激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【覚醒編】

戸影絵麻

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第3部 凶愛のエロス

#16 逆襲

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 コンセントから火花が散った。
 その瞬間、手術台に針金で縛りつけられた由羅が、びくんと跳ね上がった。
 壊れた人形のように全身をガクガク震わせ、
「うあああ」
 悲鳴を上げた。
 開いた太腿の間、股間を覆った白い布切れに、じわりと染みが広がっていく。
 交流電流だから、瞬時に人を焼き焦がすほど強くはない。
 が、それも程度問題だ。
 ずっと通電し続ければ、やがて脳が焼け、いくらパトスでもいずれは死んでしまうことだろう。
 そこまでする気はなかったが、かといってすぐやめるつもりもなかった。
 黒野零は、ポシェットから大きな裁断鋏を取り出した。
 ゆっくりと由羅に近づいていく。
 由羅は完全に白目を剝いていた。
 眼球がくるりと裏返り、毛細血管の走る裏側が見えている。
 頭や肩から白い煙が立ちのぼり始めていた。
 焦げ臭い匂いが鼻をつく。
 両手の指先がぴくぴく痙攣している。
 口から白い泡を吹いていた。
 ひどく嗜虐的な眺めだった。
 零の息遣いが荒くなる。
 自慰に耽りたくてたまらない。
 でも、と思う。
 まだ足りない。
 血が出ていないのだ。
 鋏を構えた。
「かわいいおまんこ」
 スカートの間を覗き込んで、つぶやいた。
 由羅のそこは無毛らしく、下着が濡れたせいで桜貝に似た性器の形がくっきりと浮かびあがっている。
「私が切り刻んであげる」
 パンティに手をかけた。
 そのとき、ふと零は違和感を覚えた。
 え?
 これって・・・。

 裸のまま。壁際に追いつめられた。
 自分も裸になった翔太がベッドに飛び乗り、不気味なペニスを揺らしながら近づいてくる。
「叫んでもむだだよ」
 にやにや笑いながらいった。
「隣は手術室と備品倉庫だ。今は誰もいないし、第一壁が厚くて、声が届かない」
「何する気なの? あなたが外来種なら、知ってるでしょ? わたしはあなたの子どもは産めないわ」
 シーツで前を隠して、必死に杏里は訴えた。
 あのときの恐怖が蘇る。
 激烈な快感の次に来たのは、内臓の破れるすさまじい痛みだった。
 外来種の生殖器は一種の凶器なのだ。
 相手の子宮を突き破り、体そのものを貫通してしまう。
 しかも、表面に鉤のような爪が生えているため、抜かれるときがまた痛い。
 下手をすると、内臓も一緒に引きずり出されてしまうのである。
「そんなことは百も承知さ」
 翔太が笑った。
 狂ったような眼をしていた。
「俺はただおまえとしたいだけだ。おまえにこれをつっこんで、思う存分かき回してやりたいだけなんだ」
「やめて」
 杏里は懇願した。
 せっかく事故の怪我が治りかけているというのに、ここでまた体を引き裂かれるのは願い下げ立った。
 いくら不死身に近いタナトスとはいえ、限度がある。
「死にたくなければ、大人しくしろ」
 翔太が杏里の両脇に手を差し入れた。
「俺はおまえの頭蓋をかち割って、脳みそを啜ることもできるんだぞ」
 杏里は反射的に頭を庇った。
 脳はタナトスの唯一の弱点だ。
 脳を損傷したときだけ、杏里は死ぬ。
 シーツが落ち、豊満な肉体が顕わになる。
 翔太がごくんと息を呑むのがわかった。
 奇怪な仙人掌のような形のペニスが、ぴんとそそり立ち、強度を増した。
 ふいに体が軽くなった。
 翔太が杏里を抱え上げたのだった。
 杏里を屹立したペニスの真上に高々とかざす。
 いきなり落とし、貫いた。
 杏里は絶叫した。
 めりめりと音を立てて長大なペニスが膣に分け入ってきた。
 何の前戯もない状態での挿入は、地獄だった。
 まったく濡れていないため、激痛しかなかった。
 杏里の体が防御のために、愛液を分泌し始めた。
 少しでも摩擦を減らすために、膣が潤い始めたのだ。
 タナトスの防御本能が発動したのだった。
 翔太はベッドの上で体を反転させると、壁に背を持たせかけ。脚を投げ出し、杏里をゆっくり上下に動かしにかかった。
「いい・・・」
 目を閉じ、恍惚とした表情を顔に浮かべている。
 杏里の股間から、どぼどぼと鮮血が溢れ出た。
 子宮の壁が破れ、大腸にまでペニスが侵入した証拠だった。
 痛い痛い痛い痛い痛い痛い!
 杏里は泣き叫んだ。
 愛液による防御も、内臓を守るまでには至らない。
 ペニスから突き出た鉤爪が、腹腔内を引っかきまわし、臓物を挽肉に変えようとしていた。
「由羅!」
 杏里は絶叫した。
「助けて! 由羅!」

