10 / 88
#9 あいまいな記憶
しおりを挟む
顏から血の気が引くのが分かった。
覚えていない。
名前と年齢、そして通っていた学校名・・・。
それ以外の記憶が、出て来ないのだ。
住んでいたマンションがどんなところで、部屋も間取りがどうで、どこにあったのかー。
学校だって、星辰高校って名前は覚えてるけど、そこは私立なのか公立なのか、男子校か共学校なのかー。
ICUで生死の境をさまよっていた時には、もっと色々覚えていた気がする。
それが時が経つうちにどんどん記憶が抜け落ちて行ってしまって・・・。
その上に、誰かがいい加減な記憶を貼りつけたみたいな感じだった。
乙都は、そんな僕の混乱に気づいたらしかった。
「覚えてないんですね?」
年下の僕に、丁寧語を使って、言った。
「発作を起こした時のことだけじゃなく、他のことも・・・?」
僕はうなずいた。
「うん…自分の名前と年齢、それから学校名・・・それ以外は、全部・・・」
「全部? まあ、突然の発作だったから、仕方ないとは思うけど…」
乙都の瞳に、気の毒そうな表情が浮かんだ。
でも、と思う。
瑞季女医は、僕のことを、心筋梗塞で運ばれたとか言っていたはずだ。
心筋梗塞って、確か心臓に行く血管が詰まる病気だったはず。
その心筋梗塞で、はたして記憶障害なんて、起こるものだろうか…。
「いいですよ。諸手続きは退院の日にしたっていいわけだし、入院費の支払いも。着替えも当分はその紙オムツと病衣で間に合いますから」
乙都の言葉で、僕はようやく気づいた。
僕が下半身に穿いているのは、パンツではなかった。
カッコ悪いことに、なんと、紙オムツなのだ。
「入院の時に着てた服は、私が洗濯しておきましたから、よくなったらそれを着ればいいです。症状が落ち着けば、記憶が戻るってことも十分考えられますから」
「そ、そうだね」
僕は気弱な笑みを口元に浮かべた。
「マジでさ、そうであってほしいよね」
覚えていない。
名前と年齢、そして通っていた学校名・・・。
それ以外の記憶が、出て来ないのだ。
住んでいたマンションがどんなところで、部屋も間取りがどうで、どこにあったのかー。
学校だって、星辰高校って名前は覚えてるけど、そこは私立なのか公立なのか、男子校か共学校なのかー。
ICUで生死の境をさまよっていた時には、もっと色々覚えていた気がする。
それが時が経つうちにどんどん記憶が抜け落ちて行ってしまって・・・。
その上に、誰かがいい加減な記憶を貼りつけたみたいな感じだった。
乙都は、そんな僕の混乱に気づいたらしかった。
「覚えてないんですね?」
年下の僕に、丁寧語を使って、言った。
「発作を起こした時のことだけじゃなく、他のことも・・・?」
僕はうなずいた。
「うん…自分の名前と年齢、それから学校名・・・それ以外は、全部・・・」
「全部? まあ、突然の発作だったから、仕方ないとは思うけど…」
乙都の瞳に、気の毒そうな表情が浮かんだ。
でも、と思う。
瑞季女医は、僕のことを、心筋梗塞で運ばれたとか言っていたはずだ。
心筋梗塞って、確か心臓に行く血管が詰まる病気だったはず。
その心筋梗塞で、はたして記憶障害なんて、起こるものだろうか…。
「いいですよ。諸手続きは退院の日にしたっていいわけだし、入院費の支払いも。着替えも当分はその紙オムツと病衣で間に合いますから」
乙都の言葉で、僕はようやく気づいた。
僕が下半身に穿いているのは、パンツではなかった。
カッコ悪いことに、なんと、紙オムツなのだ。
「入院の時に着てた服は、私が洗濯しておきましたから、よくなったらそれを着ればいいです。症状が落ち着けば、記憶が戻るってことも十分考えられますから」
「そ、そうだね」
僕は気弱な笑みを口元に浮かべた。
「マジでさ、そうであってほしいよね」
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる