激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【官能編】

戸影絵麻

文字の大きさ
上 下
219 / 288
第8部 妄執のハーデス

#68 1回戦⑤

しおりを挟む
 杏里の腋の下から、2本の触手が伸びたのは、その時だ。

 それが、防御本能のなせる業なのか、ただ単に快楽に反応して実体化したのか、そこまではわからない。

 ふと気がつくと、触手の1本はユウの細い首に絡みつき、もう1本は陰茎の根元に絡みついていた。

「ぐわあっ!」

 首とペニスを支点に、高々と宙に持ち上げられるユウ。

 ユウを持ち上げたまま、弧を描くように触手が動いた。

 ぐしゃっ。

 卵がつぶれるような音がして、床にさあっと鮮血が広がった。

 ユウを抱え上げた触手が、その身体を頭部から真っ逆さまに床に叩きつけたのだ。

 頭を潰されたユウの裸体が、どさりと床に落ちた。
 
 触手たちは、すでに杏里の体内に収納されている。

「何だと?」

 マコトのどんぐりまなこが、驚愕でいっぱいに見開かれる。

 と、それまでマコトの右手から死んだようにぶらさがっていた由羅が、ふいに素早い動きを見せた。

 下半身を持ち上げると、むき出しの生足を、だしぬけにマコトの首に絡みつかせたのである。

 腰のひとひねりで、由羅がマコトを床に引きずり倒す。

 顔をつかまれたまま、両腕をスィングバックすると、凄まじい勢いで手刀をマコトの胸板に叩き込んだ。

 骨の砕ける音がして、マコトの胸から血しぶきが飛び散った。

 由羅の手刀が、その薄い胸板をつき破ったのだ。

「がふっ」

 口から血の塊を吐き出して、マコトがごろりと仰向けになる。

 巨大な右手が開き、蜘蛛のような5本の指から由羅の頭部を解放した。

 顔中を朱に染め、立ち上がる由羅。

 軍用ブーツを履いた右足を振り上げると、渾身の力を込めてマコトの顔面を踏みつけた。

 頭蓋骨の割れる音が鳴り響き、大量の血液と砕けた豆腐のような白い脳漿が、あたり一面に飛び散った。

「由羅…」

 ユウの影響が消え、その頃にはようやく杏里も己を取り戻していた。

 裸のまま、立ち尽くす由羅のほうへと、よろめく足取りで歩いていく。

「杏里…済まない」

 由羅がその場にがっくりと跪いた。

「うちの負けだ…。マコトの力を、見くびりすぎていた…」

「いいの。勝ったんだから」

 杏里はその前に膝をつき、その豊かな胸で由羅を抱きしめた。

「さ、お部屋へ帰ろう。私が傷の手当て、してあげるから」

 由羅の血が、杏里の真っ白な乳房を染めていく。

「ありがとう…」

 由羅がつぶやいた。

 とその時、突然ガチャリと扉を開く音がした。

 振り返ると、担架を持った4人の作業服姿の男たちが、無言で体育館に入ってくるところだった。

 なんというタイミングのよさだろう。

 死んだふたりを、さっそく回収に来たのに違いない。

 ひとつ間違えば、今頃あれに乗せられるのは、私と由羅だったかもしれないのだ…。

 シーツに覆われ、担架で運び出されるふたりの死体を見送りながら、杏里は戦慄を禁じ得なかった。

 私は、またひとり、タナトスを殺してしまった。

 でも、そうしなければ、今回も、間違いなく、こちらが殺されていた。

 これが、戦いというものなのだ。

 でも、なんて空しい…。

 勝ったのに、この底抜けの虚しさは、いったい…何なのだろうか…?




 


#
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

いつもと違う日常

k33
ホラー
ある日 高校生のハイトはごく普通の日常をおくっていたが...学校に行く途中 空を眺めていた そしたら バルーンが空に飛んでいた...そして 学校につくと...窓にもバルーンが.....そして 恐怖のゲームが始まろうとしている...果たして ハイトは..この数々の恐怖のゲームを クリアできるのか!? そして 無事 ゲームクリアできるのか...そして 現実世界に戻れるのか..恐怖のデスゲーム..開幕!

終焉の教室

シロタカズキ
ホラー
30人の高校生が突如として閉じ込められた教室。 そこに響く無機質なアナウンス――「生き残りをかけたデスゲームを開始します」。 提示された“課題”をクリアしなければ、容赦なく“退場”となる。 最初の課題は「クラスメイトの中から裏切り者を見つけ出せ」。 しかし、誰もが疑心暗鬼に陥る中、タイムリミットが突如として加速。 そして、一人目の犠牲者が決まった――。 果たして、このデスゲームの真の目的は? 誰が裏切り者で、誰が生き残るのか? 友情と疑念、策略と裏切りが交錯する極限の心理戦が今、幕を開ける。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

オカルト嫌いJKと言霊使いの先輩書店員

眼鏡猫
ホラー
書店でアルバイトをする女子高生、如月弥生(きさらぎやよい)は大のオカルト嫌い。そんな彼女と同じ職場で働く大学生、琴乃葉紬玖(ことのはつぐむ)は自称霊感体質だそうで、弥生が発する言霊により悪いモノに覆われていると言う。一笑に付す弥生だったが、実は彼女には誰にも言えないトラウマを抱えていた。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...