226 / 288
第8部 妄執のハーデス
#75 インターバル⑦
しおりを挟む
「出来損ないで、悪かったわね」
つい、口に出してそう言い返していた。
杏里の異常に気づいたのか、舌を使っていた由羅の愛撫が、ぴたりと止まった。
-ほう、また新しいスキルを習得したようだね。相手の性感帯を見破る能力かい? それは面白いー
サイコジェニーの思念が、からかうような波動を帯びた。
-だがね、杏里、そうしておまえは、だんだんと本来のタナトスのあるべき姿から遠のいていくんだ。それで自分が強くなったと思ったら、大間違いさ。最後に痛い目を見るよ。それだけは言っておくからねー
「あなたはどこにいるの? どうして見も知らぬ他人の私に、そんなことばかり言うの?」
杏里の叫びに呼応するように、頭の中の”眼”が、再びぎょろりと動いた。
なぜこの目は片方しかないのか。
それに、この奇妙な瞳の色は、カラーコンタクトでもしているせいなのか。
疑問がとめどもなく湧いてくる。
-わからないのかい? それは残念だ。実はね、杏里、私はおまえがタナトスとして覚醒した時から、ずっとおまえを見守り続けてきたのだよ。正直、超優秀なタナトスだと期待していた時期もある。だからその分、今のおまえの姿が悲しくてならないのさ。自分を見失ったおまえのその傲慢な姿がねー
「私が傲慢? この私の、どこがそんなに傲慢だと言うの?」
-いずれわかるよ。それに気づかなければ、おまえは間違いなく命を落とす。それが次の”試合”か、”決勝戦”でのことなのか、今の段階ではまだわからないけどねー
「待って。行かないで。教えて。何に気づけばいいって言うの? 私にどうしろと?」
サイコジェニーの気配が遠ざかるのを感じて、杏里は懸命に叫んだ。
が、相手はその問いに答える気はないようだった。
別れの挨拶もなしに”眼”のイメージが希薄になる。
そして、テレビ画面が暗くなるように、いきなりプツリと消えてしまった。
-重人! 聞こえる?-
その間隙を埋めるように、杏里は念じた。
重人はこの建物の2階でメンテナンス中のはずだ。
念じれば思いが届くかもしれない。
ふと、そう思ったのだ。
-今、またサイコジェニーが来たの。ねえ、彼女がどこにいるか、探し出して私に教えてくれない?-
しばらく待ったが、重人からの返事はなかった。
無理もない。
杏里には精神感応の力はないのだ。
重人の意識がこちらを向いていなければ、杏里の心の叫びが届くはずがない。
「おい、杏里、いったいどうしたんだ?」
杏里の重い下半身を押しのけ、由羅が上体を起こした。
乳液を塗りたくったように、顔じゅうが杏里の愛液で、てらてら光っている。
固そうな両の乳房の谷間にも、透明な液体が糸を引いていた。
杏里は、その由羅の肩にすがりついた。
自身の豊かな乳房を由羅の固い蕾のような乳房に押しつけながら、興奮気味に言った。
「時々私にテレパシーで話しかけてくる女がいるの。重人は、サイコジェニーって呼んでた。どうもこの委員会本部のどこかにいるらしいんだけど、その女がまた、私の頭の中に、思念を送ってきたの」
「サイコジェニー? 陳腐な名前だな。外国人なのか?」
憮然とした表情で、由羅が言う。
エクスタシーを感じ始めていたところを邪魔されて、少し気分を害しているのかもしれなかった。
「ううん。たぶん、日本人だと思う。サイコジェニーっていうのは、昔のSFマンガから取ったニックネームなんだって」
重人はそんなふうに説明してくれたけど、それがどんなマンガなのか、もちろん杏里は知りはしない。
「で、そいつ、なんて言ってきたんだ」
由羅の問いに、杏里の顔がふいに歪んだ。
大きな目から、涙の雫がぽろぽろとあふれ出す。
「私が変わらなければ、次か、その次の戦いで、私たち、負けるって」
つい、口に出してそう言い返していた。
杏里の異常に気づいたのか、舌を使っていた由羅の愛撫が、ぴたりと止まった。
-ほう、また新しいスキルを習得したようだね。相手の性感帯を見破る能力かい? それは面白いー
サイコジェニーの思念が、からかうような波動を帯びた。
-だがね、杏里、そうしておまえは、だんだんと本来のタナトスのあるべき姿から遠のいていくんだ。それで自分が強くなったと思ったら、大間違いさ。最後に痛い目を見るよ。それだけは言っておくからねー
「あなたはどこにいるの? どうして見も知らぬ他人の私に、そんなことばかり言うの?」
杏里の叫びに呼応するように、頭の中の”眼”が、再びぎょろりと動いた。
なぜこの目は片方しかないのか。
それに、この奇妙な瞳の色は、カラーコンタクトでもしているせいなのか。
疑問がとめどもなく湧いてくる。
-わからないのかい? それは残念だ。実はね、杏里、私はおまえがタナトスとして覚醒した時から、ずっとおまえを見守り続けてきたのだよ。正直、超優秀なタナトスだと期待していた時期もある。だからその分、今のおまえの姿が悲しくてならないのさ。自分を見失ったおまえのその傲慢な姿がねー
「私が傲慢? この私の、どこがそんなに傲慢だと言うの?」
