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第1部 激甚のタナトス
#14 破壊された少女
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女生徒たちが、かわるがわる寄ってきては、杏里をつねったり、叩いたりした。
キャッキャと笑いながら、脚で蹴る者もいる始末だった。
男子生徒はもっと露骨で、近づいては杏里の胸や尻、股間を触っていった。
そのたびに杏里は、腕で体を庇おうとした。
「ちょっと誰か、こいつの手、縛っといてくれない?」
その様子を見ていたロンパリ少女が、不愉快そうにいった。
「あいよ」
女子のひとりが陽気に応え、ハンカチを手に杏里の背後に回ると、後ろ手に手首をきつく縛り上げた。
杏里はもがいた。
唯一自由だった両手が、まだほとんど何の抵抗もしないうちに使えなくなってしまったのだ。
腹筋の要領で上体を起こそうとしたが、もともと筋力が低いので、体はぴくりとも動かなかった。
「リサ、はい、糸」
姿を消していた女生徒が戻ってきた。
「ありがと~」
リサと呼ばれた不気味少女は糸巻きを受け取ると、杏里のほうに向き直った。
「大きくなあれ」
節をつけて唄いながら、乳首を触り始めた。
ひねり、つまみ、顔を近づけて前歯で甘噛みした。
「やめて」
いくら抵抗しても、身体の反応は止められない。
乳首の変化に気づき、杏里は耳朶まで赤くなった。
「ほ~ら、固くなってきたよ」
その勃起した乳首を指で弾き、にやにや笑う。
杏里は顔を背けた。
別に快感を覚えているわけではなかった。
なのに肉体が勝手に反応してしまっているのだ。
チクリと痛みを感じ、目を開いた。
リサが両方の乳首の根元を糸で縛っていた。
「は~い、できたよ。誰かこっち持って」
「俺、やりてえ」
男子が目をぎらつかせながら、名乗り出た。
「じゃ、せーの、で、思いっきり引っ張りま~す」
リサが糸の端を持ったまま、後ろに下がる。
人の輪が少し引いた。
-ひえ~、痛そう~
女生徒の多くが、さすがに顔をしかめ、腕で自分の胸を守るような格好をしている。
「せ~の!」
リサと、男子生徒が同時に別々の方向に走った。
糸が両側にぴんと張った。
杏里はまたしても悲鳴を上げた。
乳首ごと乳房が引っ張られていく。
ゴムのように伸びた。
「痛い! やめて! 痛いってば!」
涙があふれ出た。
動くと余計痛いので、体をねじって逃げることもできなかった。
限界まで伸びきったところで、
ブチっという嫌な音がした。
杏里が絶叫した。
リサと男子生徒が、もんどり打って転がった。
血がしぶいた。
「やべーんじゃないの?」
誰かがつぶやいた。
乳首がちぎれていた。
杏里は自分の白い胸に開いた2つの赤い血の花を見つめた。
ひどい・・・。
頭の中が真っ白になった。
どうしてこんな、ひどいことを・・・。
「あー、面白かった。これ、もらっとこっと」
ちぎれた杏里の乳首を指で弄びながらリサが下がると、今度は体格のいい男子生徒が杏里の前に立った。
「俺さ、こんなサンドバッグ、欲しかったんだよ」
ボクシングの構えを取り、フットワークも軽く、体をリズミカルに揺らし始める。
「やめて・・・」
声を出したとたん、強烈な回し蹴りがわき腹に入った。
杏里は派手にうめき、口から泡を吹きだした。
「まだまだ!」
二発めが、反対側のわき腹を襲う。
ぐったりとなった杏里のへこんだ腹に、左右の重いパンチがめり込んだ。
「マサ、顔に当てんなよ。それから、死なない程度にね」
萌がいう。
「わかってるって」
眼にも留まらぬパンチが次々に杏里の腹を襲った。
猛烈な吐き気がこみ上げてきて、杏里はむせながら吐いた。
未消化の弁当の残骸が、熱い奔流となってほとばしった。
「くっせーなー」
「ちょっと、誰か雑巾とモップ!」
騒ぎ出す野次馬たち。
その間にも、新たなストレス解消者が歩み出る。
「はさみ、借りてもいい?」
一年生らしき、男子だった。
「どぞ」
萌が裁縫ばさみを差し出した。
「ぼくさあ、女の子のあそこ、どうなってのか、いっぺん見たかったんだ」
男子生徒はほとんど動かなくなった杏里に近づくと、スクール水着の股間の部分にはさみの刃を入れた。
ザクっと音がして、水着が開き、局部が顕わになる。
「うわ、こんなになってるんだ。ピンク色で、きれい」
「俺にも見せろって」
男子連中がわっとばかりに杏里を取り囲む。
「なんだこいつ、毛が生えてねーじゃん」
「すっげー、すべすべ!」
「カレシに剃られたとか?」
卑猥な笑い声が起こった。
杏里は朦朧とした意識のなかで、大事な部分を弄り回されるのを感じた。
だが、抵抗したくとも、体力も気力も底をついていた。
全身の骨がばらばらに砕けたかののように、あちこちが痛くてたまらない。
「ちょっと、どきな」
ふいに萌の声が聞こえてきた。
「これ、入るかどうか、試してみようよ」
え?
その陰湿な声の響きが、杏里の意識を束の間現実に引き戻した。
薄目を開けた。
背筋を悪寒が走るのがわかった。
萌が箒を片手に立っていた。
「な、何、する、つもり?」
やっとのことで、いった。
「脚、持ってて」
男子生徒たちが、杏里の脚にしがみつく。
極限まで股が開かれ、その中心にぷっくりと盛り上がった可憐な肉の丘が顕わになる。
萌が肉襞を指でつまみ、左右に大きく開いた。
きれいなサーモンピンクがむき出しになる。
「行くよ」
いきなりその中心に、萌が箒の柄を突き立てた。
!!!
杏里の体がびくんと跳ねた。
宙吊りのまま、海老のように反り返る。
股間からどくどくと血が吹き出し、なまめかしい白い太腿を見る間に真っ赤に染めていく。
「ほらよっと!」
萌が体重をかけて、箒を更に深く突き入れた。
下腹が、奇妙な具合に膨らんだ。
更に、萌が突いた。
衝撃でロープが解け、杏里は落ちた。
血だるまになっていた。
股間から箒を生やしたその姿は、何かたちの悪いジョークか、シュールな彫像のようだった。
汐が引くように、周囲から緊迫感が引いていった。
「ちぇ、だらしないの。もう気絶しやがって。こいつ、誰かどっかに捨ててきて」
動かなくなった杏里の尻を蹴って、脱力したように、萌がいった。
ふと気がつくと、薄暗い部屋の片隅に転がっていた。
どうやら体育倉庫のようだ。
跳び箱や平均台、マットなどが、所狭しと積み重ねてあるのが目に入ってきた。
黴臭い臭いと、汗の匂いが鼻をつく。
杏里はおそるおそる体を動かしてみた。
あれほどひどいめにあったにもかかわらず、痛みはかなり薄らいでいた。
乳房の先端にはかさぶたができ、盛り上がってきている。
膣からの出血も止まっていた。
そっと、股間に刺さったままの箒を抜いた。
膣の中がひりひりしてならない。
思い切って、立ち上がろうとした。
すぐに、左の足首がガクッと曲がり、ひっくり返った。
ロープで縛られていた辺りから先が、ぶらぶらになっていた。
骨折しているのかもしれなかった。
ロープははずされていたが、左足の感覚がなくなっているのだ。
しばらくは歩けそうになかった。
救いは、着替えが一緒に倉庫の中に投げ込まれていたことだった。
坐ったまま、杏里はびりびりになった水着を脱ぎ、いったん全裸になった。
全身に紫色のあざができていた。
苦労して体をよじり、パンティを穿き、ブラジャーをつける。
ブラウスを羽織り、スカートを穿き終えたときだった。
「大丈夫?」
入口に、頭が覗いた。
体育館に来る前に教室で会った少年だった。
「ボクだよ。栗栖重人」
少年はあたりをうかがいながら中に入ってくると、杏里の前にかがみこんで額に手を伸ばしてきた。
「痛かったでしょ」
黒目がちな瞳が、やつれた杏里の顔を覗き込む。
「これ、もってきた」
ペットボトルのスポーツドリンクの蓋を開け、杏里の右手に握らせた。
「ありがと・・・」
一口飲むと、口の中が切れているのか、鈍い痛みが走った。
だが、喉の渇きのほうが勝っていた。
杏里はごくごくと喉を鳴らして液体を飲み干した。
「落ち着いた?」
少年が。訊いた。
杏里はうなずいた。
そして、かすれた声で、いった。
「私と一緒に居ると、殺されるんじゃなかったの?」
「ああ、あれ」
少年がきまり悪そうな表情になった。
「もう、大丈夫だと思う。みんな、憑きもの、落ちたみたいだから」
「憑きものって?」
杏里は眦を吊り上げた。
からかわれたと思ったのだ。
「別に、妖怪が取りついてたとか、そういうのじゃないよ」
あわてて少年が弁解した。
「なんか、雰囲気っていうかさ、そういうもの」
「よく、わからない」
「少し、眠るといいよ」
少年が、また杏里の額に手を伸ばしてきた。
熱を計るように、掌を当てる。
赤ん坊のそれのように、ふっくらとして、やわらかい掌だった。
「キミ、本当は誰・・・なの?」
眠気が襲ってきた。
杏里はがっくりと首を落とすと、あっという間に寝息を立て始めた。
そして、久しぶりに、母の夢を見た。
母が死んだのは、今から三年前、杏里が小学校の六年生のときである。
脾臓ガンだった。
病室で最後に話をしたとき、
「一緒に死ぬ」
と言い張る杏里に、母はいったのだった、
「おまえがこの世界に生きてる意味、それがいつかわかるときがくるから」
見る影もなくやせさばらえた顔で、それでもやさしく、いったのだ。
「だから杏里、おまえは、生きるの」
この世界に、私が生きている意味?
探そうと思ったよ。
でも、お母さん。
そんなもの、どこにもなかったよ・・・。
私、もう、死んでも、いいかな?
キャッキャと笑いながら、脚で蹴る者もいる始末だった。
男子生徒はもっと露骨で、近づいては杏里の胸や尻、股間を触っていった。
そのたびに杏里は、腕で体を庇おうとした。
「ちょっと誰か、こいつの手、縛っといてくれない?」
その様子を見ていたロンパリ少女が、不愉快そうにいった。
「あいよ」
女子のひとりが陽気に応え、ハンカチを手に杏里の背後に回ると、後ろ手に手首をきつく縛り上げた。
杏里はもがいた。
唯一自由だった両手が、まだほとんど何の抵抗もしないうちに使えなくなってしまったのだ。
腹筋の要領で上体を起こそうとしたが、もともと筋力が低いので、体はぴくりとも動かなかった。
「リサ、はい、糸」
姿を消していた女生徒が戻ってきた。
「ありがと~」
リサと呼ばれた不気味少女は糸巻きを受け取ると、杏里のほうに向き直った。
「大きくなあれ」
節をつけて唄いながら、乳首を触り始めた。
ひねり、つまみ、顔を近づけて前歯で甘噛みした。
「やめて」
いくら抵抗しても、身体の反応は止められない。
乳首の変化に気づき、杏里は耳朶まで赤くなった。
「ほ~ら、固くなってきたよ」
その勃起した乳首を指で弾き、にやにや笑う。
杏里は顔を背けた。
別に快感を覚えているわけではなかった。
なのに肉体が勝手に反応してしまっているのだ。
チクリと痛みを感じ、目を開いた。
リサが両方の乳首の根元を糸で縛っていた。
「は~い、できたよ。誰かこっち持って」
「俺、やりてえ」
男子が目をぎらつかせながら、名乗り出た。
「じゃ、せーの、で、思いっきり引っ張りま~す」
リサが糸の端を持ったまま、後ろに下がる。
人の輪が少し引いた。
-ひえ~、痛そう~
女生徒の多くが、さすがに顔をしかめ、腕で自分の胸を守るような格好をしている。
「せ~の!」
リサと、男子生徒が同時に別々の方向に走った。
糸が両側にぴんと張った。
