激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【官能編】

戸影絵麻

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第8部 妄執のハーデス

#75 インターバル⑦

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「出来損ないで、悪かったわね」

 つい、口に出してそう言い返していた。

 杏里の異常に気づいたのか、舌を使っていた由羅の愛撫が、ぴたりと止まった。

 -ほう、また新しいスキルを習得したようだね。相手の性感帯を見破る能力かい? それは面白いー

 サイコジェニーの思念が、からかうような波動を帯びた。

 -だがね、杏里、そうしておまえは、だんだんと本来のタナトスのあるべき姿から遠のいていくんだ。それで自分が強くなったと思ったら、大間違いさ。最後に痛い目を見るよ。それだけは言っておくからねー

「あなたはどこにいるの? どうして見も知らぬ他人の私に、そんなことばかり言うの?」

 杏里の叫びに呼応するように、頭の中の”眼”が、再びぎょろりと動いた。

 なぜこの目は片方しかないのか。

 それに、この奇妙な瞳の色は、カラーコンタクトでもしているせいなのか。

 疑問がとめどもなく湧いてくる。

 -わからないのかい? それは残念だ。実はね、杏里、私はおまえがタナトスとして覚醒した時から、ずっとおまえを見守り続けてきたのだよ。正直、超優秀なタナトスだと期待していた時期もある。だからその分、今のおまえの姿が悲しくてならないのさ。自分を見失ったおまえのその傲慢な姿がねー

「私が傲慢? この私の、どこがそんなに傲慢だと言うの?」

 -いずれわかるよ。それに気づかなければ、おまえは間違いなく命を落とす。それが次の”試合”か、”決勝戦”でのことなのか、今の段階ではまだわからないけどねー

「待って。行かないで。教えて。何に気づけばいいって言うの? 私にどうしろと?」

 サイコジェニーの気配が遠ざかるのを感じて、杏里は懸命に叫んだ。

 が、相手はその問いに答える気はないようだった。

 別れの挨拶もなしに”眼”のイメージが希薄になる。

 そして、テレビ画面が暗くなるように、いきなりプツリと消えてしまった。

 -重人! 聞こえる?-

 その間隙を埋めるように、杏里は念じた。

 重人はこの建物の2階でメンテナンス中のはずだ。

 念じれば思いが届くかもしれない。

 ふと、そう思ったのだ。

 -今、またサイコジェニーが来たの。ねえ、彼女がどこにいるか、探し出して私に教えてくれない?-

 しばらく待ったが、重人からの返事はなかった。

 無理もない。

 杏里には精神感応の力はないのだ。

 重人の意識がこちらを向いていなければ、杏里の心の叫びが届くはずがない。

「おい、杏里、いったいどうしたんだ?」

 杏里の重い下半身を押しのけ、由羅が上体を起こした。

 乳液を塗りたくったように、顔じゅうが杏里の愛液で、てらてら光っている。

 固そうな両の乳房の谷間にも、透明な液体が糸を引いていた。

 杏里は、その由羅の肩にすがりついた。

 自身の豊かな乳房を由羅の固い蕾のような乳房に押しつけながら、興奮気味に言った。

「時々私にテレパシーで話しかけてくる女がいるの。重人は、サイコジェニーって呼んでた。どうもこの委員会本部のどこかにいるらしいんだけど、その女がまた、私の頭の中に、思念を送ってきたの」

「サイコジェニー? 陳腐な名前だな。外国人なのか?」

 憮然とした表情で、由羅が言う。

 エクスタシーを感じ始めていたところを邪魔されて、少し気分を害しているのかもしれなかった。

「ううん。たぶん、日本人だと思う。サイコジェニーっていうのは、昔のSFマンガから取ったニックネームなんだって」

 重人はそんなふうに説明してくれたけど、それがどんなマンガなのか、もちろん杏里は知りはしない。

「で、そいつ、なんて言ってきたんだ」

 由羅の問いに、杏里の顔がふいに歪んだ。

 大きな目から、涙の雫がぽろぽろとあふれ出す。

「私が変わらなければ、次か、その次の戦いで、私たち、負けるって」

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