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第8部 妄執のハーデス
#51 バトルロイヤル⑤
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ラウンジに入ってきたのは、まるで生徒会長を絵に描いたような印象の、姿見のいい学生服を着た少年。
そして、ひどく小柄なセーラー服姿の少女。
そのふたり連れだった。
「けっ、誰かと思ったら、柚木と美晴じゃねえかよ。なんでおまえらがこんなとこにいるんだ?」
由羅の手を振りほどき、マコトが喧嘩腰でふたりに食ってかかる。
「まあ、色々あってね」
外人のようなしぐさで肩をすくめてみせる少年。
「タナトスとパトスは連帯責任だから。僕は美晴のお守り役ってとこかな」
その脇で、美晴と呼ばれた少女が、居心地悪そうに体を縮こまらせた。
一応中学生らしくセーラー服を着てはいるが、ひどく幼い感じの娘である。
背も低く、胸も薄い。
おかっぱに切りそろえた髪に、折れそうなほど細い手足。
その童顔と貧弱な体つきは、ほとんど小学生といってもいいほどだ。
最初会った時のいずなと、雰囲気がそっくりだった。
だが、そのいずなよりさらに幼い感じがする。
まさか、この子が、タナトス?
杏里はいぶかしんだ。
性的魅力が、かけらもないのに?
それに、連帯責任って、どういうことだろう?
タナトスとパトスの一方だけが不適格でも、パートナーであるふたりともに、この研修が課せられる…。
そういう意味なのだろうか。
じゃあ、もしかして、私たちも…?
悪いのは私だけで、由羅には何の落ち度もないのだとしたら…。
腹の底から冷気が立ち上ってくるような感覚。
私が、由羅を巻き添えにした…?
その衝撃的な認識に杏里が思わず唇を噛んだ時、その由羅が先に口を開き、少年に話しかけた。
「おまえら、知り合いなのか?」
「まあね」
柚木と呼ばれた少年が、にたりと笑う。
「僕らのテリトリーは、もともと東京23区の中学校周辺だ。なんせ守備範囲が広いから、配属されてるユニットの数も多い。マコトはそのメンバーのひとりなんだけど、相棒のタナトスをここ1年ですでに3人殺しててね。だから今後そういうことにならないよう、男のユウが4人目のパートナーにあてられたんだけど、とにかく、後始末が大変だったんだ。あの頃は、僕らも委員会の面々も」
「何ぺちゃくちゃ余計なことしゃべってんだよ。しまいにゃ殺すぞ、てめえも」
「マ、マコトったら」
こめかみに青筋を立ててすごむマコトを、ユウが必死で止めている。
だが、柚木は、いっこうにひるむ気配がない。
「ほう、それは楽しみだ。僕もキミとは、そろそろ決着をつける頃だと思ってたんでね。君たちが最終ラウンドまで残っていてくれることを、心から願っているよ」
「くそ、このガキが」
「なおも殴りかかろうとするマコトを、
「やめろ。警官が来る」
由羅が低い声で叱責した。
警官と聞いて、さすがにマコトの動きが止まる。
杏里がほっと、安堵の息を吐いた時である。
また自動ドアが開いて、にぎやかな声と鮮やかな色彩が、ホールの中につむじ風のように飛び込んできた。
「大変だよみんな! 遅刻しちゃうよ!」
「まだ大丈夫だって! あと15分あるじゃない!」
「あーん、あたし、トイレ行きたいのにい!」
アイドルタレントのような衣装に身を包んだ、少女の3人組である。
タータンチェックの赤と黒の上着に、ミニ丈ののフレアスカート。
リボンとソックスの色までおそろいだ。
ホールの中央で急ブレーキをかけたように立ち止まると、真ん中のひとりが杏里たちに気づいて片手を挙げた。
「あー、ひょっとしてみなさん、あたしたちのお仲間ですかあ? あのう、知ってたら教えてほしいんですけどお、トイレってどっちですぅ?」
由羅がぽかんと口を開けた。
狂暴なマコトに対してはあれほど動じる様子を見せなかった柚木も、この状況にはさすがに驚いているようだ。
3人組?
