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第1部 激甚のタナトス
#15 家庭内凌辱
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体をゆすられて、目が覚めた。
あずさだった。
心配そうに眉根を寄せて、杏里の肩に手を置いている。
少年の姿はどこにもなかった。
幻だったのだろうか、と杏里はぼんやりした頭で思った。
「立てる?」
あずさが肩を貸してくれた。
使い物にならなかった左の足首は、なんとか持ち直したようだった。
まだ痛むものの、杏里の体重を支えるところまでは回復していた。
「ひどかったみたいだね」
二人三脚のように、ゆっくりと歩を進めながら、あずさがいった。
「ごめんね。間に合わなくって。急に、生徒会の用事で職員室に呼ばれちゃって」
「どうして、ここが?」
「さっき、あなたのクラスの男の子が来て、教えてくれたの。杏里が大変なことになってるって」
栗栖重人に違いない、
不思議な少年だった。
全員敵だと思っていた2年C組のなかで、彼だけは味方だと考えていいのだろうか。
「これじゃ、とてもおうちまで歩けないわね」
杏里の左足を見て、あずさがいう。
なんとか校門までたどりついたところだった。
「待ってて。タクシー呼ぶから」
杏里の返事も聞かず、スマホでタクシー会社を呼び出し、配車の依頼をする。
「そこの公園で待ちましょ。その間に、何があったのか、くわしく聞かせてくれる?」
杏里の話を聞き終えると、あずさは深いため息をついた。
「病んでるわね。この学校」
「私、もう・・・」
杏里はうなだれて弱々しくつぶやいた。
あずさがそばいてくれる今でさえ、世界がモノトーンに見える。
2度と学校には来れない、と思う。
全部、見られてしまった。
玩具のように弄ばれたのだ。
死にたい、と本気で願った。
この世界から、消えてなくなってしまいたかった。
「死にたい、なんて思わないで」
杏里の表情から察したのか、あずさが懇願するように。いった。
息を切らし、額にびっしりと汗を浮かべている。
杏里の話に激しい衝撃を受けているようだった。
「もうこれ以上、ひどいことなんて起こりっこないんだから」
杏里の肩をやさしく抱き寄せた。
杏里はあずさの胸に頬をうずめ、ぼんやりと思った。
それはそうかもしれない。
あれ以上ひどい事態など、想像もつかない。
しかし、そう考えても何の慰めにもならないのも、確かだった。
すべてが、もう起こってしまった後なのである。
私は、地獄を見てしまったのだ。
「生まれてこなければよかった」
あずさの腕の中で、杏里はつぶやいた。
「私には、生きる意味なんて、ない・・・」
もう、涙も出ない。
何も、したくない。
「そんなこといわないで。今度のことは、生徒会でも取り上げるから」
あずさが肩をゆすぶった。
必死の形相だった。
杏里は糸の切れたマリオネットのように、されるがままになっていた。
「とにかく、辛いことがあったら私を思い出して。杏里は私の大切な友達なんだから、ね、お願い」
タクシーに乗り込み、家路につくあいだ、あずさは杏里の手を握り、ずっとそんなことをいっていた。
だが、杏里にはもう、力なくうなずくことしかできなかった。
家に帰っても、相変らず何もする気が起きなかった。
制服を、ジャージの上下に着替えるのがやっとだった。
本来なら洗濯と夕食の準備をしなければならないのだが、立ち上がるのも億劫だった。
死のうか、と思う。
包丁で手首を切る。
そのくらいなら、簡単にできそうだ。
でも、そんなことぐらいで、人間は死ねるものだろうか。
かといって、喉を突く、というのは想像するだけで恐かった。
杏里は柱に瀬を預け、両脚を投げ出したまま、何時間もぼうっとしていた。
足首の痛みは引いていた。
のろのろとジャージをめくり上げて、胸を見る。
乳首が再生していた。
前よりピンクが濃いが、ほぼ元通りになっている。
少しだけ、ほっとした。
生まれつき、杏里は怪我に強かった。
子どもの頃から、ずっとそうだった。
大怪我をしても、数時間で治ってしまうことがほとんどだったのだ。
どのくらいそうして、放心状態でいたのだろう。
ふと気づくと、目の前に父が立っていた。
「ご、ごめんなさい・・・」
杏里ははっと我に返った。
夕食の準備、まだ全然手をつけていない。
窓の外はすっかり暗くなっていた。
電気をつけていないせいで、家のなかも薄暗い。
「い、今すぐ、ご飯、つくるから」
そういって、腰をあげようとしたときだった。
父の手から、白いものが落ちた。
杏里は床に落ちたそれを凝視した。
下着だった。
見るからにおぞましい、シースルーのブラジャーとパンティである。
「着替えろ」
ささやくような声で、父がいった。
これも・・・姉さんの・・・?
