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第2章 謝肉祭
#27 前夜祭②
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「ただいま」
納屋に荷物を放り込んでおいて、縁側から母屋に上がる。
母に顔だけは見せておかないと、いつ何時、難癖をつけられるかわからないからだ。
ふすまを開けると、母は畳の上に寝っ転がって、いつものようにテレビを見ていた。
「駅前のショッピングセンター、行ってきたんだ。おいしいもの、色々買ってきた」
「買い物とか、あんまり無駄遣いするんじゃないよ。一応うちは、生活保護家庭ってことになってるんだからさ。食いもんは、そのへんに置いときな。腹減ったら、後で適当に食べてやるからさ。あ、そういえば、おまえに宅配便が届いてたよ。そこらに放ってあるから、さっさと持ってきな」
うわ。
来たんだ。
私は部屋の隅に積んである段ボールの小箱を、そそくさと両腕に抱えた。
なんというきわどいタイミング。
母が好奇心を起こして勝手に蓋を開けたら、面倒が増えるところだった。
その場合は母の日のプレゼント、と言い逃れるつもりだったのだが、中身は母ならすでに持っているものだ。
杏里攻略用のローターとバイブ、それにクロロホルムである。
「よどみさあ、最近納屋のほうでごそごそやってるみたいだけど、あれ、何のつもりなんだい?」
忍び足で部屋に向かおうとすると、こっちに巨大な尻を向けたまま、母が訊いてきた。
私は金縛りに遭ったように固まった。
口から心臓が飛び出るかと思った。
見られていたのだ。
鈍重そうに見えて、母は意外に抜け目がない。
娘の怪しい素振りごとき、とうの昔に気づいていたに違いない。
「受験が近いから、あの納屋、私の勉強部屋にしようと思って。自分の部屋だと、漫画やゲームがいっぱいあって、どうしても気が散っちゃうの。使ってないみたいだし、いいでしょう?」
嘘はなるべく真実に近いに限る。
こんな時のためにあらかじめ考えてあった口実を口にすると、
「そりゃ、いい心がけだ。うちはおまえを私立に行かせる金なんてないからね。高校行きたいなら、月謝がタダの公立にしてもらわないと。ま、その顔で面接落ちなけりゃの話だけどね」
人がいちばん気にしていることをネタにして、嬉しそうに声を立てて笑った。
「学力で通るよう、頑張るよ」
小走りに母の後ろを通り過ぎながら、私は言った。
「誰にも文句つけられない点数、取ってやるんだから」
太郎の散歩。
母との食事。
お風呂。
すべて済ませると、私は母に断って、布団を納屋に運び込んだ。
どうせバレついでである。
今夜は納屋で寝ようと思ったのだ。
買ってきたカーペットを敷き、壁紙を張る。
コンビニまで自転車を走らせて、杏里の写真をプリントアウトした。
急いで戻ると、何十枚もたまったそれをベッドの脇の壁に所狭しと貼り付けていく、
ベッドの上に椅子を乗せ、その上に乗って背伸びして、天井の梁になんとかロープを通すことにも成功した。
ひと通り作業を終え、私は納屋の真ん中に立ち、周囲を見回した。
鏡台もあるし、即席のベッドもある。
何よりも、飾りつけに使った杏里の写真が最高だ。
準備はほぼ完ぺきだった。
あとは杏里を呼ぶだけである。
夏休みでは遅すぎる。
きょう一日杏里と行動を共にして、私はその思いを強くしていた。
杏里はあまりにも危なっかしかった。
放っておくと、近づいてくる者全員に体を開いてしまうのだ。
これ以上他人に彼女が汚されるのを見るのは、我慢ならなかった。
汚すなら、私の手で徹底的に。
そうでなければ意味がない。
ローターとバイブを取り出した。
マスクをはずし、全裸になると、私はベッドに四つん這いになった。
杏里の写真を見ながら、バイブを股間に、ローターをアナルにあてがった。
両方のスイッチを一度に入れ、しばらく感じる部分に当てていると、濡れてきた。
店員に触られている杏里の写真に目を据えて、あの時の杏里の喘ぎ声を思い出す。
すると、すぐにふたつ同時にずぶりと中にめり込んだ。