杏里は茫然と少女たちを見つめた。
なんで3人なのだろう?
この研修、ヒュプノスまでもが対象になってるなんて、聞いていないのに…。
そして、ひどく小柄なセーラー服姿の少女。
そのふたり連れだった。
「けっ、誰かと思ったら、柚木と美晴じゃねえかよ。なんでおまえらがこんなとこにいるんだ?」
由羅の手を振りほどき、マコトが喧嘩腰でふたりに食ってかかる。
「まあ、色々あってね」
外人のようなしぐさで肩をすくめてみせる少年。
「タナトスとパトスは連帯責任だから。僕は美晴のお守り役ってとこかな」
その脇で、美晴と呼ばれた少女が、居心地悪そうに体を縮こまらせた。
一応中学生らしくセーラー服を着てはいるが、ひどく幼い感じの娘である。
背も低く、胸も薄い。
おかっぱに切りそろえた髪に、折れそうなほど細い手足。
その童顔と貧弱な体つきは、ほとんど小学生といってもいいほどだ。
最初会った時のいずなと、雰囲気がそっくりだった。
だが、そのいずなよりさらに幼い感じがする。
まさか、この子が、タナトス?
杏里はいぶかしんだ。
性的魅力が、かけらもないのに?
それに、連帯責任って、どういうことだろう?
タナトスとパトスの一方だけが不適格でも、パートナーであるふたりともに、この研修が課せられる…。
そういう意味なのだろうか。
じゃあ、もしかして、私たちも…?
悪いのは私だけで、由羅には何の落ち度もないのだとしたら…。
腹の底から冷気が立ち上ってくるような感覚。
私が、由羅を巻き添えにした…?
その衝撃的な認識に杏里が思わず唇を噛んだ時、その由羅が先に口を開き、少年に話しかけた。
「おまえら、知り合いなのか?」
「まあね」
柚木と呼ばれた少年が、にたりと笑う。
「僕らのテリトリーは、もともと東京23区の中学校周辺だ。なんせ守備範囲が広いから、配属されてるユニットの数も多い。マコトはそのメンバーのひとりなんだけど、相棒のタナトスをここ1年ですでに3人殺しててね。だから今後そういうことにならないよう、男のユウが4人目のパートナーにあてられたんだけど、とにかく、後始末が大変だったんだ。あの頃は、僕らも委員会の面々も」
「何ぺちゃくちゃ余計なことしゃべってんだよ。しまいにゃ殺すぞ、てめえも」
「マ、マコトったら」
こめかみに青筋を立ててすごむマコトを、ユウが必死で止めている。
だが、柚木は、いっこうにひるむ気配がない。
「ほう、それは楽しみだ。僕もキミとは、そろそろ決着をつける頃だと思ってたんでね。君たちが最終ラウンドまで残っていてくれることを、心から願っているよ」
「くそ、このガキが」
「なおも殴りかかろうとするマコトを、
「やめろ。警官が来る」
由羅が低い声で叱責した。
警官と聞いて、さすがにマコトの動きが止まる。
杏里がほっと、安堵の息を吐いた時である。
また自動ドアが開いて、にぎやかな声と鮮やかな色彩が、ホールの中につむじ風のように飛び込んできた。
「大変だよみんな! 遅刻しちゃうよ!」
「まだ大丈夫だって! あと15分あるじゃない!」
「あーん、あたし、トイレ行きたいのにい!」
アイドルタレントのような衣装に身を包んだ、少女の3人組である。
タータンチェックの赤と黒の上着に、ミニ丈ののフレアスカート。
リボンとソックスの色までおそろいだ。
ホールの中央で急ブレーキをかけたように立ち止まると、真ん中のひとりが杏里たちに気づいて片手を挙げた。
「あー、ひょっとしてみなさん、あたしたちのお仲間ですかあ? あのう、知ってたら教えてほしいんですけどお、トイレってどっちですぅ?」
由羅がぽかんと口を開けた。
狂暴なマコトに対してはあれほど動じる様子を見せなかった柚木も、この状況にはさすがに驚いているようだ。
3人組?
杏里は茫然と少女たちを見つめた。
なんで3人なのだろう?
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