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第6部 淫蕩のナルシス
#32 蜜色の夜
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リリーの部屋から出てすぐの右手の壁に、目立たない扉があった。
ガラスケースとリリーの部屋の間の、幅1mあるかないかの狭い隙間である。
「この地下室はかなり広くてね。その扉の向こうはは祖父の作業場だったの。徹夜で作業するときのための炊事場とトイレ、それからお風呂もついてるわ」
壁のボタンを押しながら、ヤチカがいった。
音もなく天井から厚いビロードのカーテンが下がってきて、左右のガラスケースをすっぽりと覆い隠す。
5人の少女が見えなくなり、杏里はほっと胸を撫で下ろした。
生きているときのままのポーズを取った少女たちはそれぞれに愛らしかったが、それが本物の表皮をかぶせられた石膏像だと知った今となっては、とても痛々しくて見ていられなかったのだ。
「でも、今はわたしの作業場だから、中に入るのはお勧めできないわね」
「ヤチカさんの作業場は、2階のあのアトリエじゃないんですか?」
ヤチカの言葉に、杏里は小首をかしげて訊いた。
「そう、絵のほうはね。こっちは、いってみれば”少女像”をつくるための作業場だったの。扉の向こうには3Dプリンターもあるし、解体用の浴槽もあるから。まあ、今後は当分使わないだろうっていうか、正直使う気もないんだけれど」
杏里はぶるっと身を震わせた。
ヤチカはあの扉の向こうで少女の死体から皮を剥ぎ、一部を食べ、残りをトイレにでも流したのだろう。
「骨だけは1階の暖炉で焼いたけど、大半はあの中で作業終了ね。気が向くと、簡易ベッドを持ってきて、ここでセックスしたわ。で、相手が死んじゃったら、あっちの部屋に、って繰り返しだった気がする」
そこまでいって、杏里が震えていることに気づくと。
「あ、ごめんなさい、恐がらせちゃって。これだからわたし、外来種だなんていわれるのよね」
すまなさそうな表情を顔に浮かべ、杏里の肩を背後からそっと抱いてきた。
「どうするんですか? これから」
ヤチカに支えられるようにして急な階段を上がりながら、杏里はたずねた。
「この先も、満月になるたびに女の子たちをナンパして、ここへ連れ込むつもりなんですか?」
「ううん」
ヤチカが首を横に振った。
「いったでしょう? あの作業場はもう使わないって。杏里ちゃん、あなたに出会って、わたし、色々考えたんだ。その意味で、あなたと知り合えて本当によかったと思ってる」
地下室から1階に戻ると、ようやく現実の世界に帰ってきたような気がして、杏里は体中の緊張がほぐれていくのを感じた。
「寝室は2階よ。アトリエで寝るわけじゃないから、安心して」
ビロードの真紅のカーペットを敷き詰めた幅の広い階段が、ゆるいカーブを描きながら吹き抜けの2階へと続いている。
階段の手摺の装飾といい、高い天井のステンドグラスといい、ヤチカの屋敷はいかにも中世のヨーロッパ風で、どこもかしこも異国情緒たっぷりだ。
が、杏里にはそれがゴシック調なのかロココ調なのか、はたまたバロック調なのか、さっぱり見当がつかなかった。
2階の通廊には扉が2つあり、手前の大きいほうががさっき一度入ったアトリエのものだった。
ヤチカはその前を通り過ぎると、奥の扉の前で立ち止まり、ノブを握った。
「独身アラサーの部屋だから、狭くて散らかってるけど、我慢してね」
中はヤチカの言葉とは裏腹に、きちんと整っていて清潔な印象だった。
左手の壁にセミダブルのベッド。
正面の窓の前に机。
右手の壁には背の高い本棚。
さすがに本職の画家らしく、古典画家の画集からイラスト関係のポーズ集、デッサン集、アニメの原画集、風景写真の本など、絵に関する書物がぎっしりと詰まっている。