「あう」
私は激しく身をよじった。
そして、うめいた。
「杏里…好き」
納屋に荷物を放り込んでおいて、縁側から母屋に上がる。
母に顔だけは見せておかないと、いつ何時、難癖をつけられるかわからないからだ。
ふすまを開けると、母は畳の上に寝っ転がって、いつものようにテレビを見ていた。
「駅前のショッピングセンター、行ってきたんだ。おいしいもの、色々買ってきた」
「買い物とか、あんまり無駄遣いするんじゃないよ。一応うちは、生活保護家庭ってことになってるんだからさ。食いもんは、そのへんに置いときな。腹減ったら、後で適当に食べてやるからさ。あ、そういえば、おまえに宅配便が届いてたよ。そこらに放ってあるから、さっさと持ってきな」
うわ。
来たんだ。
私は部屋の隅に積んである段ボールの小箱を、そそくさと両腕に抱えた。
なんというきわどいタイミング。
母が好奇心を起こして勝手に蓋を開けたら、面倒が増えるところだった。
その場合は母の日のプレゼント、と言い逃れるつもりだったのだが、中身は母ならすでに持っているものだ。
杏里攻略用のローターとバイブ、それにクロロホルムである。
「よどみさあ、最近納屋のほうでごそごそやってるみたいだけど、あれ、何のつもりなんだい?」
忍び足で部屋に向かおうとすると、こっちに巨大な尻を向けたまま、母が訊いてきた。
私は金縛りに遭ったように固まった。
口から心臓が飛び出るかと思った。
見られていたのだ。
鈍重そうに見えて、母は意外に抜け目がない。
娘の怪しい素振りごとき、とうの昔に気づいていたに違いない。
「受験が近いから、あの納屋、私の勉強部屋にしようと思って。自分の部屋だと、漫画やゲームがいっぱいあって、どうしても気が散っちゃうの。使ってないみたいだし、いいでしょう?」
嘘はなるべく真実に近いに限る。
こんな時のためにあらかじめ考えてあった口実を口にすると、
「そりゃ、いい心がけだ。うちはおまえを私立に行かせる金なんてないからね。高校行きたいなら、月謝がタダの公立にしてもらわないと。ま、その顔で面接落ちなけりゃの話だけどね」
人がいちばん気にしていることをネタにして、嬉しそうに声を立てて笑った。
「学力で通るよう、頑張るよ」
小走りに母の後ろを通り過ぎながら、私は言った。
「誰にも文句つけられない点数、取ってやるんだから」
太郎の散歩。
母との食事。
お風呂。
すべて済ませると、私は母に断って、布団を納屋に運び込んだ。
どうせバレついでである。
今夜は納屋で寝ようと思ったのだ。
買ってきたカーペットを敷き、壁紙を張る。
コンビニまで自転車を走らせて、杏里の写真をプリントアウトした。
急いで戻ると、何十枚もたまったそれをベッドの脇の壁に所狭しと貼り付けていく、
ベッドの上に椅子を乗せ、その上に乗って背伸びして、天井の梁になんとかロープを通すことにも成功した。
ひと通り作業を終え、私は納屋の真ん中に立ち、周囲を見回した。
鏡台もあるし、即席のベッドもある。
何よりも、飾りつけに使った杏里の写真が最高だ。
準備はほぼ完ぺきだった。
あとは杏里を呼ぶだけである。
夏休みでは遅すぎる。
きょう一日杏里と行動を共にして、私はその思いを強くしていた。
杏里はあまりにも危なっかしかった。
放っておくと、近づいてくる者全員に体を開いてしまうのだ。
これ以上他人に彼女が汚されるのを見るのは、我慢ならなかった。
汚すなら、私の手で徹底的に。
そうでなければ意味がない。
ローターとバイブを取り出した。
マスクをはずし、全裸になると、私はベッドに四つん這いになった。
杏里の写真を見ながら、バイブを股間に、ローターをアナルにあてがった。
両方のスイッチを一度に入れ、しばらく感じる部分に当てていると、濡れてきた。
店員に触られている杏里の写真に目を据えて、あの時の杏里の喘ぎ声を思い出す。
すると、すぐにふたつ同時にずぶりと中にめり込んだ。
「あう」
私は激しく身をよじった。
そして、うめいた。
「杏里…好き」
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