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#21 隣人の秘密
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「藤田さん、起きてますか?」
看護師の足音が遠ざかるのを待って、我慢しきれず、僕はたずねた。
”近藤さん”側のカーテンの向こうからは、かすかないびきが聞こえてくる。
話しかけるなら、今だった。
左手のカーテンの向こうに影が動き、藤田さんがベッドの角度を変えて起き上がる気配がした。
「なんだ、ぼうず、聞いてたのか」
僕が要件を口にする前に、照れたような口調で、藤田さんが答えた。
「いいんですか? 夜は病室から外に出ちゃ、命が危ないんでしょう?」
揶揄するように突っ込んでやると、
「いいんだよ」
半ば捨て鉢な調子で、藤田さんが返してきた。
「おまえさんは見てないから知らないだろうが、ユズハは本当にいい女なんだ。彼女に会ったが最後、男なら一度は抱きたいと、そう願うほどのな」
「ユズハって、さっき来てた看護師さんですよね?」
「ああ、そうだ。この二週間、ずっと俺の世話をしてくれてな、やっと最近、キスまで許してくれるようになったんだ。あと、胸を触るのも…」
「だからと言って、夜間外出なんて・・・。自分で夜は危険だとか、言ってませんでしたっけ」
「そりゃ、深夜の病棟は危険さ。それは間違いないんだ。ただな、やり方によっちゃ、やつらの目をくらますことは、不可能じゃない。まず、やつらはある程度体温が高い者にしか反応しない。あと、ある種の消毒液が嫌いだから、それがある地点まで行けば、何匹来ようともう怖くないのさ」
「なんですか…? その、”やつら”って?」
「やつらはやつらだよ。それしか呼びようがない」
「その特殊な消毒液ってのは、どこにあるんです?」
「んー、教えてやりたいのはやまやまだけどな、誰かの耳に入って、昼間のうちに撤去されたら大変なことになる。まあ、歩けるようになったら、おまえさんが自分で見つけるんだな」
「そんなこと言わないで、教えてくださいよ」
なおも取りすがろうとした時だった。
グルルルル…。
突然、足元のカーテンの向こうから、猛獣の唸り声みたいな不気味な声がした。
”近藤さん”だ。
”近藤さん”が目を覚ましたのだ。
「やべ。もう寝るぞ」
藤田さんがつぶやき、それっきり静かになった。
くそ。
何が何だかわかんないけど、もう少しだったのに。
こうなると、僕もまた、蒲団の中に潜り込むしかなかった。
看護師の足音が遠ざかるのを待って、我慢しきれず、僕はたずねた。
”近藤さん”側のカーテンの向こうからは、かすかないびきが聞こえてくる。
話しかけるなら、今だった。
左手のカーテンの向こうに影が動き、藤田さんがベッドの角度を変えて起き上がる気配がした。
「なんだ、ぼうず、聞いてたのか」
僕が要件を口にする前に、照れたような口調で、藤田さんが答えた。
「いいんですか? 夜は病室から外に出ちゃ、命が危ないんでしょう?」
揶揄するように突っ込んでやると、
「いいんだよ」
半ば捨て鉢な調子で、藤田さんが返してきた。
「おまえさんは見てないから知らないだろうが、ユズハは本当にいい女なんだ。彼女に会ったが最後、男なら一度は抱きたいと、そう願うほどのな」
「ユズハって、さっき来てた看護師さんですよね?」
「ああ、そうだ。この二週間、ずっと俺の世話をしてくれてな、やっと最近、キスまで許してくれるようになったんだ。あと、胸を触るのも…」
「だからと言って、夜間外出なんて・・・。自分で夜は危険だとか、言ってませんでしたっけ」
「そりゃ、深夜の病棟は危険さ。それは間違いないんだ。ただな、やり方によっちゃ、やつらの目をくらますことは、不可能じゃない。まず、やつらはある程度体温が高い者にしか反応しない。あと、ある種の消毒液が嫌いだから、それがある地点まで行けば、何匹来ようともう怖くないのさ」
「なんですか…? その、”やつら”って?」
「やつらはやつらだよ。それしか呼びようがない」
「その特殊な消毒液ってのは、どこにあるんです?」
「んー、教えてやりたいのはやまやまだけどな、誰かの耳に入って、昼間のうちに撤去されたら大変なことになる。まあ、歩けるようになったら、おまえさんが自分で見つけるんだな」
「そんなこと言わないで、教えてくださいよ」
なおも取りすがろうとした時だった。
グルルルル…。
突然、足元のカーテンの向こうから、猛獣の唸り声みたいな不気味な声がした。
”近藤さん”だ。
”近藤さん”が目を覚ましたのだ。
「やべ。もう寝るぞ」
藤田さんがつぶやき、それっきり静かになった。
くそ。
何が何だかわかんないけど、もう少しだったのに。
こうなると、僕もまた、蒲団の中に潜り込むしかなかった。
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