上 下
237 / 288
第8部 妄執のハーデス

#86 2回戦⑤

しおりを挟む
 杏里の容姿は、よほど見る者の嗜虐心をそそるようにできているらしい。
 マコトにも確か、同じような台詞を吐かれたような気がする。
 全身に殺気をまとったリサが、渾身の力をこめてチェーンをふるう。
 そのたびに杏里の白いレオタードが裂け、隠花植物の茎のように生白い肌があらわになる。
 床に転がって避けようとしたところを、背中に金属製の鞭を振り下ろされ、杏里は海老のように跳ねた。
 布地がすだれのように弾け、杏里はすでにほぼ全裸に近い状態だ。
 そこに更に鞭が振り下ろされ、柔らかな肌に赤い蚯蚓腫れを刻み込んでいく。
 気が遠くなるほどの激痛に、杏里は犬のように喘いでいる。
 普通なら、タナトスの防御本能が、閾値を超えたところで痛みを快感に転換するはずだ。
 だが、触手をはじめとする新たな機能と引き換えに、その機能を杏里は今や失ってしまっていた。
 それが、とてつもなく痛い。
 文字通り、痛くてならないのだ。
 金属製の小さなリングを数珠つなぎにしたリサのチェーンは、重いうえに当たるとダメージが大きかった。
 打たれたところからたちまち皮膚が裂け、その下の肉や脂肪が弾けてしまうのだ。
 全身血みどろになり、床を這う杏里。
 豊満な乳房にも、艶やかな尻にも、網の目のように真紅の筋が走り、どくどくと鮮血をあふれ出させている。
「さあ、とどめだよ」
 勝ち誇ったようにリサが言い、杏里の細い首にチェーンを巻きつけた。
 そのまま、両手にチェーンの端を絡めて、杏里をずるずると吊り上げにかかる。
 喉元深く金属の鞭が食い込み、杏里は苦しさのあまり声にならぬ悲鳴を上げた。
 鈍い音がして喉笛がつぶれ、ごぼっと口の中に血が溢れ出してきた。
 い、息が。
 で、できない…。
 チェーンの食い込んだところに、必死で爪を立てた。
 爪で肌を破り、そのすきまに指を突っ込もうとする。
 が、だめだった。
 チェーンは肉の中にあまりに深くめり込み過ぎていた。
 このままではいずれ、気管がつぶれ、脳に酸素が供給されなくなるだろう。
 タナトスの唯一の弱点は、脳である。
 体の器官の中で、脳だけは再生できないのだ。
 つまり、脳死状態に陥れば、杏里は死ぬ。
 それには別に頭部を破壊する必要はない。
 酸素を止めればそれで充分なのである。
「どうだ? 苦しいか?」
 杏里を己の顔すれすれまで引き寄せて、リサがあざ笑う。
「そのまま、緩慢に死んでいくんだね。この偽善者め」
 杏里のかすむ視界の隅に、ふいに明るいオレンジが飛び込んできたのはその時だ。
 リサの右耳の後ろ。
 耳たぶに隠れたあたりが、ぼんやりオレンジ色の微光を放っている。
 杏里は目を見開いた。
 見つけた。
 リサの性感帯。
 目を閉じ、触手をイメージする。
 乳首の先が熱くなり、身体からぬるりと何かが離脱していく感触。
 再び目を開けると、2本の触手がリサの腋の下を通って伸び上がり、背後でゆらゆら揺れていた。
 ‼
 気合とともに、片方の触手が舞い降りて、リサの耳の後ろに貼りついた。
 触手の先端は、媚薬成分を含んだ体液を吐き出す”口”になっている。
 その環形動物の口吻に似た器官が、リサの性感帯に吸着したのだ。
「ううっ」
 チェーンを操るリサの力が緩んだ。
 杏里は右手を伸ばし、その胸元をつかんだ。
 ハイネックの服を、力任せに引き破る。
 ボタンが跳ね飛び、白い胸元がのぞいた。
 案の定、服に隠れていた鎖骨の下あたりにも、オレンジの斑点が見えた。
 ためらわず、もう一本の触手でそこを攻撃する。
「な、何? こ、これ?」
 快感に体を小刻みに震わせながら、リサが叫ぶ。
 その手から乾いた音を立て、チェーンが落ちた。
 自分で服の前を開き、下着をずらして己の乳房をまさぐり始めるリサ。
 杏里の乳首から伸びた触手は、リサの2か所の性感帯をピンポイントで捕らえ、その皮膚の下深く潜り込んでいる。
 触手全体が規則正しく蠕動しているのは、杏里の体液をリサの体内に送り込んでいる証拠だろう。
 それと同時に、杏里の身体では、凄まじい速さで修復作業が行われ始めていた。
 毛穴からにじみ出た防御液の作用で流血が止まり、徐々に傷口が塞がっていく。
 つぶれた喉が再生し、少しかすれてはいるものの、なんとか声を出せるところまで回復してきていた。
「タナトスである以上、あなたは、この快楽から、逃れられない」
 杏里は自分と同じ背丈のリサの首に、ゆっくりと両手をかけた。
「そして、その愉悦の中で、あなたは死ぬの」
 両手にぐっと力を籠める。
「ぐっ」
 リサの口から泡とともに薄桃色の舌が飛び出した。
 足元に崩れ落ちるリサ。
「逝きなさい」
 親指を喉にかけると、全身の力をその指に込めて、杏里はリサの気管をずぶずぶと押しつぶしにかかった。
 
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

処理中です...