「子どもの頃からお絵かきが好きでね、画集も学生時代、アルバイトしながらちょっとずつ買い溜めてたら、いつのまにかこんなになっちゃった」
天井まで届く本棚を見上げて、ヤチカが横顔に笑みを浮べる。
「すごい・・・。うらやましいです。この本棚の中の本見てたら、時が経つのも忘れそう」
心底感嘆して、杏里はつぶやいた。
「杏里ちゃんも絵が好きなんだ」
うれしそうに目を細めるヤチカ。
「はい」
杏里はうなずいた。
「ヤチカさんが、その・・・普通の人だったら、どんなによかっただろうって、つい思っちゃいます」
「普通の人かあ」
ベッドの端に腰かけて、ヤチカがぼやいた。
「わたしはこれでも、充分ふつうのつもりだったんだけどなあ。杏里ちゃん、あなたに会うまではね」
しみじみとした口調でつぶやいて、夜の帳の降りた窓の外を見る。
「さっきの話の続きですけど」
思い切って、杏里はいった。
「もうすぐ満月ですよね。今度自分を抑え切れなくなったら、ヤチカさん、どうするつもりなんですか?」
そう、今夜が十三夜だとヤチカはいったのだ。
ということは、あさっての夜が、満月ということになる。
「黒野零って子に、賭けてみようと思うの」
短く、やチカが答えた。
「外来種は外来種同士、仲間うちでセックスすればいいんだんもんね。それで万が一、その子がわたしの子どもを孕んでくれたら、こんなうれしいことはないし、その前に殺されたらされたで、それはそれでいいんじゃないかしら。もう、あんな少女像、つくらなくても済むわけだから」
「ヤチカさん・・・」
「でも、きっと蟷螂(かまきり)のセックスって、愛のない殺伐としたものでしょうね。愛してるあまり、相手を食べちゃうって感じ、あまりしないもの」
そう、黒野零はメス蟷螂なのだ。
用が済んだら、やすやすとヤチカを殺してしまうに違いない。
「ヤチカさん、そんなにまでして、子ども、欲しいの?」
杏里は訊かずにはいられなかった。
外来種が、生きるうえで本能的に繁殖行為を優先しようとするのは、わからなくもない。
なにしろ極端に雌が少ないのだ。
チャンスを逃したら、種自体の存続が危ういのである。
だが、ヤチカにはそうした獣じみたところはほとんどなかった。
リピドーが限界を越え、『僕』が現れるまでは、ごく普通の知的な女性なのである。
「ほしいよ」
ヤチカがにっと笑う。
「わたし、赤ちゃんや、ちっちゃい子ども、見るのが大好きなのよ。たまに公園でね、若いママたちが子ども遊ばせてるのを一日中眺めてることがあるの。そんなときが、いちばん幸せかな」
「そうなんだ・・・・」
杏里はつぶやいた。
ますますヤチカを憎めなくなる。
赤ちゃん好きな人に、悪い人なんていない・・・。
つくづくそう思う。
ただ、問題は、杏里の知っている限りでは、外来種の赤子は可愛いどころか、完全な怪物だという点だった。
人間との間に生まれた雑種だから、あんなふうに狂っていたのかも知れない、とも思う。
しかし、だからといって、いくら真正の雌外来種でも、あの黒野零がまともな赤ん坊を産むとはとても思えなかった。
それこそ、本物の悪魔が生まれてきてしまうのではないか。
そんな気がしてならないのだ。
「ヤチカさん、両性具有なんでしょ? 自分の精子で妊娠することはできないの?」
零に会わせたくない一心で、荒唐無稽だとは思いつつも、杏里はいった。
ヤチカがぷっと吹き出した。
「人工授精の設備のある病院ならまだしも、ここでは無理よ。朝顔の自家受粉じゃないんだから、そんなに簡単にはいかないわ。第一それが可能なら、とっくの昔にやってるし」
「そうですよね・・・」
うなだれる杏里。
「とにかく、あとはリリーたちに任せて、わたしたちはもう休みましょう。洗面所はその扉。歯ブラシも予備があるから使ってね」
