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第3部 凶愛のエロス
♯5 抱擁
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「どうして私があなたのこと、笑わなくちゃならないの?」
怒りを押し殺して、杏里はいった。
「あなたは立派に戦ったわ。わたしにそのあなたを嗤う資格なんて、あるわけないじゃない」
由羅がうなだれた。
敵意が潮のように引いていくのがわかった。
「ほんとは、もっとあっさりいくはずだったんだ」
うつむいたまま、ぼそりとつぶやいた。
「初めてタイマン張らせてもらえたんで、ちょっといい気になりすぎてた。いつも、先輩たちのフォローばっかりだったから、つい舞い上がって・・・。くそ、冬美にもかっこ悪いとこ、見せちまったな」
「そんなこと、ないって」
杏里は消毒液を両手につけて念入りに擦ると、ティッシュで拭った。
「さ、まずは顔からかな」
両手を差し出すと、
「何するんだ」
由羅が薄気味悪そうにのけぞった。
「治療に決まってるでしょ。タナトスはヒーラーでもあるの。知らなかったの?」
「ヒーラー? なんだそれ」
由羅が疑わしそうに杏里を見た。
「おまえ、ゲームのやりすぎだろ?」
「いいから、ちょっと黙ってて。その顔じゃ、学校行けないでしょ」
タナトスが、パトスの回復役。.
そういう自分もついさっき知ったばかりである。
自信はまるでなかったが、やってみるしかなかった。
「いてえな」
由羅が嫌がるのを無視して、顔の絆創膏をはがす。
「目をつぶってて」
両手を伸ばし、由羅の歪んだ顔をそっと掌で包み込んだ、
由羅が痛がらないのを確かめて、そのままゆっくりと撫でていく。
「なんか、おまえの手って、べたべたしてるな」
しばらくそうして撫でさすっていると、杏里の掌の下で、由羅がくぐもった声を上げた。
「薬でも塗ってるのか?」
杏里はかぶりを振った。
自分でも、掌から何か体液みたいなものが滲み出しているのを感じていた。
ふつう、マンガや小説やゲームに出てくる"神の手"といえば、光とか波動で患者を癒すものだが。どうやらタナトスは違うようだった。
もっと生物的というか、生々しい機能を備えているようなのだ。
杏里の掌から滲み出る軟膏のような汁が、由羅の肌にしみこんでいく。
10分ほどそれを繰り返していると、いつのまにか由羅の頬骨の歪みが治っていた。
手をどける。
まだ少しまぶたが腫れているが、顔の輪郭と頬の艶はほぼ元に戻っていた。
「すごい」
杏里はうれしくなった。
「見て」
スマホを取り出し、スマホケースの裏の鏡を由羅に見せる。
「あ」
由羅が目を見開いた。
信じられない、といったふうに、自由な左手で顔を撫でる。
「確かに、痛くなくなった・・・」
粘液でてかてか光った顔で、つぶやいた。
「でしょ?」
杏里はなんだか浮き浮きした気分になってきた。
こうして改めて近くで見ると、由羅は意外にあどけない顔立ちをしていた。
むしろ、可愛いとさえ思う。
「さ、今度は右腕」
包帯から腕を抜き、応急処置の添え木をはずした。
由羅の右腕は、ひじと手首の間辺りが大きく腫れあがっていた。
そこが折れているに違いない。
粘液のしたたる両手で患部を包む。
丁寧に、撫でさすった。
「ね、あなた、子供の頃の記憶って、ある?」
腕をさすってやりながら、ふと思いついて、訊いた。
「なんだよ、急に」
由羅の瞳に警戒の色が浮かんだ。
「別に。わたしには、三年分の記憶しかないから、それで、あなたもそうかなと思って、ちょっと訊いてみただけ」
「三年分?」
「うん。小6のときから、中2までの三年分」
由羅は答えなかった。
そのぎこちない沈黙が、答えだった。
やっぱりそうなのだ。
重人も同じようなことをいっていた。
タナトスも、ヒュプノスも、そしてパトスも、皆同じなのだ。
三人とも、三年分の記憶しか、持っていない。
「勇次の話だと、私は肉体的には三歳なんだって。ちょっと笑えるでしょ?」
わざと冗談めかしていってみたが、由羅は笑わなかった。
「うちは、おまえらとは、違う」
ぽつりとつぶやいた。
「どこが?」
「うちは、人間なんだ」
はあ? 何いってるの?
