29 / 58
第2部 背徳のパトス
#7 杏里とスティグマ
しおりを挟む
体の中からずるずると肉の棒が抜けていくおぞましい感触で、切れた意識が戻ってきた。
まるで肉体の中心を大蛇が這い回るような感じだった。
一物が”穴”から抜けた瞬間、
どぼどぼと音を立てて、中にたまっていた大量の血と精液があふれ出すのがわかった。
衣ずれの音が聞こえてきた。
彼らが服を着ているのだろう。
やがて大勢が歩き出す足音がした。
ドアが開き、閉まる音が響く。
人の気配が完全に消えたことを確かめて、杏里はそっと目を開いた。
腕と足を動かしてみる。
いつのまにかロープが解かれ、自由になっていた。
体が、内側と外側から、ひどく痛んだ。
歯をくいしばり、そろそろと上体を起こす。
自分の体に視線を向けると、悲惨なことになっていた。
血と精液でぐしょぐしょなのだ。
特にひどいのが胸で、乳房を引きちぎられた跡が、真っ赤な血だまりと化している。
痛みに耐えながら、辺りを見回した。
ベッドの下に、ひしゃげた桃のようなものがふたつ、落ちている。
乳房のなれの果てだった。
杏里は痛みに耐えながら腕を伸ばし、それを拾い上げた。
左右を間違えないように、胸の傷口に慎重に乗せた。
あとは時が経つのを待つだけだった。
最後に現れた、あの人物は何だったのだろう。
ふと、疑念が沸いた。
患者のひとりだろうか。
それにしても、と思う。
男を知らない杏里でも、あの性器の異常さは本能的に察知できた。
放たれた精液の量も半端ではなかった。
杏里を犯した5人の男たちの精液を集めたよりも多い量を、男はたった一度の射精で放出したのである。
血と混じってシーツを濡らしているのは、そのときの精液に違いなかった。
ベッドサイドのテーブルに手を伸ばし、スマホを取る。
小田切にLINEを入れると、すぐ行く、と返事が帰ってきた。
少しほっとして、ベッドに体を横たえる。
当面の危機は去ったはずだった。
杏里を襲った医師や看護師、患者たちは充分に浄化されたに違いなかった。
それにしても今回はひどかった、と思わずにはいられない。
よほどストレスがたまっていたのだろう。
まるで獣の集団に犯されるような感じだったのだ。
杏里は妙に自分が平静であることに気づいて、愕然とした。
あれほどの目に遭っても気が狂わないでいる自分が信じられなかった。
しかも今回は、こともあろうに”感じて”しまったのだ。
電動マッサージ器に、あの怪物じみた謎の男のペニスに、快感を覚えてしまったのである。
初めてのことだった。
これまでは、肉体が反応しても、それが快楽には結びつかなかった。
なのに今回は、明らかに性感が目覚めてしまったようなのだ。
私、穢れてしまった・・・。
その認識が、杏里を打ちのめした。
最後の矜持が崩れてしまったのだった。
杏里は、自分が娼婦以下の存在に成り下がってしまったような、そんな惨めな思いに胸を塞がれていた。
空が白み始める頃、小田切が姿を現した。
床の綺麗なところを探して椅子を置くと、長い脚を投げ出して坐った。
「ひどくやられたもんだな」
顔の筋ひとつ動かさず、いった。
「犯されたようだが、まあ、心配するな。タナトスには繁殖能力がない。つまり、中出しされてもおまえは絶対に妊娠しないってことだ」
喜んでいいのか悲しむべきなのか、杏里にはわからなかった。
繁殖能力が、ない・・・?
それはつまり、私は永久に、赤ちゃんを産めないってこと?
杏里は肩を落とした。
やはり、悲しむべきことのような気がした。
自分が人間でないという証拠を、また新たに突きつけられたような気分だった。
杏里は再生中の肉体をしょんぼりと眺めた。
乳房は癒着していたが、まだ弾力が足りず、ぺしゃんとひしゃげたままになっている。
裂けた局部がほぼ元通りになっているだろうことは、感覚的にわかる。
おそらく子宮やそのほかの内臓の修復も、急ピッチで進んでいるに違いない。
ただ、長大な肉竿に内側から貫かれたせいで、喉がつぶれ、声が出なかった。
「着替えを持ってきてやったから、立てるようになったら着替えるといい」
小田切が腰を上げて、紙袋をベッドサイドのテーブルに置いた。
杏里は少し上半身を起こして、感謝の印にうなずいてみせた。
小田切の顔つきが変わったのは、そのときだった。
「ん?」
眉をひそめると、杏里の胸元に顔を近づけてきた。
杏里は一瞬恐怖に駆られた。
ついに小田切までもが、と思ったのだ。
だが、そうではなかった。
「これは・・・」
小田切の長い指が、杏里の肌をなぞる。
「刻印、スティグマ・・・」
杏里は、
何?