そういわれて初めて、杏里は自分が綿のように疲れきっているのを感じた。
本当に、きょうは色々なことがあったのだ・・・。
交代で歯を磨き、トイレを済ませると、部屋の明かりをオレンジ色の非常灯だけに落として、ヤチカがいった。
「ベッドはひとつしかないから、一緒に寝ましょ。大丈夫、あれだけ放出しちゃったから、『僕』はしばらく出てこないから」
「ヤチカさんって、二重人格なんですか? 『僕』のときは、男のほうが自分の本質だ、みたいなこと、いってたけど」
「まあ、種族保存本能の面からいえば、それは嘘じゃないけど、でも、女でいることのほうが多いかな。ナンパも女のわたしがしてたしさ。『わたし』と『僕』とで微妙に人格が変わるのも、確かかもね」
そんなことをいいながら、ヤチカはさりげなく杏里のTシャツに手をかけてくる。
「さ、脱いで。杏里ちゃんは、裸でなきゃだめ。わたしはあなたのすべすべでつるつるの肌が大好き。裸の杏里ちゃんと抱き合って寝られたら、きっといい夢見られると思うんだ」
抵抗する間もなく、杏里はパンティ一枚の姿にされた。
ヤチカは薄い絹のネグリジェを身にまとっている。
「とってもきれい」
つんと上を向いた杏里の乳房に指先でそうっと触れて、ヤチカが囁いた。
「お顔もよく見せてね」
両手で頬を挟まれた。
切れ長の目が、じっと覗き込んでくる。
「かわいいなあ」
ため息をつく。
「杏里ちゃんって、本当に可愛い。どうしてあなたが、私の伴侶じゃないの? なんだか泣きたい気分」
「ヤチカさん・・・」
いいかけた杏里の唇を、ヤチカの唇が塞いだ。
もつれるように、ベッドに倒れこむふたり。
ヤチカの指が、肌の上を這い回る。
丹念な愛撫だった。
全身が熱く火照り、恍惚の波が溢れ出す。
その朦朧とした意識の中で、杏里はふと、全然別のことを考えている自分に気づいていた。
-由羅、あなた、どこにいるの?
由羅の失踪と、黒野零。
重人もいっていたように、そのふたつには、何か関係がありそうな気がしてならないのだった。
ガラスケースとリリーの部屋の間の、幅1mあるかないかの狭い隙間である。
「この地下室はかなり広くてね。その扉の向こうはは祖父の作業場だったの。徹夜で作業するときのための炊事場とトイレ、それからお風呂もついてるわ」
壁のボタンを押しながら、ヤチカがいった。
音もなく天井から厚いビロードのカーテンが下がってきて、左右のガラスケースをすっぽりと覆い隠す。
5人の少女が見えなくなり、杏里はほっと胸を撫で下ろした。
生きているときのままのポーズを取った少女たちはそれぞれに愛らしかったが、それが本物の表皮をかぶせられた石膏像だと知った今となっては、とても痛々しくて見ていられなかったのだ。
「でも、今はわたしの作業場だから、中に入るのはお勧めできないわね」
「ヤチカさんの作業場は、2階のあのアトリエじゃないんですか?」
ヤチカの言葉に、杏里は小首をかしげて訊いた。
「そう、絵のほうはね。こっちは、いってみれば”少女像”をつくるための作業場だったの。扉の向こうには3Dプリンターもあるし、解体用の浴槽もあるから。まあ、今後は当分使わないだろうっていうか、正直使う気もないんだけれど」
杏里はぶるっと身を震わせた。
ヤチカはあの扉の向こうで少女の死体から皮を剥ぎ、一部を食べ、残りをトイレにでも流したのだろう。
「骨だけは1階の暖炉で焼いたけど、大半はあの中で作業終了ね。気が向くと、簡易ベッドを持ってきて、ここでセックスしたわ。で、相手が死んじゃったら、あっちの部屋に、って繰り返しだった気がする」
そこまでいって、杏里が震えていることに気づくと。
「あ、ごめんなさい、恐がらせちゃって。これだからわたし、外来種だなんていわれるのよね」
すまなさそうな表情を顔に浮かべ、杏里の肩を背後からそっと抱いてきた。