-いずれわかるよ。それに気づかなければ、おまえは間違いなく命を落とす。それが次の”試合”か、”決勝戦”でのことなのか、今の段階ではまだわからないけどねー
「待って。行かないで。教えて。何に気づけばいいって言うの? 私にどうしろと?」
サイコジェニーの気配が遠ざかるのを感じて、杏里は懸命に叫んだ。
が、相手はその問いに答える気はないようだった。
別れの挨拶もなしに”眼”のイメージが希薄になる。
そして、テレビ画面が暗くなるように、いきなりプツリと消えてしまった。
-重人! 聞こえる?-
その間隙を埋めるように、杏里は念じた。
重人はこの建物の2階でメンテナンス中のはずだ。
念じれば思いが届くかもしれない。
ふと、そう思ったのだ。
-今、またサイコジェニーが来たの。ねえ、彼女がどこにいるか、探し出して私に教えてくれない?-
しばらく待ったが、重人からの返事はなかった。
無理もない。
杏里には精神感応の力はないのだ。
重人の意識がこちらを向いていなければ、杏里の心の叫びが届くはずがない。
「おい、杏里、いったいどうしたんだ?」
杏里の重い下半身を押しのけ、由羅が上体を起こした。
乳液を塗りたくったように、顔じゅうが杏里の愛液で、てらてら光っている。
固そうな両の乳房の谷間にも、透明な液体が糸を引いていた。
杏里は、その由羅の肩にすがりついた。
自身の豊かな乳房を由羅の固い蕾のような乳房に押しつけながら、興奮気味に言った。
「時々私にテレパシーで話しかけてくる女がいるの。重人は、サイコジェニーって呼んでた。どうもこの委員会本部のどこかにいるらしいんだけど、その女がまた、私の頭の中に、思念を送ってきたの」
「サイコジェニー? 陳腐な名前だな。外国人なのか?」
憮然とした表情で、由羅が言う。
エクスタシーを感じ始めていたところを邪魔されて、少し気分を害しているのかもしれなかった。
「ううん。たぶん、日本人だと思う。サイコジェニーっていうのは、昔のSFマンガから取ったニックネームなんだって」
重人はそんなふうに説明してくれたけど、それがどんなマンガなのか、もちろん杏里は知りはしない。
「で、そいつ、なんて言ってきたんだ」
由羅の問いに、杏里の顔がふいに歪んだ。
大きな目から、涙の雫がぽろぽろとあふれ出す。
「私が変わらなければ、次か、その次の戦いで、私たち、負けるって」
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
いつもと違う日常
k33
ホラー
ある日 高校生のハイトはごく普通の日常をおくっていたが...学校に行く途中 空を眺めていた そしたら バルーンが空に飛んでいた...そして 学校につくと...窓にもバルーンが.....そして 恐怖のゲームが始まろうとしている...果たして ハイトは..この数々の恐怖のゲームを クリアできるのか!? そして 無事 ゲームクリアできるのか...そして 現実世界に戻れるのか..恐怖のデスゲーム..開幕!
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

終焉の教室
シロタカズキ
ホラー
30人の高校生が突如として閉じ込められた教室。
そこに響く無機質なアナウンス――「生き残りをかけたデスゲームを開始します」。
提示された“課題”をクリアしなければ、容赦なく“退場”となる。
最初の課題は「クラスメイトの中から裏切り者を見つけ出せ」。
しかし、誰もが疑心暗鬼に陥る中、タイムリミットが突如として加速。
そして、一人目の犠牲者が決まった――。
果たして、このデスゲームの真の目的は?
誰が裏切り者で、誰が生き残るのか?
友情と疑念、策略と裏切りが交錯する極限の心理戦が今、幕を開ける。

女子切腹同好会
しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。
はたして、彼女の行き着く先は・・・。
この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。
また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。
マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。
世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。
オカルト嫌いJKと言霊使いの先輩書店員
眼鏡猫
ホラー
書店でアルバイトをする女子高生、如月弥生(きさらぎやよい)は大のオカルト嫌い。そんな彼女と同じ職場で働く大学生、琴乃葉紬玖(ことのはつぐむ)は自称霊感体質だそうで、弥生が発する言霊により悪いモノに覆われていると言う。一笑に付す弥生だったが、実は彼女には誰にも言えないトラウマを抱えていた。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる