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第2章 謝肉祭

#26 前夜祭①

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 結局、タナトスなる者の力はわからずじまいだった。
 せっかくのチャンスを私自身が反故にしてしまったのだから、これはもう仕方がない。
 杏里がワンピース水着を、私がマイクロビキニを購入することにして、私たちは店を出た。
 茶髪の店員はいまだ夢覚めやらぬ表情で、レジ打ちもままならぬ様子だったけれども、私はこれ以上事が長引かないようにと杏里の手を引き、さっさと店から引っ張り出した。
 太郎の散歩の時間も迫っていたし、それより何より、やはり杏里が私以外の者の手に落ちるさまを見ることに耐えられなかったからである。
 帰りのバスでは私がしっかり杏里の手を握り、常に周囲に気を配っていたので、あからさまに襲ってくる者はいなかった。
 年配の乗客が多かったせいもある。
 それでも杏里の醸し出すフェロモンはかなり強力なようで、頭の禿げた老人ですら、杏里の体を舐めるように見つめてくるのだった。
 杏里は私の荷物を持って、家の外までついてきてくれた、
「ありがとう」
 杏里から壁紙の筒と紙袋を受け取って、私は礼を言った。
「へーえ、よどみんち、農家なんだ」
 杏里は、もの珍しそうに前庭や母屋を見渡している。
 夕方になってから少し強くなった風が、その柔らかな髪とスカートの裾をなびかせている。
 その姿が、西洋画のビーナスみたいに美しい。
「別に農業やってるわけじゃないんだけどね。あ、ほら、あれだよ。改装中の私の部屋」
 私は木々を背景にうずくまる納屋のほうを指差した。
「わあ、離れになってるんだね。楽しそう」
「飾りつけが終わったら、招待するから。きょうの買い物で、だいたい準備完了だし」
「いいね。楽しみにしてる」
 私は木戸の前で手を振って、杏里と別れた。
 今はこれ以上杏里を中に入れるわけにはいかないのだ。
 母に見つかってしまったら、面倒なことになりかねない。
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