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第3章 美少女監禁

#16 蜜色の部屋

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 すべての器具を取り去ると、私はベッドに身を横たえ、後ろから杏里に両腕を回した。
 杏里は動かなかった。
 でも、肌は温かく、いつまでもこうしていたいと、心から祈った。
 ようやく、杏里は私のものになったのだ。
 杏里のうなじに顔をうずめ、その汗とフェロモンの匂いに包まれながら、私は陶然となった。
 貪るように杏里の身体をまさぐった。
 次第に自分の身体も火照ってくるのがわかった。
 見ているだけ、というのは、本当につらかったのだ。
 人形のように従順な杏里の裸体を、隅々まで舐め回しながら私は痛切に思った。
 どのくらいそうして杏里を弄んでいたのか。
「ううん…」
 乳首を弄っていると、ふいに杏里がうめき、目を覚ました。
 ベッドの横の三面鏡に、背後から抱きしめられた杏里の裸身が映っている。
 杏里はそこに映る自分の姿にじっと見入っている。
「どうしてほしい?」
 耳元でささやくと、
「そのまま、触っていてほしい」
 甘えるような声で、杏里が答えた。
 しばらく愛撫を繰り返していると、杏里の乳首が硬さを取り戻してきた。
「また勃ってる」
 私は杏里を仰向けにすると、醜いふたつの口をめいっぱい開けて、その乳房を含んだ。
 2枚の舌でふたつの乳首を同時に転がしてやる。
 これは世界中でも、おそらく私にしかできない芸当だ。
 すぐに杏里がはあはあと喘ぎ始めた。
 さっきあんなに激しく潮を吹いて果てたばかりなのに、またすぐ感じ出すというのは、いったいどういう体のつくりをしているのだろう。
「誰が好き?」
 特大のプリンのような乳房を解放すると、たまらなくなって、私はたずねた。
 狂ったような激情の渦が去り、今はこんなにも杏里のことが愛おしい。
「決まってるでしょ。よどみだよ」
 杏里が言って、そっと私の右の唇にキスをした。
「杏里…」
 私は杏里を強く抱きしめた。
 乳房と乳房を重ね合わせ、力任せに体を押しつける。
 私の心の中には物心ついた時からずっと、ぽっかりと深く黒い穴が開いている。
 杏里を抱きしめていると、少しずつだが、その穴が温かいもので埋まっていく気がした。
「ひどいことして、ごめんね…私、試したかったんだ…ていうか、試さずにはいられなかった…」
「いいんだよ」
 私の腕の中で、杏里がくすっと笑った。
「よどみが癒されたなら、私はもうそれでいい」
 そうなのだろうか。
 本物の癒しが、本当に私の上に訪れたのだろうか。
「タナトスって、何? 本来の意味は知ってるけど、杏里のいうタナトスって、何のことなの?」
 ずっと気になっていたこと。
 ふとそれを思い出して、私は訊いた。
 杏里の目が私の視線を捉えた。
 そして、ゆっくりとした口調で、話し始めた。
「人間は、誰もが死への欲望を抱えて生きている。でも、その欲望は、往々にして、自分に向かわず、他者への破壊衝動となる。だから、それは癒されなくてはいけない。なぜってそのままにしておいたら、それはいじめや虐待や殺人、果ては戦争にまで発展してしまうから。”タナトス”は、その衝動を昇華して、生への欲望、エロスに変える存在。ある事情から、私はその”タナトス”に選ばれた。だから私は、その任務を遂行しているだけ」
「死への欲望を、エロスに変える…?」
 杏里を抱いたまま、私は目をしばたたかせた。
「じゃあ、杏里は、クラスの連中や私の中にあるその”死への欲望”とやらを消し去るために、どこからか派遣されてきた、謎の使者みたいな存在だと、そう言いたいわけ?」
「他にもいろいろあるけど、単純に言うと、そういうことになるかな」
 他にも?
 私はいつか杏里の家に行った時、杏里の養父の小田切に「外来種か?」と訊かれたことを思い出した。
 あれがその”他の事情”とやらに、何か関係あるのだろうか。
 私はすっと気持ちが冷えていくのを感じないではいられなかった。
 杏里のいう”タナトス”という存在に興味がないわけではない。
 地球規模の公共の福祉を具現化したような、そんなものが実在するのだとしたら、それはもはや人間ではなく、道具のようなものなのではないか。 
 そんな気さえするほどだった。
 でも、私を落ち込ませたのは、そのことではなかった。
 わかってはいたけれど、これではっきりしたのである。
 杏里が私に接近してきたのは、私の抱える”死への欲望”が、あまりに強烈だったからなのだ。
 それは杏里のようなタナトスから見れば、それこそ肉眼で確認できるほど黒く危険なものだったに違いない。
 だから彼女は転校早々、真っ先に私に話しかけてきたのだろう。
  私は愛撫の手を止めた。
 また片思いだったのだ。
 殺そう、と思った。
 もし私の予想通りなら、杏里はまた他の獲物を求めて、私の許を去っていくに違いない。
 所詮それだけの関係にすぎなかったというのなら、ここで殺してしまえばそれですべて終了だ。
 私は無意識のうちに杏里のか細い首に両手をかけていた。
 そのまま力を籠めようとした時である。
 ふいに、私の心を読んだかのように、杏里が言った。
「でも勘違いしないで、私、よどみとのことは、決して任務からだけじゃないと思ってる。私にはあなたの苦しみが痛いほどわかるから。きっと私たちは同類なんだって、最初会った瞬間、痛いほどそう感じたから」
「うそ」
 うなるように私は言った。
「嘘だと思うなら、殺せばいい」
 杏里が答えた。
 真剣そのもののまなざしをしていた。
「同情なんか要らない」
 私は指に力を入れた。
「狩人に同情される獲物になんてなりたくない」
「よどみの馬鹿」
 杏里が言った。
 手を伸ばして、私の奇形の口を触ってきた。
「この顔が何なの? 私はあなたのやさしさが好き。それがいけないことだったの?」
「うそ」
 もう一度、私はつぶやいた。
 手から力が抜けていくのが分かった。
 沈黙が落ちた。
 私は目をつぶった。
 目じりに熱いものがにじんだ。
「よどみ…?」
 それを杏里が指先でそっとぬぐい取った。
「杏里…ごめん」
 私はうなだれ、杏里の白い胸に顔を埋めた。
 温かいものがまたあふれてきて、胸の空洞にしみこんでいく。
「いいよ」
 杏里が私の手を握ってきた。
「よどみはもっと、泣いていいんだよ」
 心にしみる優しい声で言う。
 が、私は油断しすぎていたようだ。
 幸せなんて、長くは続かない。
 そんなこと、ずっと前から知っていたはずなのに。
 杏里の表情が、突然凍りついた。
 同時に、鏡の中に私も見た。
 納屋の扉が開いている。
 まずい。
 そう思った瞬間、
 割れ鐘のような怒声が響き渡った。
「こんなことだろうと思った! よどみったら、親をさし置いてずいぶんお楽しみじゃないか!」
 そう。
 こともあろうに…。
 私たちは、今もっとも会いたくない相手、本物のモンスターに見つかってしまったのである。

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