姉は縊死したとき、まだ中学三年生だった。
この前のピンクの下着といい、よく考えると不自然だ。
こんなもの、中学生に着られるわけがない。
が、逆らうことはできなかった。
父には昔から逆らえない何かがあった。
特に体罰を加えられたことがあるわけではない。
なのに、恐いのだ。
特に、母が死んでから、いっそう恐くなった。
これまでは姉がずっと防波堤になってくれていた。
しかし、今はその良子もいないのだ。
のろのろと全裸になり、そのいやらしい下着を身に着けた。
父が頭を押さえて杏里を坐らせる。
目と鼻の先に、ズボンのふくらみがあった。
父の息が荒くなっていた。
ズボンが床に落ちた。
腹につきそうなくらいそそり立った肉の棒が、杏里の頬を打つ。
「くわえろ」
頭をつかまれた。
いやいやをするように、杏里はかぶりを振った。
「良子は毎日してくれた」
杏里の唇に肉棒を押しつけながら父があえいだ。
「これからはおまえの番だ」
力が抜けた。
なんとなく、そうだろうと思っては、いた。
真夜中、空になる姉のベッド。
隣の部屋から聞こえる洗い息遣い。
ゴミ箱にあふれた異臭を放つティッシュの山・・・。
そして、あの噂話。
-良子ちゃん、妊娠してたんだってー
半開きになった杏里の口の中に、それが入ってきた。
熱く固いそれは、杏里のなかで更に太さと硬さを増したようだった。
あずさだった。
心配そうに眉根を寄せて、杏里の肩に手を置いている。
少年の姿はどこにもなかった。
幻だったのだろうか、と杏里はぼんやりした頭で思った。
「立てる?」
あずさが肩を貸してくれた。
使い物にならなかった左の足首は、なんとか持ち直したようだった。
まだ痛むものの、杏里の体重を支えるところまでは回復していた。
「ひどかったみたいだね」
二人三脚のように、ゆっくりと歩を進めながら、あずさがいった。
「ごめんね。間に合わなくって。急に、生徒会の用事で職員室に呼ばれちゃって」
「どうして、ここが?」
「さっき、あなたのクラスの男の子が来て、教えてくれたの。杏里が大変なことになってるって」
栗栖重人に違いない、
不思議な少年だった。
全員敵だと思っていた2年C組のなかで、彼だけは味方だと考えていいのだろうか。
「これじゃ、とてもおうちまで歩けないわね」
杏里の左足を見て、あずさがいう。
なんとか校門までたどりついたところだった。
「待ってて。タクシー呼ぶから」
杏里の返事も聞かず、スマホでタクシー会社を呼び出し、配車の依頼をする。
「そこの公園で待ちましょ。その間に、何があったのか、くわしく聞かせてくれる?」
杏里の話を聞き終えると、あずさは深いため息をついた。
「病んでるわね。この学校」
「私、もう・・・」
杏里はうなだれて弱々しくつぶやいた。
あずさがそばいてくれる今でさえ、世界がモノトーンに見える。
2度と学校には来れない、と思う。
全部、見られてしまった。
玩具のように弄ばれたのだ。
死にたい、と本気で願った。
この世界から、消えてなくなってしまいたかった。
「死にたい、なんて思わないで」
杏里の表情から察したのか、あずさが懇願するように。いった。
息を切らし、額にびっしりと汗を浮かべている。
杏里の話に激しい衝撃を受けているようだった。
「もうこれ以上、ひどいことなんて起こりっこないんだから」
杏里の肩をやさしく抱き寄せた。
杏里はあずさの胸に頬をうずめ、ぼんやりと思った。
それはそうかもしれない。
あれ以上ひどい事態など、想像もつかない。
しかし、そう考えても何の慰めにもならないのも、確かだった。
すべてが、もう起こってしまった後なのである。