杏里はまたしても悲鳴を上げた。
乳首ごと乳房が引っ張られていく。
ゴムのように伸びた。
「痛い! やめて! 痛いってば!」
涙があふれ出た。
動くと余計痛いので、体をねじって逃げることもできなかった。
限界まで伸びきったところで、
ブチっという嫌な音がした。
杏里が絶叫した。
リサと男子生徒が、もんどり打って転がった。
血がしぶいた。
「やべーんじゃないの?」
誰かがつぶやいた。
乳首がちぎれていた。
杏里は自分の白い胸に開いた2つの赤い血の花を見つめた。
ひどい・・・。
頭の中が真っ白になった。
どうしてこんな、ひどいことを・・・。
「あー、面白かった。これ、もらっとこっと」
ちぎれた杏里の乳首を指で弄びながらリサが下がると、今度は体格のいい男子生徒が杏里の前に立った。
「俺さ、こんなサンドバッグ、欲しかったんだよ」
ボクシングの構えを取り、フットワークも軽く、体をリズミカルに揺らし始める。
「やめて・・・」
声を出したとたん、強烈な回し蹴りがわき腹に入った。
杏里は派手にうめき、口から泡を吹きだした。
「まだまだ!」
二発めが、反対側のわき腹を襲う。
ぐったりとなった杏里のへこんだ腹に、左右の重いパンチがめり込んだ。
「マサ、顔に当てんなよ。それから、死なない程度にね」
萌がいう。
「わかってるって」
眼にも留まらぬパンチが次々に杏里の腹を襲った。
猛烈な吐き気がこみ上げてきて、杏里はむせながら吐いた。
未消化の弁当の残骸が、熱い奔流となってほとばしった。
「くっせーなー」
「ちょっと、誰か雑巾とモップ!」
騒ぎ出す野次馬たち。
その間にも、新たなストレス解消者が歩み出る。
「はさみ、借りてもいい?」
一年生らしき、男子だった。
「どぞ」
萌が裁縫ばさみを差し出した。
「ぼくさあ、女の子のあそこ、どうなってのか、いっぺん見たかったんだ」
男子生徒はほとんど動かなくなった杏里に近づくと、スクール水着の股間の部分にはさみの刃を入れた。
ザクっと音がして、水着が開き、局部が顕わになる。
「うわ、こんなになってるんだ。ピンク色で、きれい」
「俺にも見せろって」
男子連中がわっとばかりに杏里を取り囲む。
「なんだこいつ、毛が生えてねーじゃん」
「すっげー、すべすべ!」
「カレシに剃られたとか?」
卑猥な笑い声が起こった。
杏里は朦朧とした意識のなかで、大事な部分を弄り回されるのを感じた。
だが、抵抗したくとも、体力も気力も底をついていた。
全身の骨がばらばらに砕けたかののように、あちこちが痛くてたまらない。
「ちょっと、どきな」
ふいに萌の声が聞こえてきた。
「これ、入るかどうか、試してみようよ」
え?
その陰湿な声の響きが、杏里の意識を束の間現実に引き戻した。
薄目を開けた。
背筋を悪寒が走るのがわかった。
萌が箒を片手に立っていた。
「な、何、する、つもり?」
やっとのことで、いった。
「脚、持ってて」
男子生徒たちが、杏里の脚にしがみつく。
極限まで股が開かれ、その中心にぷっくりと盛り上がった可憐な肉の丘が顕わになる。
萌が肉襞を指でつまみ、左右に大きく開いた。
きれいなサーモンピンクがむき出しになる。
「行くよ」
いきなりその中心に、萌が箒の柄を突き立てた。
!!!
