激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【覚醒編】

戸影絵麻

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第1部 激甚のタナトス

#13 穢されたスクール水着

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 ありえないことだった。
 体育館の入口で、杏里は凍りついたように立ち竦んだ。
 誰も居ない。
 この時間なら、そろそろ体育館を使う部活動の部員たちが集まっていてもいいはずである。
 なのに、バレーコートにも、バスケットボールのコートにも、人っ子ひとりいないのだ。
 もちろん、萌たちクラスの連中の姿も見えなかった。
 そして。
 バスケットボールのゴールの真下に、それはあった。
 安奈の服である。
 セーラー服とスカート、それから下着と手提げ袋が、ゴールポストの下の白い円の中に散乱している。
 うなじの産毛がざわざわと逆立つのがわかった。
 罠だ、と思った。
 あまりにもあからさまな、罠だ。
 だが、そのままにしておくわけにはいかなかった。
 杏里は足を忍ばせて、そろそろと前進した。
 誰も出てこない。
 がらんとした体育館は、ひどく不気味だった。
 開け放たれた窓からは青い夏空がのぞき、さわやかな風が吹き込んでくる。
 が、杏里は汗だくだった。
 暑いからというより、冷たい脂汗が止まらないのだった。
 濡れた水着が気持ち悪かった。
 ゴールポストの前まで。何事もなくたどり着くことができた。
 急いで駆け寄り、まず手提げ袋を拾い上げた。
 クマのキャラクターをあしらった、お気に入りの手提げである。
 ふと、視界の端に妙なものが見えた。
 床に描かれた白い円をなぞるようにして、ロープが置いてある。
 ロープの輪から更に長いロープが上に伸び、ゴールポストをくぐってステージのほうに続いている。
 まさか・・・。
 その意味に気づいて、杏里は全力で飛び下がろうとした。
 だが、ほんの少しだけ遅かった。
 ばさっ。
 生き物のようにロープが動いた。
 左足首に痛みを覚えた。
 体が傾いた。
 倒れそうになったとき、左足をぐいと引かれた。
「あああっ」
 杏里は悲鳴を上げた。
 体が半回転して、さかさまになった。
 宙に浮いた。
 不安定に大きく揺れ、さかさまに吊り下げられたままゴールポストにぶつかった。
 後頭部を鉄柱にぶつけ、一瞬気が遠くなる。
 次に目を開けたときには、完全にゴールポストから下がったロープで宙吊りにされていた。
 タオルはどこかにいってしまい、濡れたスクール水着一枚のあまりに無防備な姿だった。
 しかも、ロープが左足だけに巻きついているため、自然と右足が開いていってしまう。
 太腿を閉じようにも、重力のせいで長くは持たないのだ。
 複数の笑い声が響いた。
 たくさんの足音が、背後から近づいてくる。
 様々な部活のユニフォームを着た生徒たちが、遠巻きに杏里を取り囲んだ。
 好奇の眼が集中する。
ーなになに? 
ーイベントってこれなの?
ー誰、この子?
ー転校生で、生意気なんだって。
ーうわ、エロ!
ーオレ、触っちゃうよ!
 ほとんどが見知らぬ生徒たちだ。
 恥ずかしさと苦しさで、気が遠くなりそうだった。
「助けて」
 杏里は叫んだ。
「誰か、下ろして。先生を、呼んできて」
「そうはいかないよ」
 聞き慣れた声がした。
 今、いちばん聞きたくない声だった。
 人垣を掻き分けて、萌が姿を現した。
 竹刀を肩に担いだ茶髪がその後に続いている。
 萌の取り巻きを中心に、2-Cのクラスメートたちが、杏里を取り囲んだ。
「一年生は、先公が来ないかどうか、見張ってな」
 茶髪が命令を下した。
 小学生に毛が生えたような男子生徒が数人、渡り廊下のほうに駆けていく。
「下ろして」
 萌の狐めいた顔を睨みつけて、杏里はいった。
「うっせえんだよ」
 茶髪が、だしぬけに竹刀の先で杏里のへその辺りを突いた。
 体をくの字に折り、杏里はむせた。
 茶髪が更に竹刀を上段に振りかぶった。
 剣道の心得があるのか、堂にいった構え方だった。
 鋭く、空気が鳴った。
 杏里の開いた股間に、すさまじい勢いで竹刀が振り下ろされた。
 杏里は絶叫した。
 反動で体が回転する。
 続いて、横腹を、尻を、容赦なく打ち据えられた。
「ちょっと、まだ殺さないでよね」
 萌が茶髪を止め、前へ進み出る。
 手に、裁縫バサミを持っていた。
「どこからが、いい?」
 髪の毛をつかんで杏里の回転を止めると、にやにや笑いながら訊いてきた。
 杏里は薄目を開け、唾を吐いた。
「てめえ」
 萌の声が低く、ドスの効いたものになった。
「舐めてんじゃねーよ」
 握っていた杏里の髪を、根元から切った。
 ぼとっと音を立てて。髪の束が床に落ちる。
「あたしにも、やらせてくんない?」
 唐突に、いちばん前で食い入るように眺めていた小柄な少女が、うきうきした口調でいった。
 目玉が左右で違う方向を向いた、見るからに危なそうな感じのする少女だった。
「これ、持ってきたんだ」
 カッターナイフを取り出した。
 ギリギリと耳障りな音をさせて、刃を伸ばす。
「OK」
 萌が満足げにうなずいた。
「ストレス解消したいやつは遠慮なくいいな」
「じゃ、次、俺」
「俺も」
 どんどん輪が狭まってくる。
「やめて」
 杏里は叫んだ。
 苦しかった。
 左足のつけ根と、茶髪に竹刀で叩かれた股間や脇腹が痛くてならなかった。
「えへへへ」
 変な笑い方をしながら、ロンパリの少女が杏里の前に座り込んだ。
 水着の胸のふくらみに手を伸ばしてくる。
 生地の一部をつまんでひっぱると、続いて二箇所、カッターで切った。
 胸の右と左に、小さな穴が開く。
 そこから、杏里のピンク色の乳首が飛び出した。
「かわいい」
 少女が、舌なめずりするようにいった。
「誰か、糸、持ってない?」
 野次馬たちのほうを振り向いて、訊く。
「あるよ。ちょっと待ってて」
 興奮で頬を赤くした女生徒のひとりが名乗りを上げ、輪を抜けていった。
「や、やめてよ」
 杏里の声に懇願の響きが混じった。
 恐怖で身のすくむ思いだった。
「あんた、ドMなんでしょ」
 少女がニタッと微笑んだ。
「あたしはドSだから、きっと気が合うと思うんだ」
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