激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【官能編】

戸影絵麻

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第8部 妄執のハーデス

#6 あり得ない 

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「失礼します」 

 職員室に入ると、杏里は教師たちの視線の集中砲火にさらされた。

 第2ボタンまではずし、ふくよかな胸の谷間を強調したブラウス。

 歩くだけでパンティが顔をのぞかせる、股下0センチに加工したマイクロミニ。

 どこにいても、杏里は目立つ。

 その愛くるしい顔立ちと相まって、エロスの限りを尽くした肢体は人目を惹かずにはいられないのだ。

 だから、杏里は視線に敏感である。

 教師たちの視線は、どちらかというと冷ややかだった。

 中には欲情剥き出しのものもあるにはあるが、敵意に近い波動を感じさせるものが大半を占めている。

 杏里は神聖な場に乱入した娼婦にでもなった気分だった。
 
 いたたまれずに立ち尽くしているところに、揉み手をした前原教頭がやってきた。

「おお、来たね。さ、こっちだ。校長室で、大山校長がお待ちだよ」

 職員室の奥の扉が、どうやら校長室に続いているようだった。

 スカートを手で押さえ、逃げるように教師たちの前を走り抜けると、杏里は前原の開けた扉の奥に飛び込んだ。

 その拍子に、鼻を刺す紫煙の向こうに立っていた恰幅のいい男が振り向いた。

 よく日に焼けた巨漢である。

 いかにもスポーツで鍛えたといった感じの厚い胸板を、高級そうなスーツで包んでいる。

 彫りの深い、日本人離れした顔立ちの中年男性だった。

 この人が、大山校長?

 モアイに似てる、と杏里は思った。

 なんだか、イースター島で避暑休暇を過ごして、ついさっき日本に帰ってきたばかりみたい。

「君が笹原君か」

 渋いバスで、巨漢が言った。

「前原君から話は聞いている。まあ、座りたまえ」

 テーブルをはさんで、ふかふかのソファがふたつ向かい合っている。

 お辞儀をして、言われるままその手前のひとつに腰かけると、いきなり尻が沈み込んで杏里は両足を持ち上げる格好になった。

 スカートがずり下がり、膝が開く。

 丸見えになった三角ゾーンに、校長の視線が容赦なく突き刺さってくるのがわかった。

 あわてて膝を閉じ、膝の上に両手を置く。

 そうすると今度は胸元が開いて、乳首ぎりぎりまで乳房が見えてしまう。

 杏里のブラは下乳を隠すだけの幅しかない。

 杏里の服装は、もともと人の目を惹きつけるように選んであるのだ。

「これはこれは…。美里先生も相当なタマだったが、君は若いだけに、それ以上のインパクトを持っているな」

 好色な表情を隠そうともせず、校長の大山が言った。

「はい、おっしゃる通りで。この子なら、校内の混乱を鎮めることができるかと」

 杏里の横に身体を擦りつけるようにして座ると、教頭の前原が下卑た声で横から口を出した。

「そうだな。私もそう思うよ」

 杏里の前に座った大山が、ぐっと身を乗り出してきた。

 煙草の匂いがすさまじい。

 灰皿に乗っているのは吸いかけの葉巻だった。

 大山の体臭は、この葉巻の匂いなのだ。

「だが、私は根が慎重なたちでね。まず、話をする前に、この子が本物のタナトスかどうか、試してみようと思うんだ。だから、悪いが、前原君、ちょっと席を外してくれないか」

 杏里をじっと見つめたまま、大山がにこりともせず、そう言った。

「え? 今からですか」
 
 うろたえ、腰を宙に浮かす前原。

「ああ。昼休みは短いからな。君は呼ぶまで外で待機しろ」

 前原の眼に傷ついたような色が浮かんだ。

 その貧相な顔に刻まれているのは、明らかな嫉妬だった。

「わ、わかりました」

 が、この小男には、上司の命令に逆らうという機能は皆無なのだろう。

 一礼すると、逃げるように校長室を飛び出していった。

「タナトスか」

 ふたりきりになると、大山の眼が露骨に情欲の炎をともした。

「久しぶりだ。本当に久しぶりだよ」

 腕をつかまれ引きずり上げられた。

 いやっ」

 強く抱きしめられ、杏里は首を振った。

「逆らうんじゃない」

 大山の手が、杏里の手首を握る。

 そのまま、ズボンの前に押しつけられた。

 硬かった。

 信じられないほど大きく固いものが、ズボンを押し上げてその存在を主張している。

 ブラウスを引きむしるように脱がされた。

 ブラジャーがたくし上げられ、飛び出したふたつの乳房を大きな手でいきなり握られた。

「どうだ。感じるだろう。おまえらは、こうされるのが好きなんだろう」

 肩を押され、無理やりひざまずかされた。

 頬に熱いものが当たった。

 見ると、それは大山のズボンの非常口から突き出た男根だった。

 節くれだった赤紫色の肉の棒が、縄のような青筋を立てて屹立しているのだ。

「舐めたいか。舐めたいだろう」

 杏里の首を押さえつけ、大山がうわ言のように言う。

 唇に触れるところまで、赤黒い亀頭が迫っている。

 強烈なアンモニアの匂いに、杏里は吐きそうになった。

「校長先生が、こんなことして、いいんですか?」

 迫りくる男根から顔を背け、杏里は抗議した。

 ひどい、と思う。

 こんなの、いくらなんでも、ひどすぎる。

「タナトスのくせに、いっぱしの口を利くんじゃない」

 大山が怒鳴った。

「おまえらは人間ですらないんだ。ましてや私の可愛い生徒でもない。自分でもわかってるだろう? おまえはただの道具なんだよ。人権もくそもないんだ。だからおまえみたいなケダモノには、これがお似合いってことさ」
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