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第3部 凶愛のエロス
#13 点描
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だめだ。
腰を前後に緩やかに動かしながら、彼は思った。
この程度では、何の快感も得られない。
ただ苦い思いだけがこみ上げてくる。
目の前の女体は、あまりにも脆すぎる。
本気で突いたら、あっという間に死んでしまうことだろう。
あいつとやりたい。
そう、切に思う。
本来の姿に戻って、あいつを突きまくりたい。
一度だけ交わったときの、あの強烈な快感が懐かしい。
俺の分身に、文字通り体を串刺しにされても死ななかった、あいつ。
あの豊満な体、感度抜群の乳房、そして性器。
タナトス・・・・。
無意味な行為だとわかってはいる。
タナトスと交わっても、繁殖は不可能だ。
それどころか、彼らにとってある意味脅威でもある。
タナトスは罠なのだ。
しかし、一度あの味を知ってしまった以上、もう後には戻れない。
脆弱な人間の女などで、我慢できるはずがない。
彼は少女のやせた尻を押しのけると、濡れそぼった性器から肉棒を抜いた、
彼のそれは、ほとんど硬さを失っていた。
「もうやめちゃうの?」
喘ぎを中断して、壁に両手をついたまま、少女が振り返った。
非難のまなざしで、彼を睨みつけている。
改めて見ると、少女はあまりにも子どもだった。
本当なら、こんな行為が許される年齢ではない。
彼はげんなりした。
繁殖のためとはいえ、もう少し相手を選ぶべきだったかもしれない。
「うん、ちょっときょうは、気が乗らなくて・・・」
少女から視線をそらして、嘘の言い訳をする。
放課後の旧校舎。
人気のない一郭にある、備品倉庫の中である。
ズボンを履いていると、少女が全裸のまま、彼の前に立った。
「杏里のこと、考えてるんでしょ」
尖った口調で、詰問してきた。
彼は少女の薄い胸、少年のような腰、太腿の間の淡い茂みをぼんやりと眺めた。
受胎させるまでは、こんな体にも欲望を覚えたものだったが、今となっては何も感じない。
ただせがまれるから、お義理で相手をしてやっているだけだ。
「あの子は、どうせもうすぐ死ぬんだよ。なのにどうして毎日お見舞いに行ってるの? 隠したってダメ。知ってるんだから」
少女の声に憎しみの響きがこもる。
「死なないさ」
彼はそれだけつぶやくと、少女に背を向けた。
「タナトスは、不死身なんだよ」
おまえとは、もうさよならだ。
心の中で、つぶやいた。
あとは俺の仔を産んでくれればそれでいい。
「待ってよ」
少女が背後から泣き声でいった。
「あたしをこんな体にしといて、今になって捨てる気なの?」
力任せにドアを閉め、その声を断ち切った。
行こう。
彼は決意した。
そろそろ回復しかけているはずだ。
何も我慢することなど、ない。
もう一度、タナトスを抱いてやる。
罠でもなんでもいい。
俺はすでに義務は果たした。
何なら、あいつと一緒に死ぬのもいいだろう。
そう心に決めると、俄然気持ちが明るくなってきた。
彼は病院に向かうべく、快活な足取りで駆け出した。
「誰だ」
由羅がビルを見上げた。
一瞬早く、零は身を隠した。
ここで顔を見られては、面白味が半減する。
ひゅっと風を切って、何かが飛んできた。
カーンと硬質な音を立てて屋上の床に転がったのは、零が投げたあの避雷針だ。
由羅が投げ返してきたのだろう。
思った通りの怪力だ。
避雷針を拾い上げ、元の場所に戻すと、零は軽やかに宙を舞った。
長いスカートが烏の翼のように大きく広がり、一瞬、真っ白い裸の下半身が顕わになる。
隣のビルの屋上に着地した。
音もなく走りながら、隣家の屋根、そいてブロック塀を伝って反対側の舗道に降り立った。
由羅の次の目的地は明らかだ。
