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#26 夢、それとも…②
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カーテンに映る奇怪な影も、あちこちから沸き起こるうめき声も…。
夢にしては、妙にリアルだった。
天井や周囲の壁は、今や至る所が黒い染みで覆われ、四隅からどろどろと溶け始めているようだ。
夢なら醒めてほしい。
布団から目だけを出し、僕は切実に思う。
胸骨の奥で、駄目になりかけた心臓が、壊れた玩具みたいに不規則なリズムで波打っているのがわかる。
緊張のせいか、気がつくと、膀胱がぱんぱんに張っていた。
どうしよう。
ベッドから一歩も動けないのに…。
が、すぐに、カテーテルを挿入されているのを思い出した。
仕方ない。
このまま、するしかない。
下腹に力を入れる。
性器の中が熱くなる。
ひりつくような感覚とともに、尿道口から尿が染み出し、カテーテルの中を下っていく。
助かった。
なんとか排尿を完了し、天井を見上げていると、膀胱がしぼんだ分、今度は腹が痛くなってきた。
一難去ってまた一難、とはまさにこのことだった。
こみあげてきたのは、紛れもない、便意である。
考えてみると、ICUに入れられていた期間も含め、丸三日間、僕は排便をしていないのだ。
けれど、この状況で、いったいどうやってしろというのだろう?
僕は現在、確かに紙オムツをさせられた状態だ。
でも、正直、三日分の大便が、オムツの中におさまるとはとても思えない。
そんな状態で脱糞などしたら、ものすごい臭気が部屋中に漂うに決まっている。
そのような事態に陥ったら、相部屋の藤田氏やコンドウサンが黙っていないだろう。
特に、コンドウサン…。
さっきのがコンドウサンの影だとすると、あれはもう、人間とはいえないのではないか?
やはり、昼間垣間見た灰色の肌や異様な位置の眼は、錯覚や妄想ではなかったのだ。
あの人は、絶対に、おかしい・・・。
そのコンドウサンは、咆哮に呼ばれるようにして病室を出て行ったようだ。
でも、もし、戻ってきた時に、僕が糞尿の臭いを漂わせていたとしたらー。
それこそ、何をされるかわからない。
コンドウサンを唯一手なずけられる看護師見習いの蓮月も、さすがにこの時間には上がっているはずだ。
となるともう、これは絶体絶命というほかない。
こうなったら、最後の手段はー。
救いを求めるように僕は視線をめぐらせた。
サイドテーブルに、コードにつながったナースコールが置かれている。
乙都がいないこの時間帯、どんな看護師が詰めているのかはわからない。
でも、夢からいっこうに醒める気配がないのなら、夢の中でももうナースコールで看護師を呼ぶしかない。
そうすれば、夜勤の看護師が、車椅子でトイレまで連れて行ってくれるとか、なんとかしてくれるに違いない。
僕はコードを引っ張って、ナースコールを手元に引き寄せた。
初めて使うそれは、昼間となんだか形が変わっているような気がした。
昼間は縄跳びの握りみたいな形だったはずなのに、今はなぜか黒光りするゴツゴツの松茸に似た形状に変わっているのである。
これって…。
信じられなかった。
妙に卑猥な形のそれは、なんと、あり得ないことに、男根そのものを象っているらしい。
ボタンになっているのは、その亀頭部分なのだ。
ええい、ままよ。
思い切って、押してみた。
何が起こるにせよ、ちびるよりはマシだろうー。
そう必死で自分に言い聞かせながら・・・。
夢にしては、妙にリアルだった。
天井や周囲の壁は、今や至る所が黒い染みで覆われ、四隅からどろどろと溶け始めているようだ。
夢なら醒めてほしい。
布団から目だけを出し、僕は切実に思う。
胸骨の奥で、駄目になりかけた心臓が、壊れた玩具みたいに不規則なリズムで波打っているのがわかる。
緊張のせいか、気がつくと、膀胱がぱんぱんに張っていた。
どうしよう。
ベッドから一歩も動けないのに…。
が、すぐに、カテーテルを挿入されているのを思い出した。
仕方ない。
このまま、するしかない。
下腹に力を入れる。
性器の中が熱くなる。
ひりつくような感覚とともに、尿道口から尿が染み出し、カテーテルの中を下っていく。
助かった。
なんとか排尿を完了し、天井を見上げていると、膀胱がしぼんだ分、今度は腹が痛くなってきた。
一難去ってまた一難、とはまさにこのことだった。
こみあげてきたのは、紛れもない、便意である。
考えてみると、ICUに入れられていた期間も含め、丸三日間、僕は排便をしていないのだ。
けれど、この状況で、いったいどうやってしろというのだろう?
僕は現在、確かに紙オムツをさせられた状態だ。
でも、正直、三日分の大便が、オムツの中におさまるとはとても思えない。
そんな状態で脱糞などしたら、ものすごい臭気が部屋中に漂うに決まっている。
そのような事態に陥ったら、相部屋の藤田氏やコンドウサンが黙っていないだろう。
特に、コンドウサン…。
さっきのがコンドウサンの影だとすると、あれはもう、人間とはいえないのではないか?
やはり、昼間垣間見た灰色の肌や異様な位置の眼は、錯覚や妄想ではなかったのだ。
あの人は、絶対に、おかしい・・・。
そのコンドウサンは、咆哮に呼ばれるようにして病室を出て行ったようだ。
でも、もし、戻ってきた時に、僕が糞尿の臭いを漂わせていたとしたらー。
それこそ、何をされるかわからない。
コンドウサンを唯一手なずけられる看護師見習いの蓮月も、さすがにこの時間には上がっているはずだ。
となるともう、これは絶体絶命というほかない。
こうなったら、最後の手段はー。
救いを求めるように僕は視線をめぐらせた。
サイドテーブルに、コードにつながったナースコールが置かれている。
乙都がいないこの時間帯、どんな看護師が詰めているのかはわからない。
でも、夢からいっこうに醒める気配がないのなら、夢の中でももうナースコールで看護師を呼ぶしかない。
そうすれば、夜勤の看護師が、車椅子でトイレまで連れて行ってくれるとか、なんとかしてくれるに違いない。
僕はコードを引っ張って、ナースコールを手元に引き寄せた。
初めて使うそれは、昼間となんだか形が変わっているような気がした。
昼間は縄跳びの握りみたいな形だったはずなのに、今はなぜか黒光りするゴツゴツの松茸に似た形状に変わっているのである。
これって…。
信じられなかった。
妙に卑猥な形のそれは、なんと、あり得ないことに、男根そのものを象っているらしい。
ボタンになっているのは、その亀頭部分なのだ。
ええい、ままよ。
思い切って、押してみた。
何が起こるにせよ、ちびるよりはマシだろうー。
そう必死で自分に言い聞かせながら・・・。
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