「どうするんですか? これから」
ヤチカに支えられるようにして急な階段を上がりながら、杏里はたずねた。
「この先も、満月になるたびに女の子たちをナンパして、ここへ連れ込むつもりなんですか?」
「ううん」
ヤチカが首を横に振った。
「いったでしょう? あの作業場はもう使わないって。杏里ちゃん、あなたに出会って、わたし、色々考えたんだ。その意味で、あなたと知り合えて本当によかったと思ってる」
地下室から1階に戻ると、ようやく現実の世界に帰ってきたような気がして、杏里は体中の緊張がほぐれていくのを感じた。
「寝室は2階よ。アトリエで寝るわけじゃないから、安心して」
ビロードの真紅のカーペットを敷き詰めた幅の広い階段が、ゆるいカーブを描きながら吹き抜けの2階へと続いている。
階段の手摺の装飾といい、高い天井のステンドグラスといい、ヤチカの屋敷はいかにも中世のヨーロッパ風で、どこもかしこも異国情緒たっぷりだ。
が、杏里にはそれがゴシック調なのかロココ調なのか、はたまたバロック調なのか、さっぱり見当がつかなかった。
2階の通廊には扉が2つあり、手前の大きいほうががさっき一度入ったアトリエのものだった。
ヤチカはその前を通り過ぎると、奥の扉の前で立ち止まり、ノブを握った。
「独身アラサーの部屋だから、狭くて散らかってるけど、我慢してね」
中はヤチカの言葉とは裏腹に、きちんと整っていて清潔な印象だった。
左手の壁にセミダブルのベッド。
正面の窓の前に机。
右手の壁には背の高い本棚。
さすがに本職の画家らしく、古典画家の画集からイラスト関係のポーズ集、デッサン集、アニメの原画集、風景写真の本など、絵に関する書物がぎっしりと詰まっている。
「子どもの頃からお絵かきが好きでね、画集も学生時代、アルバイトしながらちょっとずつ買い溜めてたら、いつのまにかこんなになっちゃった」
天井まで届く本棚を見上げて、ヤチカが横顔に笑みを浮べる。
「すごい・・・。うらやましいです。この本棚の中の本見てたら、時が経つのも忘れそう」
心底感嘆して、杏里はつぶやいた。
「杏里ちゃんも絵が好きなんだ」
うれしそうに目を細めるヤチカ。
「はい」
杏里はうなずいた。
「ヤチカさんが、その・・・普通の人だったら、どんなによかっただろうって、つい思っちゃいます」
「普通の人かあ」
ベッドの端に腰かけて、ヤチカがぼやいた。
「わたしはこれでも、充分ふつうのつもりだったんだけどなあ。杏里ちゃん、あなたに会うまではね」
しみじみとした口調でつぶやいて、夜の帳の降りた窓の外を見る。
「さっきの話の続きですけど」
思い切って、杏里はいった。
「もうすぐ満月ですよね。今度自分を抑え切れなくなったら、ヤチカさん、どうするつもりなんですか?」
そう、今夜が十三夜だとヤチカはいったのだ。
ということは、あさっての夜が、満月ということになる。
「黒野零って子に、賭けてみようと思うの」
短く、やチカが答えた。
「外来種は外来種同士、仲間うちでセックスすればいいんだんもんね。それで万が一、その子がわたしの子どもを孕んでくれたら、こんなうれしいことはないし、その前に殺されたらされたで、それはそれでいいんじゃないかしら。もう、あんな少女像、つくらなくても済むわけだから」
「ヤチカさん・・・」
「でも、きっと蟷螂(かまきり)のセックスって、愛のない殺伐としたものでしょうね。愛してるあまり、相手を食べちゃうって感じ、あまりしないもの」
そう、黒野零はメス蟷螂なのだ。
用が済んだら、やすやすとヤチカを殺してしまうに違いない。
「ヤチカさん、そんなにまでして、子ども、欲しいの?」
杏里は訊かずにはいられなかった。
外来種が、生きるうえで本能的に繁殖行為を優先しようとするのは、わからなくもない。
なにしろ極端に雌が少ないのだ。
