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第3章 美少女監禁

#2 母の審判

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 理沙は黒い喪服のようなミニドレスを着ていた。
 殊勝な心掛けを少しでもアピールしよう。
 そういう魂胆なのかもしれなかった。
「なんであたしが謝らなきゃいけないのか、ぜんぜんわかんないんだけど」
 私の顔から目を背けて、理沙が言った。
「先公たちがあんまりうるさいんで、とりあえず来てやったよ」
「覚えてないの? きのうのこと」
 粉を吹いたように白い理沙の横顔を見つめて、私は訊いた。
「あんまりね。集団幻覚じゃないかって、医者はいってたけど」
 ゆるゆると理沙がかぶりを振った。
「でも、あれはあんたが仕組んだものだった。杏里を陥れるために」
 私の追及に、理沙が苛立たしげに肩をすくめてみせた。
「だから、そこんとこがはっきりしないんだって。そりゃ、確かにあの魔女みたいな女は気に入らなかったけど、でも、今となってはなんでそう思い込んでたのかもわかんないんだ。とにかく、来てやったんだから、それでもう、文句ないだろ?」
「それはママに言って。怒ってるのは、私じゃなくって、ママのほうだから」
 理沙を母屋に案内すると、奥の和室で母が待っていた。
 茶系統のサリーに身を包んだ鏡餅体型の母は、さながら家の中に放置された巨大な野糞のような外観を呈していた。
「こっちに来て、座りな」
 理沙を見るなり、肉厚の顔面の中でぎょろりとした目を光らせて、母が手招きした。
 こわごわといった感じで、母の正面に正座する理沙。
「あんた、自分が何したか、わかってるんだろうね」
 理沙が詫びの言葉を口にするよりも早く、母が言った。
「聞くところによれば、男をけしかけてうちのよどみに怪我させたそうじゃないか。よどみ、ちょっとこっちに来な。この子におまえの怪我を見せておやり」
 私は言われた通り母の横に立つと、Tシャツの裾をめくってみせた。
 右の脇腹に残る青紫色のあざ。
 きのう男子に回し蹴りをくらった痕である。
「あたし、覚えてないんで」
 苦汁を呑んだような顔で、理沙がつぶやいた。
 本当に記憶にないのか、鼻の頭にびっしりと汗の玉を浮かべている。
「いい加減なこと、いうんじゃないよ!」
 突然母が畳にこぶしを打ちつけた。
「あんた、前からうちのよどみを怪物扱いして、いじめてたそうじゃないか。よどみは化け物だから、どうせ結婚できないだろうし、それなら怪我の痕が多少体に残っても、そんなのどうってことないって、そう思ってるんじゃないのかい?」
「そんなこと言ってないでしょ!」
 理沙が悲鳴のような声を上げた。
「あたしはこいつの悪口を言ったこともないし、いじめたこともない。第一、ろくに口をきいたこともないんだから!」
「こいつ? こいつって、私の可愛いよどみのことかい?」
 不気味に落ち着き払った声で、母が訊く。
「他人の娘をこいつ呼ばわりするとは、あんた、なかなか度胸があるね」
 私の可愛い娘とはお笑いだった。
 母がそんなこと、露ほども思っていないことは、娘のこの私が一番よく知っている。
 母にとって私は醜い下僕にすぎないのだ。
 身の回りの世話を焼かせるために、飼っているだけなのである。
「あ、そういうつもりじゃ、ごめんなさい」
 理沙の顔がすうっと青ざめた。
 敵に狙われた小動物みたいに、不安げに目を泳がせている。
「それに、シカトするってのも、いじめのうちだよね。うちのよどみは、クラスの女王様のあんたにハブられてつらいって、よく泣いてたもんだよ」
 せせら笑うように母が言う。
 もちろんこれも嘘である。
 私がその程度のことで泣くものか。
 まったく、聞いてるこっちが恥ずかしくなるというものだ。
 段取りを短縮すべく、私は横から母を援護することにした。
「実はきのうも、私、言われたんだよ。おまえは顔だけじゃなく、体も奇形だって。服を脱がされて、真っ裸で床に転がされた時にね」
「ちょ、ちょっと…」
 理沙が逃げようとでもするように、腰を浮かせかけた。
「まったく、なんてひどい」
 その理沙の右足首を、素早く母がつかんだ。
「そりゃあ、さすがに聞き捨てならないね。顔だけじゃなく、体も奇形だって? きっとよどみは死ぬほど傷ついたと思うよ。あんたには、償ってもらわなきゃね。よどみが味わった苦痛を、その綺麗な身体でさ。その顔からして、あんた、どうせ処女じゃないんだろ? どうれ、私がちょっと確かめてやるよ」
「な、なにすんのさ?」
 叫んだ時にはすでに遅かった。
 理沙を手元までたぐり寄せると、母が空いたほうの手を、いきなりそのスカートの中に突っ込んだのだ。
「いやあああああっ!」
 絶叫する理沙。
「静かにしないか」
 その頬に、母の重量級の平手打ちが2発、3発と連続して飛んだ。
 更にこぶしを固めると、鳩尾に強烈なパンチの連打をお見舞いした。
 気力を失ってがっくりとうなだれる理沙。
 その体を怪力で引きずり起こすと、母は理沙の背中のファスナーを下げ、ドレスを拘束着代わりに肩の下まで引っ張り下ろした。
「よどみ、足を持ちな」
 のっそり立ち上がると、私に顎で命令する。
 足首の捻挫はすっかり治っているようだった。
 立つと母は頭が天井につかえそうなくらいに大きかった。
 本物のモンスターは私ではない。
 間違いなくこの女。
 私は改めてその認識を新たにした。
「裸にむいて、熱湯風呂に放り込むんだ。あんたはすぐにスマホで写メ撮る用意を。わかったね」
 てきぱきした口調で、母が命じた。
「うん」
 私は力強くうなずいた。
 生まれてからずっと、母を憎んできた。
 でも、この瞬間だけは、別だった。
 私は師を仰ぐまなざしを母の醜い顔に向け、そうしてもう一度、大きくうなずいてみせた。

 

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