「やばっ、もうバレてるのかよ! ゆうべは居酒屋でイケメン大学生と意気投合しちゃってさ、で、話弾んでついそのまま・・・」
蓮月が焦りを滲ませたひそひそ声で応えている。
「やっぱり、またそれね・・・」
ため息をつく乙都。
「だってしようがないじゃん、向こうから誘ってくるんだから」
「わかったから、今晩は外出禁止でお願い」
「ちぇ、どうせあれでしょ、イメトレの在宅研修。今流行のVRってやつ? まあ、あれはあれでスリルがあってやってる最中はけっこうおもろかったって記憶はうっすらあるんだけどね、ただ、終わった後どっと疲れるじゃん。しっかも、内容、ほとんど覚えてないっていうのにさ。だから、あれで本当に研修になってるのかって思うと、なんかかったるくて」
「そうなんだよね。私、きのうも参加したんだけど、中身全然覚えてなくって」
そう言いながら、乙都が僕のほうにちらりと目をやった。
VRを使ったイメージトレーニングの在宅研修?
今の看護師の研修というのは、そこまで進化しているということなのか。
エレベーターに乗せられ、病室のあるフロアに到着した。
廊下の表示を横目で見ると、ここは循環器内科西棟というところらしい。
院内地図もあり、それによると、この5階のフロアは、西側が循環器内科、東側が心臓外科の病棟に分かれていて、それぞれにナースステーションが設置されているようだ。
浴室、リハビリ室、車椅子用トイレ、いくつもの個室の前を通り、やっと一般病棟に入った。
507号室、というプレートが出ているのが、僕の病室だった。
部屋番号の下に、”由井颯太”と”KONDO”という二枚のネームプレートがはめ込まれている。
やはり、藤田氏の名前はない。
それに、どうして”コンドウサン”はローマ字表記なのか。
中に入ると、ガランとした病室の中、左手の”コンドウサン”のスペースだけカーテンがしまっていた。
「ミルク・・・、イルク・・・」
蓮月の接近がわかったのか、カーテンの向こうで黒い影が動き、あのつぶやきが始まった。
「あ、やば、コンド―のじいたんったら、またあたしのこと呼んでるわ」
「いいよ、行ってあげて。後は私ひとりでできるから」
「ありがと、ごめんね」
蓮月が僕のベッドを離れ、大きなお尻を左右に振りながら、”コンドウサン”のカーテンの中に入っていく。
「ミルク、ミルク、ミリュク!」
ナースコールが鳴り渡り、”コンドウサン”が何かを叩く音がそれに続く。
「はいはい、じいたんは、おっぱいが欲しかったんだよね。ちょっと待ってて。今吸わせてあげるから」
蓮月の明るい声に、乙都がぽっと頬を赤らめ、急いで僕のベッドを空きスペースに突っ込んだ。
後ろ手にさっとカーテンを引き、スリッパのつま先でベッドの足にロックをかける。
「ったく、もう!」
憤懣やるかたないといった様子で宙をにらんだ乙都の眼が、そこで突然大きく見開かれた。
「どうしたの?」
彼女の視線を追い、僕もそれに気づいた。
モニター画面に、奇妙なものが貼りつけてある。
紙でつくった人形だ。
不思議なのは、足が三本あることだった。
左右30度ほどに開いた二本の足の間に、矢印の形をした足がもう一本生えている。
「誰が、こんなことを・・・?」
乙都が、彼女らしくない乱暴な動作で、モニター画面から人形をむしり取った。
「何なの、それ?」
そう訊きかけた時である。
「うぐっ、ぐああああっ!」
僕はふいに心臓を鷲掴みにされるような息苦しさを覚えて、両手で喉をかきむしった。
ベッドを押しながら、乙都が蓮月に話しかけた。
「やばっ、もうバレてるのかよ! ゆうべは居酒屋でイケメン大学生と意気投合しちゃってさ、で、話弾んでついそのまま・・・」
蓮月が焦りを滲ませたひそひそ声で応えている。
「やっぱり、またそれね・・・」
ため息をつく乙都。
「だってしようがないじゃん、向こうから誘ってくるんだから」
「わかったから、今晩は外出禁止でお願い」
「ちぇ、どうせあれでしょ、イメトレの在宅研修。今流行のVRってやつ? まあ、あれはあれでスリルがあってやってる最中はけっこうおもろかったって記憶はうっすらあるんだけどね、ただ、終わった後どっと疲れるじゃん。しっかも、内容、ほとんど覚えてないっていうのにさ。だから、あれで本当に研修になってるのかって思うと、なんかかったるくて」
「そうなんだよね。私、きのうも参加したんだけど、中身全然覚えてなくって」
そう言いながら、乙都が僕のほうにちらりと目をやった。
VRを使ったイメージトレーニングの在宅研修?
今の看護師の研修というのは、そこまで進化しているということなのか。
エレベーターに乗せられ、病室のあるフロアに到着した。
廊下の表示を横目で見ると、ここは循環器内科西棟というところらしい。
院内地図もあり、それによると、この5階のフロアは、西側が循環器内科、東側が心臓外科の病棟に分かれていて、それぞれにナースステーションが設置されているようだ。
浴室、リハビリ室、車椅子用トイレ、いくつもの個室の前を通り、やっと一般病棟に入った。
507号室、というプレートが出ているのが、僕の病室だった。
部屋番号の下に、”由井颯太”と”KONDO”という二枚のネームプレートがはめ込まれている。
やはり、藤田氏の名前はない。
それに、どうして”コンドウサン”はローマ字表記なのか。
中に入ると、ガランとした病室の中、左手の”コンドウサン”のスペースだけカーテンがしまっていた。
「ミルク・・・、イルク・・・」
蓮月の接近がわかったのか、カーテンの向こうで黒い影が動き、あのつぶやきが始まった。
「あ、やば、コンド―のじいたんったら、またあたしのこと呼んでるわ」
「いいよ、行ってあげて。後は私ひとりでできるから」
「ありがと、ごめんね」
蓮月が僕のベッドを離れ、大きなお尻を左右に振りながら、”コンドウサン”のカーテンの中に入っていく。
「ミルク、ミルク、ミリュク!」
ナースコールが鳴り渡り、”コンドウサン”が何かを叩く音がそれに続く。
「はいはい、じいたんは、おっぱいが欲しかったんだよね。ちょっと待ってて。今吸わせてあげるから」
蓮月の明るい声に、乙都がぽっと頬を赤らめ、急いで僕のベッドを空きスペースに突っ込んだ。
後ろ手にさっとカーテンを引き、スリッパのつま先でベッドの足にロックをかける。
「ったく、もう!」
憤懣やるかたないといった様子で宙をにらんだ乙都の眼が、そこで突然大きく見開かれた。
「どうしたの?」
彼女の視線を追い、僕もそれに気づいた。
モニター画面に、奇妙なものが貼りつけてある。
紙でつくった人形だ。
不思議なのは、足が三本あることだった。
左右30度ほどに開いた二本の足の間に、矢印の形をした足がもう一本生えている。
「誰が、こんなことを・・・?」
乙都が、彼女らしくない乱暴な動作で、モニター画面から人形をむしり取った。
「何なの、それ?」
そう訊きかけた時である。
「うぐっ、ぐああああっ!」
僕はふいに心臓を鷲掴みにされるような息苦しさを覚えて、両手で喉をかきむしった。
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