という表情をしてみせた。
目を落とすと、小田切がなぞったあたりに、奇妙な染みができていた。
ちょうど肩甲骨のあたりである。
雪の結晶のような形をした、六角形の黒い染みだった。
「杏里、おまえ」
小田切が顔を上げて、杏里を見た。
ひどく恐い顔をしていた。
「遭ったのか、あれに」
まるで肉体の中心を大蛇が這い回るような感じだった。
一物が”穴”から抜けた瞬間、
どぼどぼと音を立てて、中にたまっていた大量の血と精液があふれ出すのがわかった。
衣ずれの音が聞こえてきた。
彼らが服を着ているのだろう。
やがて大勢が歩き出す足音がした。
ドアが開き、閉まる音が響く。
人の気配が完全に消えたことを確かめて、杏里はそっと目を開いた。
腕と足を動かしてみる。
いつのまにかロープが解かれ、自由になっていた。
体が、内側と外側から、ひどく痛んだ。
歯をくいしばり、そろそろと上体を起こす。
自分の体に視線を向けると、悲惨なことになっていた。
血と精液でぐしょぐしょなのだ。
特にひどいのが胸で、乳房を引きちぎられた跡が、真っ赤な血だまりと化している。
痛みに耐えながら、辺りを見回した。
ベッドの下に、ひしゃげた桃のようなものがふたつ、落ちている。
乳房のなれの果てだった。
杏里は痛みに耐えながら腕を伸ばし、それを拾い上げた。
左右を間違えないように、胸の傷口に慎重に乗せた。
あとは時が経つのを待つだけだった。
最後に現れた、あの人物は何だったのだろう。
ふと、疑念が沸いた。
患者のひとりだろうか。
それにしても、と思う。
男を知らない杏里でも、あの性器の異常さは本能的に察知できた。
放たれた精液の量も半端ではなかった。
杏里を犯した5人の男たちの精液を集めたよりも多い量を、男はたった一度の射精で放出したのである。
血と混じってシーツを濡らしているのは、そのときの精液に違いなかった。
ベッドサイドのテーブルに手を伸ばし、スマホを取る。
小田切にLINEを入れると、すぐ行く、と返事が帰ってきた。
少しほっとして、ベッドに体を横たえる。
当面の危機は去ったはずだった。
杏里を襲った医師や看護師、患者たちは充分に浄化されたに違いなかった。
それにしても今回はひどかった、と思わずにはいられない。
よほどストレスがたまっていたのだろう。
まるで獣の集団に犯されるような感じだったのだ。
杏里は妙に自分が平静であることに気づいて、愕然とした。
あれほどの目に遭っても気が狂わないでいる自分が信じられなかった。
しかも今回は、こともあろうに”感じて”しまったのだ。
電動マッサージ器に、あの怪物じみた謎の男のペニスに、快感を覚えてしまったのである。
初めてのことだった。
これまでは、肉体が反応しても、それが快楽には結びつかなかった。
なのに今回は、明らかに性感が目覚めてしまったようなのだ。
私、穢れてしまった・・・。
その認識が、杏里を打ちのめした。
最後の矜持が崩れてしまったのだった。
杏里は、自分が娼婦以下の存在に成り下がってしまったような、そんな惨めな思いに胸を塞がれていた。
空が白み始める頃、小田切が姿を現した。
床の綺麗なところを探して椅子を置くと、長い脚を投げ出して坐った。
「ひどくやられたもんだな」
顔の筋ひとつ動かさず、いった。
「犯されたようだが、まあ、心配するな。タナトスには繁殖能力がない。つまり、中出しされてもおまえは絶対に妊娠しないってことだ」
喜んでいいのか悲しむべきなのか、杏里にはわからなかった。
繁殖能力が、ない・・・?
それはつまり、私は永久に、赤ちゃんを産めないってこと?
杏里は肩を落とした。
やはり、悲しむべきことのような気がした。
自分が人間でないという証拠を、また新たに突きつけられたような気分だった。
杏里は再生中の肉体をしょんぼりと眺めた。
乳房は癒着していたが、まだ弾力が足りず、ぺしゃんとひしゃげたままになっている。
裂けた局部がほぼ元通りになっているだろうことは、感覚的にわかる。
おそらく子宮やそのほかの内臓の修復も、急ピッチで進んでいるに違いない。
ただ、長大な肉竿に内側から貫かれたせいで、喉がつぶれ、声が出なかった。
「着替えを持ってきてやったから、立てるようになったら着替えるといい」
小田切が腰を上げて、紙袋をベッドサイドのテーブルに置いた。
杏里は少し上半身を起こして、感謝の印にうなずいてみせた。
小田切の顔つきが変わったのは、そのときだった。
「ん?」
眉をひそめると、杏里の胸元に顔を近づけてきた。
杏里は一瞬恐怖に駆られた。
ついに小田切までもが、と思ったのだ。
だが、そうではなかった。
「これは・・・」
小田切の長い指が、杏里の肌をなぞる。
「刻印、スティグマ・・・」
杏里は、
何?
という表情をしてみせた。
目を落とすと、小田切がなぞったあたりに、奇妙な染みができていた。
ちょうど肩甲骨のあたりである。
雪の結晶のような形をした、六角形の黒い染みだった。
「杏里、おまえ」
小田切が顔を上げて、杏里を見た。
ひどく恐い顔をしていた。
「遭ったのか、あれに」
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。


どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる