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第2部 背徳のパトス
#5 杏里と強姦病棟
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夕食には味のない重湯のような食べ物と、りんごジュースが出ただけだった。
お膳が下げられるのを待って、杏里は病室を後にした。
あの少年を探そうと思ったのだ。
可能性は低いが、ひょっとしたらこの病院内にいるかもしれない。
個室だったので、周囲に気兼ねする必要はなかった。
襟元がはだけないようにしっかり病衣の前をつかんで、足音を立てぬよう、そろそろと歩いた。
民間のものにしては。ずいぶんと立派な病院だった。
壁に貼られたプレートを見ながら、歩く。
内科から外科、産婦人科まで、いろいろな『科』がそろっているのがわかった。
夕食の時間を過ぎたためか。通廊を歩く人影はまばらだった。
たまに看護師や、トイレに立った患者とすれ違う。
そのたびに杏里は顔をうつむけた。
人とすれ違うたびに、ねっとりと絡みついてくるような視線を感じたからだった。
無理もない、と思う。
病院は、いってみればストレスのたまり場である。
患者はもちろんのこと、そこで働く医師や看護師たちも、相当なストレスを溜め込んでいる。
ストレスを限界以上に溜め込んだ者は、”死への衝動”を外部の者に転化しやすい。
その対象として、杏里ほどうってつけのものは他にない。
なにせ”タナトス”は、わざわざ他人の攻撃対象になりやすいようにできているのである。
おそらく杏里の肌からは、目に見えないある特殊なフェロモンのようなものが分泌されているのだろう。
それが、爆発寸前の人間たちを否応なしに惹きつけるのだ。
急いで建物の中を見て回った。
病院は五階建てだった。
一通りめぐってみたが、少年の姿はなかった。
考えてみれば当然のことだが、仮に彼がこの病院の経営者の子供だとしても、住居は病院とは別のところにあって、もうこの時間にはそちらに戻っているに違いなかった。
明日退院したら、もう一度、病院の近くを探してみよう。
きっとそう遠くない所に、少年の家があるはずだ。
そう決心して、杏里は部屋に戻った。
ドアを開けると、看護師が待っていた。
杏里の担当をしている、髪の短い、ボーイッシュな雰囲気の女性である。
「寝る前に、ビタミン剤を打っておきましょうね」
どこへ行ってたの?
とも訊かずに、杏里がベッドに坐るのを見届けると、
にっこり笑って、白衣の前ポケットからおもむろに注射器を取り出した。
その瞬間、
杏里は、うなじの毛がぞくっと逆立つのを感じた。
なんとなく嫌な予感がした。
よく気がつく、有能そうな看護師である。
だが、笑顔をつくっていても、いつも目が笑っていないのだ。
が、そんな理由で逆らうわけにもいかなかった。
杏里はおずおずと左腕を差し出した。
アルコールを浸した綿で、腕の内側を拭き、慣れた手つきで看護師が静脈に針を刺す。
口の中にガーリックの匂いがかすかに広がった。
体全体がぽかぽか温かくなってくる。
「これでよく眠れるはずよ」
看護師がいい、シーツをかけてくる。
急速に眠気が押し寄せてきた。
ドアが閉まる音を耳にする前に、杏里は深い眠りに落ちていた。
痛みで目が覚めた。
両腕の自由が利かない。
目を開けると、両手首をロープできつく縛られ、全裸でベッドの上に仰向けにされていた。
足を動かそうとした。
が、無理だった。
足首にも、手首と同様、ロープが巻きついている。
ー来た。
杏里は奥歯を固く噛みしめた。
予感は当たった。
なんとなく、わかっていた。
すれ違うときのあの視線。
作り笑い。
生贄の儀式が始まろうとしているのだ。
病室の中は、人いきれでむせかえるようだった。
非常灯のオレンジ色の明かりの下、十人近い人影が杏里を取り巻いていた。
性別、年齢はまちまちだった。
杏里を診察した医師も、あの若い看護師もいる。
半数は患者だろうか。
全員、一糸まとわぬ裸だった。
杏里は歯を食いしばったまま、近づく人の群れを挑むように睨みつけた。
抵抗はするな。
小田切の言葉が耳の奥に蘇る。
むしろ、人助けのチャンスだと思え。
そのために、おまえはつくられたのだ。
人間の、悪しき魂を浄化するために。
冗談じゃない。
たとえ、本当に私が人間以外の”何か”で、人権も何もない、憲法にも法律にも守られない、そんなモノ以下の存在だったとしても、こんなこと、許されていいはずがない。
「近づかないで」
むだと知りながら、杏里はなじった。
「これは何? 私をどうするっていうの?」
中性的な体つきのショートカットの看護師が。無言で前へ進み出た。
ハンディタイプの電動マッサージ器を持っている。
スイッチを入れた。
こけしのような形の先端が、ブーンと唸りを上げて振動し始める。
誰かが横から杏里の腰の後ろに、枕を押し込んできた。
自然、股間を前方に突き出す格好になる。
杏里のほとんど恥毛の生えていない肉の丘が、群集の前へあられもなく晒される。
看護師が左手の指で割れ目を開いた。
ピンク色の”唇”と、小さな乳首のような突起がむき出しになった。
「やめて」
杏里は叫んだ。
涙がどっと溢れ出した。
どうして・・・どうしてみんな、そんなこと、したがるの?
箒の柄を突っ込まれたこともある。
父だと思い込んでいた男には、擦り切れて血がにじむほど弄り回され、危うく肉棒を挿入されかけた。
きのうのバスの中で杏里を餌食にした痴女たちにも、いいように舐められ、指を突っ込まれて内部を引っ掻き回された。
もちろん、そのくらいでは杏里の肉体はびくともしない。
何度破られても、処女膜は数時間で再生する。
あそこを引き裂かれても、その奥の子宮を破られても、物理的には何ということもない。
一日もあれば、放っておいてもまた元に戻るからだ。
だが、心が耐えられないのだった。
どうしてどうしてどうしてどうしてどうして・・・?
いたぶられ続ける間じゅう、いつも杏里は心の中でそう叫び続けずにはいられない。
自分が”タナトス”であること。
いざそのときがくると、どうしてもそれをを受け入れることができなくなる。
頭ではわかっていても、心が拒否反応を起こすのだ。
マッサージ器が恥部に触れた。
電撃のような刺激が、脳天に向かって走った。
両側から人が覆いかぶさってくる。
乳房をちぎれるほど強くつかまれた。
屈辱に燃える意識と無関係に、体が開いていくのがわかる。
大人の拳ほどもあるマッサージ器の先端を、濡れそぼった襞がくわえこむ。
ぬるっとした感触とともに、太いものがぶるぶる震えながら中に入ってきた。
くわえこんだもので、体の中がいっぱいになった。
子宮が震え始めた。
振動が波のように全身の細胞に広がっていく。
歯の根が合わない。
目玉が飛び出しそうだった。
ああああー!
すさまじい快感に、
今度こそ、杏里は絶叫した。
お膳が下げられるのを待って、杏里は病室を後にした。
あの少年を探そうと思ったのだ。
可能性は低いが、ひょっとしたらこの病院内にいるかもしれない。
個室だったので、周囲に気兼ねする必要はなかった。
襟元がはだけないようにしっかり病衣の前をつかんで、足音を立てぬよう、そろそろと歩いた。
民間のものにしては。ずいぶんと立派な病院だった。
壁に貼られたプレートを見ながら、歩く。
内科から外科、産婦人科まで、いろいろな『科』がそろっているのがわかった。
夕食の時間を過ぎたためか。通廊を歩く人影はまばらだった。
たまに看護師や、トイレに立った患者とすれ違う。
そのたびに杏里は顔をうつむけた。
人とすれ違うたびに、ねっとりと絡みついてくるような視線を感じたからだった。
無理もない、と思う。
病院は、いってみればストレスのたまり場である。
患者はもちろんのこと、そこで働く医師や看護師たちも、相当なストレスを溜め込んでいる。
ストレスを限界以上に溜め込んだ者は、”死への衝動”を外部の者に転化しやすい。
その対象として、杏里ほどうってつけのものは他にない。
なにせ”タナトス”は、わざわざ他人の攻撃対象になりやすいようにできているのである。
おそらく杏里の肌からは、目に見えないある特殊なフェロモンのようなものが分泌されているのだろう。
それが、爆発寸前の人間たちを否応なしに惹きつけるのだ。
急いで建物の中を見て回った。
病院は五階建てだった。
一通りめぐってみたが、少年の姿はなかった。
考えてみれば当然のことだが、仮に彼がこの病院の経営者の子供だとしても、住居は病院とは別のところにあって、もうこの時間にはそちらに戻っているに違いなかった。
明日退院したら、もう一度、病院の近くを探してみよう。
きっとそう遠くない所に、少年の家があるはずだ。
そう決心して、杏里は部屋に戻った。
ドアを開けると、看護師が待っていた。
杏里の担当をしている、髪の短い、ボーイッシュな雰囲気の女性である。
「寝る前に、ビタミン剤を打っておきましょうね」
どこへ行ってたの?