 少女の股間に鋏を突き立てようとして、零は気づいた。
 -これ、おしっこじゃない。
 下着を濡らしているのは、てっきり電撃のショックで漏れた小便だと思っていた。
 だが、間近に見るとそうはなかった。
 -やだ。ひょっとして・・・・・この子、感じてる?
 その瞬間だった。
 気合いの入った怒号とともに、超弩級の強烈な蹴りが零の後頭部に炸裂した。
 零は吹っ飛んだ。
 リノリウムの床の上を滑って飛んで行き、戸口を塞いだキャビネットに激突した。
 薬品類の瓶を振り落としながら、重いキャビネットが倒れてきた。
 かろうじて顔を上げると、由羅が針金を引きちぎって立ち上がるところだった。
 回し蹴りを喰らったのだ、と気づいたときには、もう手遅れだった。
 零は重いキャビネットの下敷きになり、床に体を押しつけられていた。
 由羅が仁王立ちになって、零を見下ろしている。
 にやりと笑うと、いった。
「ひとつ教えといてやる。うちは、あいにくドMなんでね。いたぶられればいたぶられるほど、気持ちよくなるんだよ」
 髪の毛が、蝙蝠の翼のように左右に広がっている。
 上半身はほとんど裸だ。
 乳首にはまだ電気コードがつながったままだった。
「気持ちよすぎて、アドレナリン出過ぎて、ほら、濡れちまったじゃないか」
 パンティの前を見下ろして、ぼやいた。
「これじゃ、杏里のこと。笑えないよな」
 いいながら、巨大な手術台を高々と頭上に持ち上げる。
 信じがたいほどの馬鹿力だった。
「あばよ、化け物女」
 手術台を、軽々と放り投げた。
 耳障りな大音響とともに、零の全身を、凄絶な痛みが襲った。
 ヒューズが飛ぶように、意識が途切れ・・・・。
 やがて、深い闇が訪れた。
 
 キャビネットの下からはみ出した、長く黒い髪。
 その髪が、流れ出した血の海の中で生き物のように揺れている。
 それを一瞥すると、由羅は壁に向き直った。
 確か、こっちからだ。
 杏里の声がしたのは。
 耳を澄ます。
 由羅は耳がいい。
 視力、聴力とも人間の比ではない。
 音だけで、壁の向こうの様子が手に取るようにわかる。
 かすかに、ほんのかすかに荒々しい息遣いが聞こえてくる。
 それに混じって、杏里の泣き叫ぶ声。
 名前を呼んでいる。
 由羅の名前を。
 まだだ。
 更に耳を澄ます。
 ベッドのスプリングの軋む音、杏里の愛液が溢れる音。
 それに混じって、規則正しいリズムが響いてくる。
 これだ。
 近い。
 由羅の脳裏にイメージが像を結んだ。
 右手をバックスィングする。
「くらえ!」
 心臓の鼓動めがけ、全体重をかけてストレートを繰り出した。
 由羅の拳は分厚い壁を突き破り、そこにもたれていた翔太の背中を、背後からぶち抜いた。
 肋骨をへし折って、心臓を鷲掴みにする。
 思いっきり引き抜いた。
 由羅は、右手に翔太の心臓をつかんでいた。
 血にまみれた石榴のような、左右非対称の大きな肉塊である。
 それは、まだ生きてぴくぴく動いていた。
 目の前に掲げると、
「死ねよ」
 心臓に向かって、つぶやいた。
 そして、右手の中のその筋肉の塊を、おもむろに握りつぶした。
 


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