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第8部 妄執のハーデス
#78 インターバル⑩
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「あんたたち、いつまでそこに突っ立ってるの? 朝食の準備、できてるよ」
手招きして、久美子が呼んだ。
「ああ、今行く」
由羅が杏里の肘を取り、身体の向きを変えさせると、テーブルのほうへと歩き出した。
朝食は、和食・洋食・中華ごちゃまぜのバイキングだった。
壁際のテーブルには料理が並び、それぞれに係の女性従業員がついている。
何品かの料理を皿に盛り、トレイに乗せて、杏里と由羅は久美子の前に腰をかけた。
「まずは、勝ち抜いておめでとう、だね」
オレンジジュースの入ったグラスをかかげ、久美子が微笑んだ。
「そっちこそ」
不愛想に由羅が言い、それでも一応久美子の乾杯につき合って、4人、カチンとグラスを合わせた。
その様子を、野球帽をかぶった相田ももがにこにこ眺めている。
「けっこう大変だったんだよ」
オレンジジュースに口をつけると、久美子が肉厚の肩をすくめてみせた。
「ビアンカのステルス、半端なくてさあ、慣れるまでぜんぜん見えないの。だから最初の10分はもうボコボコ」
なるほど、と杏里は思った。
久美子の四角い顔のあちこちに、絆創膏が貼ってあるのは、そういうわけか。
「ただね。影は隠せないから。それに気づいてからは、早かったね」
口をはさんだのは、ももである。
初めて聞くその声は、コロコロしていて、なんとも可愛らしい。
「そっちは? マコトは、どうだった?」
久美子に訊かれ、由羅が渋い顔をした。
「あいつ、隠してた右手が武器だったんだ。でっかい、ヒグマの前足みたいな手をしてたよ。この杏里がいなかったら、うちは間違いなく、死んでいた」
「この子、優秀なタナトスなんだね」
久美子が杏里を見つめて、しみじみとした口調で言った。
恥ずかしくなり、首をすくめる杏里。
「いい相棒に恵まれて、あたしたち、お互い幸せかもね」
「まさしく、その通り。うちも、その意見には賛成だ。ただ、問題は次だな」
由羅が、探るようなまなざしで、久美子を見つめた。
「柚木たちが負けたの、知ってるだろ?」
久美子が目を伏せる。
心なしか、頬がささくれ立って、紙のように白い。
「すごい爆発音がしてさ。それに、会場が変わったってあのアナウンスだろ? どうしたんだろうと思って、ももとふたり、見に行ったら…」
「B3の体育館、扉が吹っ飛んで、床が真っ黒に焦げてたよ」
と、これはもも。
「うちらも、見た。あれは、柚木の断末魔の悲鳴さ。体育館の中では、美晴がバラバラにされていた」
「美晴が…?」
久美子が、よりいっそう、青ざめる。
「そう」
由羅がうなずいた。
「だから十分気をつけな。次はあんたたちがXと当たる番なんだろう? あいつは悪魔だ。常識は通用しない」
「由羅、あんた、Xを知ってるの?」
テーブルの上に、久美子が身を乗り出してくる。
だが、由羅は答えなかった。
手招きして、久美子が呼んだ。
「ああ、今行く」
由羅が杏里の肘を取り、身体の向きを変えさせると、テーブルのほうへと歩き出した。
朝食は、和食・洋食・中華ごちゃまぜのバイキングだった。
壁際のテーブルには料理が並び、それぞれに係の女性従業員がついている。
何品かの料理を皿に盛り、トレイに乗せて、杏里と由羅は久美子の前に腰をかけた。
「まずは、勝ち抜いておめでとう、だね」
オレンジジュースの入ったグラスをかかげ、久美子が微笑んだ。
「そっちこそ」
不愛想に由羅が言い、それでも一応久美子の乾杯につき合って、4人、カチンとグラスを合わせた。
その様子を、野球帽をかぶった相田ももがにこにこ眺めている。
「けっこう大変だったんだよ」
オレンジジュースに口をつけると、久美子が肉厚の肩をすくめてみせた。
「ビアンカのステルス、半端なくてさあ、慣れるまでぜんぜん見えないの。だから最初の10分はもうボコボコ」
なるほど、と杏里は思った。
久美子の四角い顔のあちこちに、絆創膏が貼ってあるのは、そういうわけか。
「ただね。影は隠せないから。それに気づいてからは、早かったね」
口をはさんだのは、ももである。
初めて聞くその声は、コロコロしていて、なんとも可愛らしい。
「そっちは? マコトは、どうだった?」
久美子に訊かれ、由羅が渋い顔をした。
「あいつ、隠してた右手が武器だったんだ。でっかい、ヒグマの前足みたいな手をしてたよ。この杏里がいなかったら、うちは間違いなく、死んでいた」
「この子、優秀なタナトスなんだね」
久美子が杏里を見つめて、しみじみとした口調で言った。
恥ずかしくなり、首をすくめる杏里。
「いい相棒に恵まれて、あたしたち、お互い幸せかもね」
「まさしく、その通り。うちも、その意見には賛成だ。ただ、問題は次だな」
由羅が、探るようなまなざしで、久美子を見つめた。
「柚木たちが負けたの、知ってるだろ?」
久美子が目を伏せる。
心なしか、頬がささくれ立って、紙のように白い。
「すごい爆発音がしてさ。それに、会場が変わったってあのアナウンスだろ? どうしたんだろうと思って、ももとふたり、見に行ったら…」
「B3の体育館、扉が吹っ飛んで、床が真っ黒に焦げてたよ」
と、これはもも。
「うちらも、見た。あれは、柚木の断末魔の悲鳴さ。体育館の中では、美晴がバラバラにされていた」
「美晴が…?」
久美子が、よりいっそう、青ざめる。
「そう」
由羅がうなずいた。
「だから十分気をつけな。次はあんたたちがXと当たる番なんだろう? あいつは悪魔だ。常識は通用しない」
「由羅、あんた、Xを知ってるの?」
テーブルの上に、久美子が身を乗り出してくる。
だが、由羅は答えなかった。
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