杏里の体がびくんと跳ねた。
宙吊りのまま、海老のように反り返る。
股間からどくどくと血が吹き出し、なまめかしい白い太腿を見る間に真っ赤に染めていく。
「ほらよっと!」
萌が体重をかけて、箒を更に深く突き入れた。
下腹が、奇妙な具合に膨らんだ。
更に、萌が突いた。
衝撃でロープが解け、杏里は落ちた。
血だるまになっていた。
股間から箒を生やしたその姿は、何かたちの悪いジョークか、シュールな彫像のようだった。
汐が引くように、周囲から緊迫感が引いていった。
「ちぇ、だらしないの。もう気絶しやがって。こいつ、誰かどっかに捨ててきて」
動かなくなった杏里の尻を蹴って、脱力したように、萌がいった。
ふと気がつくと、薄暗い部屋の片隅に転がっていた。
どうやら体育倉庫のようだ。
跳び箱や平均台、マットなどが、所狭しと積み重ねてあるのが目に入ってきた。
黴臭い臭いと、汗の匂いが鼻をつく。
杏里はおそるおそる体を動かしてみた。
あれほどひどいめにあったにもかかわらず、痛みはかなり薄らいでいた。
乳房の先端にはかさぶたができ、盛り上がってきている。
膣からの出血も止まっていた。
そっと、股間に刺さったままの箒を抜いた。
膣の中がひりひりしてならない。
思い切って、立ち上がろうとした。
すぐに、左の足首がガクッと曲がり、ひっくり返った。
ロープで縛られていた辺りから先が、ぶらぶらになっていた。
骨折しているのかもしれなかった。
ロープははずされていたが、左足の感覚がなくなっているのだ。
しばらくは歩けそうになかった。
救いは、着替えが一緒に倉庫の中に投げ込まれていたことだった。
坐ったまま、杏里はびりびりになった水着を脱ぎ、いったん全裸になった。
全身に紫色のあざができていた。
苦労して体をよじり、パンティを穿き、ブラジャーをつける。
ブラウスを羽織り、スカートを穿き終えたときだった。
「大丈夫?」
入口に、頭が覗いた。
体育館に来る前に教室で会った少年だった。
「ボクだよ。栗栖重人」
少年はあたりをうかがいながら中に入ってくると、杏里の前にかがみこんで額に手を伸ばしてきた。
「痛かったでしょ」
黒目がちな瞳が、やつれた杏里の顔を覗き込む。
「これ、もってきた」
ペットボトルのスポーツドリンクの蓋を開け、杏里の右手に握らせた。
「ありがと・・・」
一口飲むと、口の中が切れているのか、鈍い痛みが走った。
だが、喉の渇きのほうが勝っていた。
杏里はごくごくと喉を鳴らして液体を飲み干した。
「落ち着いた?」
少年が。訊いた。
杏里はうなずいた。
そして、かすれた声で、いった。
「私と一緒に居ると、殺されるんじゃなかったの?」
「ああ、あれ」
少年がきまり悪そうな表情になった。
「もう、大丈夫だと思う。みんな、憑きもの、落ちたみたいだから」
「憑きものって?」
杏里は眦を吊り上げた。
からかわれたと思ったのだ。
「別に、妖怪が取りついてたとか、そういうのじゃないよ」
あわてて少年が弁解した。
「なんか、雰囲気っていうかさ、そういうもの」
「よく、わからない」
「少し、眠るといいよ」
少年が、また杏里の額に手を伸ばしてきた。
熱を計るように、掌を当てる。
赤ん坊のそれのように、ふっくらとして、やわらかい掌だった。
「キミ、本当は誰・・・なの?」
眠気が襲ってきた。
杏里はがっくりと首を落とすと、あっという間に寝息を立て始めた。
そして、久しぶりに、母の夢を見た。
母が死んだのは、今から三年前、杏里が小学校の六年生のときである。
脾臓ガンだった。
病室で最後に話をしたとき、
「一緒に死ぬ」
と言い張る杏里に、母はいったのだった、
「おまえがこの世界に生きてる意味、それがいつかわかるときがくるから」
見る影もなくやせさばらえた顔で、それでもやさしく、いったのだ。
「だから杏里、おまえは、生きるの」
この世界に、私が生きている意味?
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