そう口にしかけて、その言葉を杏里は飲み込んだ。
由羅の目が、いつになく真剣だったからだ。
やがて、由羅がいった。
「うちには、冬美がいる。冬美は、うちを・・・」
杏里は唖然となった。
それが、理由?
愛してくれる人がいるから、自分は人間なんだ。
そういいたいの?
馬鹿。
そうなじってやりたかった。
幻想だよ。
そんなの。
そう、思いっきり笑い飛ばしてやりたかった。
冬美にとってあんたなんか、ただの道具にすぎないんだ。
どうしてそれがわからないの?
が、杏里はあえて何もいわなかった。
怒りの代わりにわきあがってきた感情。
それが、嫉妬だと気づいたからだった。
「もういいよ、治った」
由羅が右腕を杏里の手から引き抜いた、
腫れが引いている。
「ほら」
ひじを曲げてみせた。
「おまえ、意外に役に立つんだな」
にやりと笑うと、すっかり元の意地悪な少女の顔に戻っていた。
「じゃ、うちは少し寝るから。もう、帰れよ」
いきなりセーラー服とスカートを脱ぎ捨てると、下着姿になってベッドにもぐりこもうとした。
「だめ」
杏里はいった。
「まだ、体が治っていないでしょ」
「いいよ、そこまでしてくれなくても」
振り向いた由羅が、ぽかんと口を開けた。
杏里は服を脱ぎだしていた。
ブラウスのボタンをはずし、ブラジャーを取る。
ミニスカートをすとんと足元に落とすと、ピンクのパンティ一枚の姿になった。
ベッドに登り、由羅の上にまたがった。
豊満な乳房が垂れ下がり、由羅の顔に当る。
「お、おい、何するんだよ」
由羅が抵抗しようとした。
杏里はその手首を押さえつけ、ささやくようにいった。
「あんな女のこと・・・私が忘れさせてあげる」
怒りを押し殺して、杏里はいった。
「あなたは立派に戦ったわ。わたしにそのあなたを嗤う資格なんて、あるわけないじゃない」
由羅がうなだれた。
敵意が潮のように引いていくのがわかった。
「ほんとは、もっとあっさりいくはずだったんだ」
うつむいたまま、ぼそりとつぶやいた。
「初めてタイマン張らせてもらえたんで、ちょっといい気になりすぎてた。いつも、先輩たちのフォローばっかりだったから、つい舞い上がって・・・。くそ、冬美にもかっこ悪いとこ、見せちまったな」
「そんなこと、ないって」
杏里は消毒液を両手につけて念入りに擦ると、ティッシュで拭った。
「さ、まずは顔からかな」
両手を差し出すと、
「何するんだ」
由羅が薄気味悪そうにのけぞった。
「治療に決まってるでしょ。タナトスはヒーラーでもあるの。知らなかったの?」
「ヒーラー? なんだそれ」
由羅が疑わしそうに杏里を見た。
「おまえ、ゲームのやりすぎだろ?」
「いいから、ちょっと黙ってて。その顔じゃ、学校行けないでしょ」
タナトスが、パトスの回復役。.