私は、地獄を見てしまったのだ。
「生まれてこなければよかった」
あずさの腕の中で、杏里はつぶやいた。
「私には、生きる意味なんて、ない・・・」
もう、涙も出ない。
何も、したくない。
「そんなこといわないで。今度のことは、生徒会でも取り上げるから」
あずさが肩をゆすぶった。
必死の形相だった。
杏里は糸の切れたマリオネットのように、されるがままになっていた。
「とにかく、辛いことがあったら私を思い出して。杏里は私の大切な友達なんだから、ね、お願い」
タクシーに乗り込み、家路につくあいだ、あずさは杏里の手を握り、ずっとそんなことをいっていた。
だが、杏里にはもう、力なくうなずくことしかできなかった。
家に帰っても、相変らず何もする気が起きなかった。
制服を、ジャージの上下に着替えるのがやっとだった。
本来なら洗濯と夕食の準備をしなければならないのだが、立ち上がるのも億劫だった。
死のうか、と思う。
包丁で手首を切る。
そのくらいなら、簡単にできそうだ。
でも、そんなことぐらいで、人間は死ねるものだろうか。
かといって、喉を突く、というのは想像するだけで恐かった。
杏里は柱に瀬を預け、両脚を投げ出したまま、何時間もぼうっとしていた。
足首の痛みは引いていた。
のろのろとジャージをめくり上げて、胸を見る。
乳首が再生していた。
前よりピンクが濃いが、ほぼ元通りになっている。
少しだけ、ほっとした。
生まれつき、杏里は怪我に強かった。
子どもの頃から、ずっとそうだった。
大怪我をしても、数時間で治ってしまうことがほとんどだったのだ。
どのくらいそうして、放心状態でいたのだろう。
ふと気づくと、目の前に父が立っていた。
「ご、ごめんなさい・・・」
杏里ははっと我に返った。
夕食の準備、まだ全然手をつけていない。
窓の外はすっかり暗くなっていた。
電気をつけていないせいで、家のなかも薄暗い。
「い、今すぐ、ご飯、つくるから」
そういって、腰をあげようとしたときだった。
父の手から、白いものが落ちた。
杏里は床に落ちたそれを凝視した。
下着だった。
見るからにおぞましい、シースルーのブラジャーとパンティである。
「着替えろ」
ささやくような声で、父がいった。
これも・・・姉さんの・・・?
姉は縊死したとき、まだ中学三年生だった。
この前のピンクの下着といい、よく考えると不自然だ。
こんなもの、中学生に着られるわけがない。
が、逆らうことはできなかった。
父には昔から逆らえない何かがあった。
特に体罰を加えられたことがあるわけではない。
なのに、恐いのだ。
特に、母が死んでから、いっそう恐くなった。
これまでは姉がずっと防波堤になってくれていた。
しかし、今はその良子もいないのだ。
のろのろと全裸になり、そのいやらしい下着を身に着けた。
父が頭を押さえて杏里を坐らせる。
目と鼻の先に、ズボンのふくらみがあった。
父の息が荒くなっていた。
ズボンが床に落ちた。
腹につきそうなくらいそそり立った肉の棒が、杏里の頬を打つ。
「くわえろ」
頭をつかまれた。
いやいやをするように、杏里はかぶりを振った。
「良子は毎日してくれた」
杏里の唇に肉棒を押しつけながら父があえいだ。
「これからはおまえの番だ」
力が抜けた。
なんとなく、そうだろうと思っては、いた。
真夜中、空になる姉のベッド。
隣の部屋から聞こえる洗い息遣い。
ゴミ箱にあふれた異臭を放つティッシュの山・・・。
そして、あの噂話。
-良子ちゃん、妊娠してたんだってー
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