とも訊かずに、杏里がベッドに坐るのを見届けると、
にっこり笑って、白衣の前ポケットからおもむろに注射器を取り出した。
その瞬間、
杏里は、うなじの毛がぞくっと逆立つのを感じた。
なんとなく嫌な予感がした。
よく気がつく、有能そうな看護師である。
だが、笑顔をつくっていても、いつも目が笑っていないのだ。
が、そんな理由で逆らうわけにもいかなかった。
杏里はおずおずと左腕を差し出した。
アルコールを浸した綿で、腕の内側を拭き、慣れた手つきで看護師が静脈に針を刺す。
口の中にガーリックの匂いがかすかに広がった。
体全体がぽかぽか温かくなってくる。
「これでよく眠れるはずよ」
看護師がいい、シーツをかけてくる。
急速に眠気が押し寄せてきた。
ドアが閉まる音を耳にする前に、杏里は深い眠りに落ちていた。
痛みで目が覚めた。
両腕の自由が利かない。
目を開けると、両手首をロープできつく縛られ、全裸でベッドの上に仰向けにされていた。
足を動かそうとした。
が、無理だった。
足首にも、手首と同様、ロープが巻きついている。
ー来た。
杏里は奥歯を固く噛みしめた。
予感は当たった。
なんとなく、わかっていた。
すれ違うときのあの視線。
作り笑い。
生贄の儀式が始まろうとしているのだ。
病室の中は、人いきれでむせかえるようだった。
非常灯のオレンジ色の明かりの下、十人近い人影が杏里を取り巻いていた。
性別、年齢はまちまちだった。
杏里を診察した医師も、あの若い看護師もいる。
半数は患者だろうか。
全員、一糸まとわぬ裸だった。
杏里は歯を食いしばったまま、近づく人の群れを挑むように睨みつけた。
抵抗はするな。
小田切の言葉が耳の奥に蘇る。
むしろ、人助けのチャンスだと思え。
そのために、おまえはつくられたのだ。
人間の、悪しき魂を浄化するために。
冗談じゃない。
たとえ、本当に私が人間以外の”何か”で、人権も何もない、憲法にも法律にも守られない、そんなモノ以下の存在だったとしても、こんなこと、許されていいはずがない。
「近づかないで」
むだと知りながら、杏里はなじった。
「これは何? 私をどうするっていうの?」
中性的な体つきのショートカットの看護師が。無言で前へ進み出た。
ハンディタイプの電動マッサージ器を持っている。
スイッチを入れた。
こけしのような形の先端が、ブーンと唸りを上げて振動し始める。
誰かが横から杏里の腰の後ろに、枕を押し込んできた。
自然、股間を前方に突き出す格好になる。
杏里のほとんど恥毛の生えていない肉の丘が、群集の前へあられもなく晒される。
看護師が左手の指で割れ目を開いた。
ピンク色の”唇”と、小さな乳首のような突起がむき出しになった。
「やめて」
杏里は叫んだ。
涙がどっと溢れ出した。
どうして・・・どうしてみんな、そんなこと、したがるの?
箒の柄を突っ込まれたこともある。
父だと思い込んでいた男には、擦り切れて血がにじむほど弄り回され、危うく肉棒を挿入されかけた。
きのうのバスの中で杏里を餌食にした痴女たちにも、いいように舐められ、指を突っ込まれて内部を引っ掻き回された。
もちろん、そのくらいでは杏里の肉体はびくともしない。
何度破られても、処女膜は数時間で再生する。
あそこを引き裂かれても、その奥の子宮を破られても、物理的には何ということもない。
一日もあれば、放っておいてもまた元に戻るからだ。
だが、心が耐えられないのだった。
どうしてどうしてどうしてどうしてどうして・・・?
いたぶられ続ける間じゅう、いつも杏里は心の中でそう叫び続けずにはいられない。
自分が”タナトス”であること。
いざそのときがくると、どうしてもそれをを受け入れることができなくなる。
頭ではわかっていても、心が拒否反応を起こすのだ。
マッサージ器が恥部に触れた。
電撃のような刺激が、脳天に向かって走った。
両側から人が覆いかぶさってくる。
乳房をちぎれるほど強くつかまれた。
屈辱に燃える意識と無関係に、体が開いていくのがわかる。
大人の拳ほどもあるマッサージ器の先端を、濡れそぼった襞がくわえこむ。
ぬるっとした感触とともに、太いものがぶるぶる震えながら中に入ってきた。
くわえこんだもので、体の中がいっぱいになった。
子宮が震え始めた。
振動が波のように全身の細胞に広がっていく。
歯の根が合わない。
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