そういう自分もついさっき知ったばかりである。
自信はまるでなかったが、やってみるしかなかった。
「いてえな」
由羅が嫌がるのを無視して、顔の絆創膏をはがす。
「目をつぶってて」
両手を伸ばし、由羅の歪んだ顔をそっと掌で包み込んだ、
由羅が痛がらないのを確かめて、そのままゆっくりと撫でていく。
「なんか、おまえの手って、べたべたしてるな」
しばらくそうして撫でさすっていると、杏里の掌の下で、由羅がくぐもった声を上げた。
「薬でも塗ってるのか?」
杏里はかぶりを振った。
自分でも、掌から何か体液みたいなものが滲み出しているのを感じていた。
ふつう、マンガや小説やゲームに出てくる"神の手"といえば、光とか波動で患者を癒すものだが。どうやらタナトスは違うようだった。
もっと生物的というか、生々しい機能を備えているようなのだ。
杏里の掌から滲み出る軟膏のような汁が、由羅の肌にしみこんでいく。
10分ほどそれを繰り返していると、いつのまにか由羅の頬骨の歪みが治っていた。
手をどける。
まだ少しまぶたが腫れているが、顔の輪郭と頬の艶はほぼ元に戻っていた。
「すごい」
杏里はうれしくなった。
「見て」
スマホを取り出し、スマホケースの裏の鏡を由羅に見せる。
「あ」
由羅が目を見開いた。
信じられない、といったふうに、自由な左手で顔を撫でる。
「確かに、痛くなくなった・・・」
粘液でてかてか光った顔で、つぶやいた。
「でしょ?」
杏里はなんだか浮き浮きした気分になってきた。
こうして改めて近くで見ると、由羅は意外にあどけない顔立ちをしていた。
むしろ、可愛いとさえ思う。
「さ、今度は右腕」
包帯から腕を抜き、応急処置の添え木をはずした。
由羅の右腕は、ひじと手首の間辺りが大きく腫れあがっていた。
そこが折れているに違いない。
粘液のしたたる両手で患部を包む。
丁寧に、撫でさすった。
「ね、あなた、子供の頃の記憶って、ある?」
腕をさすってやりながら、ふと思いついて、訊いた。
「なんだよ、急に」
由羅の瞳に警戒の色が浮かんだ。
「別に。わたしには、三年分の記憶しかないから、それで、あなたもそうかなと思って、ちょっと訊いてみただけ」
「三年分?」
「うん。小6のときから、中2までの三年分」
由羅は答えなかった。
そのぎこちない沈黙が、答えだった。
やっぱりそうなのだ。
重人も同じようなことをいっていた。
タナトスも、ヒュプノスも、そしてパトスも、皆同じなのだ。
三人とも、三年分の記憶しか、持っていない。
「勇次の話だと、私は肉体的には三歳なんだって。ちょっと笑えるでしょ?」
わざと冗談めかしていってみたが、由羅は笑わなかった。
「うちは、おまえらとは、違う」
ぽつりとつぶやいた。
「どこが?」
「うちは、人間なんだ」
はあ? 何いってるの?
そう口にしかけて、その言葉を杏里は飲み込んだ。
由羅の目が、いつになく真剣だったからだ。
やがて、由羅がいった。
「うちには、冬美がいる。冬美は、うちを・・・」
杏里は唖然となった。
それが、理由?
愛してくれる人がいるから、自分は人間なんだ。
そういいたいの?
馬鹿。
そうなじってやりたかった。
幻想だよ。
そんなの。
そう、思いっきり笑い飛ばしてやりたかった。
冬美にとってあんたなんか、ただの道具にすぎないんだ。
どうしてそれがわからないの?
が、杏里はあえて何もいわなかった。
怒りの代わりにわきあがってきた感情。
それが、嫉妬だと気づいたからだった。
「もういいよ、治った」
由羅が右腕を杏里の手から引き抜いた、
腫れが引いている。
「ほら」
ひじを曲げてみせた。
「おまえ、意外に役に立つんだな」
にやりと笑うと、すっかり元の意地悪な少女の顔に戻っていた。
「じゃ、うちは少し寝るから。もう、帰れよ」
いきなりセーラー服とスカートを脱ぎ捨てると、下着姿になってベッドにもぐりこもうとした。
「だめ」
杏里はいった。
「まだ、体が治っていないでしょ」
「いいよ、そこまでしてくれなくても」
振り向いた由羅が、ぽかんと口を開けた。
杏里は服を脱ぎだしていた。
ブラウスのボタンをはずし、ブラジャーを取る。
ミニスカートをすとんと足元に落とすと、ピンクのパンティ一枚の姿になった。
ベッドに登り、由羅の上にまたがった。
豊満な乳房が垂れ下がり、由羅の顔に当る。
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