異世界病棟

戸影絵麻

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#10 乙都の同期

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 気まずい沈黙が下りた。
 目を伏せる乙都。
 長い睫毛が柔らかそうな頬に影を落としている。
 気を取り直して、僕はこちらから尋ねることにした。
「そもそも、この病院、何県何市にある、なんて名前のところなの?」
「それは…」
 乙都が答えたのは、東海地方の県と、政令指定都市の中のひとつだった。
「病院の名は、第二黒十字病院です。ここは大学の多い文教地区で、私の通う看護学校もすぐ近くにあります。ちなみに隣が青葉台霊園って広い墓地になっています」
「青葉台霊園・・・?」
 隣が墓地・・・?
 むう、いやなことを聞いてしまった。
 ともあれ、そういうことなら、僕の住んでいたマンションも、同じ市内にある公算が高いはずだ。
 ”近藤さん”側のカーテンが開いたのは、その時だった。
「近藤さん、お大事にね」
 現れたのは、乙都と同じ、青い見習いのナース服を身に着けた若い女性である。
 ただ、びっくりするほど体格がいい。
 とても乙都と同い年とは思えないほど、すべてにおいてボリューミーだった。
 丸顔はピンク色に上気し、砲弾みたいに突き出た胸を、ナース服を突き破らんばかりに激しく上下させている。
 僕の疑惑を証明するかのように、服の前ボタンが第二ボタンまではずれて、深い胸の谷間がのぞいていた。
「あ、蓮月ちゃん、そこにいたんだ」
 出てきたグラマーを見て、乙都が目を丸くした。
「えへへ、また呼ばれちゃったからね」
「そういえば、近藤さんのところ、ナースコール、鳴りっぱなしだったもんね」
「ごめん、ちょっとトイレ行っててさ。それより、その子が、きょう新しく来た・・・?」
 大女が僕のスペースに入ってきて、僕を一瞥するなり、破顔した。
「うそ、いいじゃんいいじゃん!やったね、オト! ジジババばっかのこの病棟で、マジ掃き溜めに鶴じゃんか」

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