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#34 検査の結果①
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「おはようございます」
控えめな声で目が覚めた。
この滋養に富んだ耳障りのいい声質は、乙都のものである。
目を開けると、カーテンが開いて、検査器具を抱えた乙都が入ってくるところだった。
小柄な彼女の肩越しに窓が見え、その向こうにまばゆい青空が広がっている。
無事、朝がやってきたのだ。
「よかった・・・」
乙都のナース服姿に、僕は心底から安堵の吐息を漏らした。
乙都は元に戻っていた。
少なくとも、今目の前に佇んでいるのは、あの小悪魔みたいなブラックナースではない。
気がつくと、僕は汗びっしょりだった。
ひどい夢を見たせいだ。
何重構造にも入り組んだ奇怪な夢・・・。
あれはいったい、なんだったのだろう?
「おかげんはどうですか?」
前かがみになって、乙都が訊く。
ナース服の胸ははちきれそうなほど膨らんでいて、サイズはあのブラックナースの時と同じらしい。
「身体のほうは異常なしだけど、変な夢、見ちゃって、なんか汗でべとべとなんだ・・・」
苦笑混じりに病衣の前をあおぐと、少し気の毒そうな表情になって、乙都が言った。
「きょうは午前中に検査なので、朝食抜きになっちゃいます。その分、少し時間が空きますから、あとでお身体お拭きにあがりましょうか」
「あ、ありがとう・・・」
「じゃ、体温と血圧、測りますねー」
乙都はてきぱきと僕の脇に体温計を差し、手首に血圧計をセットする。
そんな乙都の真剣そのものの表情を、何を考えるでもなく、ぼんやり眺めている時だった。
突然、隣のカーテンの向こうで、ざわめきが起こった。
「藤田さーん、朝食ですよー。って、あら? 藤田さん、どこへ行っちゃったのかしら?」
「トイレじゃないの? 退院するには、時間がまだ早すぎるでしょ?」
看護師同士がしゃべっている。
「でもおかしいなあ、心電図のモニター、外したままだよ。退院までは外しちゃだめって、言ってあるのに」
「1階の喫茶コーナーかコンビニかもね。帰ってきたら、注意してやんなきゃ」
藤田氏が、行方不明?
なんとなく、いやな予感がした。
藤田氏なら、ゆうべ、ユズハとかいう看護師と密会するために、病室を抜け出したはずである。
もしかして、僕同様、彼の身にも何かがあったのだろうか・・・。
控えめな声で目が覚めた。
この滋養に富んだ耳障りのいい声質は、乙都のものである。
目を開けると、カーテンが開いて、検査器具を抱えた乙都が入ってくるところだった。
小柄な彼女の肩越しに窓が見え、その向こうにまばゆい青空が広がっている。
無事、朝がやってきたのだ。
「よかった・・・」
乙都のナース服姿に、僕は心底から安堵の吐息を漏らした。
乙都は元に戻っていた。
少なくとも、今目の前に佇んでいるのは、あの小悪魔みたいなブラックナースではない。
気がつくと、僕は汗びっしょりだった。
ひどい夢を見たせいだ。
何重構造にも入り組んだ奇怪な夢・・・。
あれはいったい、なんだったのだろう?
「おかげんはどうですか?」
前かがみになって、乙都が訊く。
ナース服の胸ははちきれそうなほど膨らんでいて、サイズはあのブラックナースの時と同じらしい。
「身体のほうは異常なしだけど、変な夢、見ちゃって、なんか汗でべとべとなんだ・・・」
苦笑混じりに病衣の前をあおぐと、少し気の毒そうな表情になって、乙都が言った。
「きょうは午前中に検査なので、朝食抜きになっちゃいます。その分、少し時間が空きますから、あとでお身体お拭きにあがりましょうか」
「あ、ありがとう・・・」
「じゃ、体温と血圧、測りますねー」
乙都はてきぱきと僕の脇に体温計を差し、手首に血圧計をセットする。
そんな乙都の真剣そのものの表情を、何を考えるでもなく、ぼんやり眺めている時だった。
突然、隣のカーテンの向こうで、ざわめきが起こった。
「藤田さーん、朝食ですよー。って、あら? 藤田さん、どこへ行っちゃったのかしら?」
「トイレじゃないの? 退院するには、時間がまだ早すぎるでしょ?」
看護師同士がしゃべっている。
「でもおかしいなあ、心電図のモニター、外したままだよ。退院までは外しちゃだめって、言ってあるのに」
「1階の喫茶コーナーかコンビニかもね。帰ってきたら、注意してやんなきゃ」
藤田氏が、行方不明?
なんとなく、いやな予感がした。
藤田氏なら、ゆうべ、ユズハとかいう看護師と密会するために、病室を抜け出したはずである。
もしかして、僕同様、彼の身にも何かがあったのだろうか・・・。
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