どうせ、タナトスのところに決まっている。
先回りして、待ち伏せてやるのもいい。
零は笑った。
面白くなりそうだ。
そう、思ったからである。
目を開けると、ビニールシートのようなものに囲まれていた。
酸素マスクが顔の下半分を覆っている。
頭に包帯を巻かれていた。
ビニールシートを透かして見える天井の蛍光灯を眺めて、
また、病院だ。
と、杏里はため息混じりに思った。
いったいこれで何度目だろう。
病室の天井を見上げて目を覚ますのは。
だが、今回はさすがに管理が厳重だった。
集中治療室に入れられているのだ。
酸素マスクをはずし、ゆっくりと上半身を起こす。
体を点検した。
両腕は、異常なし。
胸も大丈夫だ。
頭も別にどうということはない。
ただ、腰にまだ鈍い痛みが残っていた。
体を真っ二つにへし折られたのである。
さすがのタナトスでも、すぐに完治とはいかないようだった。
ドアを開けて入ってきた看護師が、起き上がっている杏里を見て、ひっと悲鳴を上げた。
「さ、笹原さん・・・? もう、意識、戻ったの? 先生呼んでくるから、う、動いちゃだめよ」
見たことのある顔だった。
以前杏里が入院したとき、担当してくれたあのボーイッシュな髪型の看護師である。
杏里を電動マッサージ器で昇天させたあの女だった。
「勇次・・・いえ、小田切を呼んでくれませんか」
杏里はいった。
思い出したのだ。
死に瀕している杏里を見つめて、自分を慰めていた少女のことを。
報告しなければならない。
と思った。
あの子は普通ではなかった。
もしかしたら、あれは・・・・。
そのとき、看護師の背後に影がさした。
「起きてるか?」
ぶっきらぼうな声がいった。
杏里はどきりとした。
なぜだか顔が赤くなる。
やっと、来てくれた・・・。
看護師の脇をすり抜けて、由羅が現れた。
「ったく、しょうがねえな」
杏里をひと目見るなり、呆れたようにつぶやいた。
「あんたがほっとくからよ」
杏里はいい返した。
「ばか」
由羅が睨む。
「他人を頼るんじゃねえ。自分の身ぐらい、自分で守りやがれ」
腰を前後に緩やかに動かしながら、彼は思った。
この程度では、何の快感も得られない。
ただ苦い思いだけがこみ上げてくる。
目の前の女体は、あまりにも脆すぎる。
本気で突いたら、あっという間に死んでしまうことだろう。
あいつとやりたい。
そう、切に思う。
本来の姿に戻って、あいつを突きまくりたい。
一度だけ交わったときの、あの強烈な快感が懐かしい。
俺の分身に、文字通り体を串刺しにされても死ななかった、あいつ。
あの豊満な体、感度抜群の乳房、そして性器。
タナトス・・・・。
無意味な行為だとわかってはいる。
タナトスと交わっても、繁殖は不可能だ。
それどころか、彼らにとってある意味脅威でもある。
タナトスは罠なのだ。
しかし、一度あの味を知ってしまった以上、もう後には戻れない。
脆弱な人間の女などで、我慢できるはずがない。
彼は少女のやせた尻を押しのけると、濡れそぼった性器から肉棒を抜いた、
彼のそれは、ほとんど硬さを失っていた。
「もうやめちゃうの?」
喘ぎを中断して、壁に両手をついたまま、少女が振り返った。
非難のまなざしで、彼を睨みつけている。
改めて見ると、少女はあまりにも子どもだった。
本当なら、こんな行為が許される年齢ではない。
彼はげんなりした。
繁殖のためとはいえ、もう少し相手を選ぶべきだったかもしれない。
「うん、ちょっときょうは、気が乗らなくて・・・」
少女から視線をそらして、嘘の言い訳をする。
放課後の旧校舎。
人気のない一郭にある、備品倉庫の中である。
ズボンを履いていると、少女が全裸のまま、彼の前に立った。
「杏里のこと、考えてるんでしょ」
尖った口調で、詰問してきた。
彼は少女の薄い胸、少年のような腰、太腿の間の淡い茂みをぼんやりと眺めた。