チャンスを逃したら、種自体の存続が危ういのである。
だが、ヤチカにはそうした獣じみたところはほとんどなかった。
リピドーが限界を越え、『僕』が現れるまでは、ごく普通の知的な女性なのである。
「ほしいよ」
ヤチカがにっと笑う。
「わたし、赤ちゃんや、ちっちゃい子ども、見るのが大好きなのよ。たまに公園でね、若いママたちが子ども遊ばせてるのを一日中眺めてることがあるの。そんなときが、いちばん幸せかな」
「そうなんだ・・・・」
杏里はつぶやいた。
ますますヤチカを憎めなくなる。
赤ちゃん好きな人に、悪い人なんていない・・・。
つくづくそう思う。
ただ、問題は、杏里の知っている限りでは、外来種の赤子は可愛いどころか、完全な怪物だという点だった。
人間との間に生まれた雑種だから、あんなふうに狂っていたのかも知れない、とも思う。
しかし、だからといって、いくら真正の雌外来種でも、あの黒野零がまともな赤ん坊を産むとはとても思えなかった。
それこそ、本物の悪魔が生まれてきてしまうのではないか。
そんな気がしてならないのだ。
「ヤチカさん、両性具有なんでしょ? 自分の精子で妊娠することはできないの?」
零に会わせたくない一心で、荒唐無稽だとは思いつつも、杏里はいった。
ヤチカがぷっと吹き出した。
「人工授精の設備のある病院ならまだしも、ここでは無理よ。朝顔の自家受粉じゃないんだから、そんなに簡単にはいかないわ。第一それが可能なら、とっくの昔にやってるし」
「そうですよね・・・」
うなだれる杏里。
「とにかく、あとはリリーたちに任せて、わたしたちはもう休みましょう。洗面所はその扉。歯ブラシも予備があるから使ってね」
そういわれて初めて、杏里は自分が綿のように疲れきっているのを感じた。
本当に、きょうは色々なことがあったのだ・・・。
交代で歯を磨き、トイレを済ませると、部屋の明かりをオレンジ色の非常灯だけに落として、ヤチカがいった。
「ベッドはひとつしかないから、一緒に寝ましょ。大丈夫、あれだけ放出しちゃったから、『僕』はしばらく出てこないから」
「ヤチカさんって、二重人格なんですか? 『僕』のときは、男のほうが自分の本質だ、みたいなこと、いってたけど」
「まあ、種族保存本能の面からいえば、それは嘘じゃないけど、でも、女でいることのほうが多いかな。ナンパも女のわたしがしてたしさ。『わたし』と『僕』とで微妙に人格が変わるのも、確かかもね」
そんなことをいいながら、ヤチカはさりげなく杏里のTシャツに手をかけてくる。
「さ、脱いで。杏里ちゃんは、裸でなきゃだめ。わたしはあなたのすべすべでつるつるの肌が大好き。裸の杏里ちゃんと抱き合って寝られたら、きっといい夢見られると思うんだ」
抵抗する間もなく、杏里はパンティ一枚の姿にされた。
ヤチカは薄い絹のネグリジェを身にまとっている。
「とってもきれい」
つんと上を向いた杏里の乳房に指先でそうっと触れて、ヤチカが囁いた。
「お顔もよく見せてね」
両手で頬を挟まれた。
切れ長の目が、じっと覗き込んでくる。
「かわいいなあ」
ため息をつく。
「杏里ちゃんって、本当に可愛い。どうしてあなたが、私の伴侶じゃないの? なんだか泣きたい気分」
「ヤチカさん・・・」
いいかけた杏里の唇を、ヤチカの唇が塞いだ。
もつれるように、ベッドに倒れこむふたり。
ヤチカの指が、肌の上を這い回る。
丹念な愛撫だった。
全身が熱く火照り、恍惚の波が溢れ出す。
その朦朧とした意識の中で、杏里はふと、全然別のことを考えている自分に気づいていた。
-由羅、あなた、どこにいるの?
由羅の失踪と、黒野零。
重人もいっていたように、そのふたつには、何か関係がありそうな気がしてならないのだった。
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