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#39 検査の結果⑥
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そこから先はほとんど記憶にない。
ー20ml? すごいじゃない?
薄れゆく意識の片隅で、蓮月と乙都の会話を聴いたような気もする。
ー一般男性の一度の射精量は、2mlから6mlって言われてる。なのにいきなり20?
-とにかく私はこれを保管室に・・・。すぐ戻るからそれまでに病衣を着せておいてくれないかな。
-少しいたずらしていい? 若い男の子の躰、滅多に見られないからさ。
-だめだよ。また発作が起きたらどうするの?
-ちぇ、ケチ。
ガラガラ・・・。
派手な音を立てて、僕を乗せたベッドが通路を進んでいく。
点滴スタンドを杖代わりに歩いていた老人が、迷惑そうな顔をして道をあける。
何人もの看護師とすれ違う。
行き違う看護師たちの制服は、白、青、ピンクと三種類に分かれているが、黒はない。
白が正式な看護師、青が研修生、ピンクが配膳や清掃などのサポート役の職員だ。
広いスペースに出ると、乙都が業務用エレベーターの呼び出しボタンを押した。
ふたつ階を下り、桜色とベージュに壁が塗られた通路に出る。
『放射線造影センター』なる表示に沿って、蓮月と乙都がベッドを押していく。
二重扉が開くと、そこはさまざまな最新機器のひしめく、手術室みたいな部屋だった。
「遅いぞ、おまえたち。由井颯太だな。早く裸にして、即刻検査機にかけろ。我が院には現在、ホウジョウ部長がお見えだ。少しの遅延は許されない」
マスクで顔を隠した男性医師がふたりに命令する。
眼鏡以外、顔は見えないが、若そうなのに、ずいぶんと居丈高なしゃべり方をする男だ。
「はい、た、ただいま」
乙都がシーツをめくり上げ、僕の躰から病衣をはぎ取った。
「行くよ。おらよっと」
蓮月が勇ましいかけ声とともに、両腋に手を入れて僕を持ち上げた。
全裸でぶら下げられる僕。
股間から垂れ下がったペニスには、まだカテーテルが挿入されたままだ。
目の前にあるのは、中世の拷問器具のような物体である。
まさしく、”鉄の処女”。
人間の形をした、鋼鉄製の豆のさや、とでもいうべきか。
その中のヒト形の窪みに、蓮月が全裸の僕を横たえた。
と、代わって進み出た乙都が、コードの繋がった電極のようなものを僕の全身に貼りつけ始めた。
コードはみんな鉄の処女の蓋から生えている。
「準備完了です」
乙都が敬礼すると、
「よし」
医師がうなずき、蓮月にあごをしゃくってみせた。
蓮月が蓋に手をかけ、無造作に力をこめる。
人の形をした鋼鉄の蓋が落ちてきた。
がちゃり。
耳元で金属音が響き、僕は暗闇の中に閉じ込められた。
その瞬間、僕は本能的に身をすくめないではいられなかった。
なぜってー。
この不気味な棺桶の蓋の内側から、一斉に鋼鉄の針が飛び出てきそうな恐怖に襲われたからだった。
ー20ml? すごいじゃない?
薄れゆく意識の片隅で、蓮月と乙都の会話を聴いたような気もする。
ー一般男性の一度の射精量は、2mlから6mlって言われてる。なのにいきなり20?
-とにかく私はこれを保管室に・・・。すぐ戻るからそれまでに病衣を着せておいてくれないかな。
-少しいたずらしていい? 若い男の子の躰、滅多に見られないからさ。
-だめだよ。また発作が起きたらどうするの?
-ちぇ、ケチ。
ガラガラ・・・。
派手な音を立てて、僕を乗せたベッドが通路を進んでいく。
点滴スタンドを杖代わりに歩いていた老人が、迷惑そうな顔をして道をあける。
何人もの看護師とすれ違う。
行き違う看護師たちの制服は、白、青、ピンクと三種類に分かれているが、黒はない。
白が正式な看護師、青が研修生、ピンクが配膳や清掃などのサポート役の職員だ。
広いスペースに出ると、乙都が業務用エレベーターの呼び出しボタンを押した。
ふたつ階を下り、桜色とベージュに壁が塗られた通路に出る。
『放射線造影センター』なる表示に沿って、蓮月と乙都がベッドを押していく。
二重扉が開くと、そこはさまざまな最新機器のひしめく、手術室みたいな部屋だった。
「遅いぞ、おまえたち。由井颯太だな。早く裸にして、即刻検査機にかけろ。我が院には現在、ホウジョウ部長がお見えだ。少しの遅延は許されない」
マスクで顔を隠した男性医師がふたりに命令する。
眼鏡以外、顔は見えないが、若そうなのに、ずいぶんと居丈高なしゃべり方をする男だ。
「はい、た、ただいま」
乙都がシーツをめくり上げ、僕の躰から病衣をはぎ取った。
「行くよ。おらよっと」
蓮月が勇ましいかけ声とともに、両腋に手を入れて僕を持ち上げた。
全裸でぶら下げられる僕。
股間から垂れ下がったペニスには、まだカテーテルが挿入されたままだ。
目の前にあるのは、中世の拷問器具のような物体である。
まさしく、”鉄の処女”。
人間の形をした、鋼鉄製の豆のさや、とでもいうべきか。
その中のヒト形の窪みに、蓮月が全裸の僕を横たえた。
と、代わって進み出た乙都が、コードの繋がった電極のようなものを僕の全身に貼りつけ始めた。
コードはみんな鉄の処女の蓋から生えている。
「準備完了です」
乙都が敬礼すると、
「よし」
医師がうなずき、蓮月にあごをしゃくってみせた。
蓮月が蓋に手をかけ、無造作に力をこめる。
人の形をした鋼鉄の蓋が落ちてきた。
がちゃり。
耳元で金属音が響き、僕は暗闇の中に閉じ込められた。
その瞬間、僕は本能的に身をすくめないではいられなかった。
なぜってー。
この不気味な棺桶の蓋の内側から、一斉に鋼鉄の針が飛び出てきそうな恐怖に襲われたからだった。
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