受胎させるまでは、こんな体にも欲望を覚えたものだったが、今となっては何も感じない。
ただせがまれるから、お義理で相手をしてやっているだけだ。
「あの子は、どうせもうすぐ死ぬんだよ。なのにどうして毎日お見舞いに行ってるの? 隠したってダメ。知ってるんだから」
少女の声に憎しみの響きがこもる。
「死なないさ」
彼はそれだけつぶやくと、少女に背を向けた。
「タナトスは、不死身なんだよ」
おまえとは、もうさよならだ。
心の中で、つぶやいた。
あとは俺の仔を産んでくれればそれでいい。
「待ってよ」
少女が背後から泣き声でいった。
「あたしをこんな体にしといて、今になって捨てる気なの?」
力任せにドアを閉め、その声を断ち切った。
行こう。
彼は決意した。
そろそろ回復しかけているはずだ。
何も我慢することなど、ない。
もう一度、タナトスを抱いてやる。
罠でもなんでもいい。
俺はすでに義務は果たした。
何なら、あいつと一緒に死ぬのもいいだろう。
そう心に決めると、俄然気持ちが明るくなってきた。
彼は病院に向かうべく、快活な足取りで駆け出した。
「誰だ」
由羅がビルを見上げた。
一瞬早く、零は身を隠した。
ここで顔を見られては、面白味が半減する。
ひゅっと風を切って、何かが飛んできた。
カーンと硬質な音を立てて屋上の床に転がったのは、零が投げたあの避雷針だ。
由羅が投げ返してきたのだろう。
思った通りの怪力だ。
避雷針を拾い上げ、元の場所に戻すと、零は軽やかに宙を舞った。
長いスカートが烏の翼のように大きく広がり、一瞬、真っ白い裸の下半身が顕わになる。
隣のビルの屋上に着地した。
音もなく走りながら、隣家の屋根、そいてブロック塀を伝って反対側の舗道に降り立った。
由羅の次の目的地は明らかだ。
どうせ、タナトスのところに決まっている。
先回りして、待ち伏せてやるのもいい。
零は笑った。
面白くなりそうだ。
そう、思ったからである。
目を開けると、ビニールシートのようなものに囲まれていた。
酸素マスクが顔の下半分を覆っている。
頭に包帯を巻かれていた。
ビニールシートを透かして見える天井の蛍光灯を眺めて、
また、病院だ。
と、杏里はため息混じりに思った。
いったいこれで何度目だろう。
病室の天井を見上げて目を覚ますのは。
だが、今回はさすがに管理が厳重だった。
集中治療室に入れられているのだ。
酸素マスクをはずし、ゆっくりと上半身を起こす。
体を点検した。
両腕は、異常なし。
胸も大丈夫だ。
頭も別にどうということはない。
ただ、腰にまだ鈍い痛みが残っていた。
体を真っ二つにへし折られたのである。
さすがのタナトスでも、すぐに完治とはいかないようだった。
ドアを開けて入ってきた看護師が、起き上がっている杏里を見て、ひっと悲鳴を上げた。
「さ、笹原さん・・・? もう、意識、戻ったの? 先生呼んでくるから、う、動いちゃだめよ」
見たことのある顔だった。
以前杏里が入院したとき、担当してくれたあのボーイッシュな髪型の看護師である。
杏里を電動マッサージ器で昇天させたあの女だった。
「勇次・・・いえ、小田切を呼んでくれませんか」
杏里はいった。
思い出したのだ。
死に瀕している杏里を見つめて、自分を慰めていた少女のことを。
報告しなければならない。
と思った。
あの子は普通ではなかった。
もしかしたら、あれは・・・・。
そのとき、看護師の背後に影がさした。
「起きてるか?」
ぶっきらぼうな声がいった。
杏里はどきりとした。
なぜだか顔が赤くなる。
やっと、来てくれた・・・。
看護師の脇をすり抜けて、由羅が現れた。
「ったく、しょうがねえな」
杏里をひと目見るなり、呆れたようにつぶやいた。
「あんたがほっとくからよ」
杏里はいい返した。
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