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第1章 転校生

#13 計画

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 杏里を私だけのものにする。
 母の手には、絶対渡さない。
 私がその決意を新たにしたのは、今考えると、その朝、拷問部屋に思いを馳せた時のことだったように思う。
 が、それにはひとつ、重大な問題があった。
 母に見つからないように杏里を監禁するには、私だけの新たな拷問部屋が要るのだ。
 そう考えると、一刻も早く準備を整えなければならない、という気がしてきた。
 なにせ、きのう、スマホの写真を母に見られてしまっている。
 顏がはっきり映っていなかったのが幸いだったが、何かの拍子に母が学校に来て、杏里に目をつけたりしたら面倒なことになりかねない。
 そうなると、問題はふたつに増える。
 母の眼を杏里から逸らすためにも、ダミーの犠牲者を用意する必要が生じかねないのだ。
 まあ、そのときはそのときのこと。
 先決なのは、新しい拷問部屋である。
 中学生で、しかも徹底的なインドア派の私は、正直なところ、学区内の地理すらも不案内だ。
 拷問部屋を見つけるなら、家の近所しかない。
 幸い、母はあの体型だから、”狩り”の時と学校に怒鳴り込む時以外は、滅多に家から出ない。
  少し前まで日課にしていたパチンコも、先日自重に耐えかねて足首を捻挫してからは、ぷっつりとやめてしまっている。
 ごくたまにネットで知り合った男性とデートする時もあるけれど、それもせいぜいひと月に一回である。
 つまり、拷問部屋はよほど家に近くとも大丈夫ということになる。
 そう、例えば、あの建物みたいに…。

 玄関口で靴を履き、前庭に出た私が眼をやったのは、敷地の片隅に佇む納屋である。
 太り過ぎて動くのも億劫な母は、ふだん庭にすら出てこないから、当然用のない納屋などに足を向けることはない。
 第一、納屋の中に収納されているのはすべて農具の類いで、生活保護家庭のうちには不要なものばかりなのだ。
 よし、そうと決まったら、早速納屋の鍵を探すことにしよう。
 確か、以前に台所の食器棚の引き出しに入っていたような気がする。
 後は、毎日少しずつ時間をかけて、中を綺麗にするのだ。
 そして、その間にコツコツ道具をそろえておく。
 ロープ、洗濯ばさみ、針、ペンチなどは家にあるものを使えばいい。
 あと、最低限ほしいものとしては、手錠と大人の玩具の類いだ。
 杏里には辛い思いをさせるだけでなく、楽しんでもらわなくてはならない。
 私の愛を感じ取ってもらうには、バイブやローターが必需品となることは間違いない。
 それから、浣腸、下剤、睡眠薬もほしいところである。
 それらは通販で入手すればいいとして、他は部屋の飾りつけか。
 蝋燭もいいかもしれない。
 それから、鏡。
 鏡については、昨夜、自慰の途中で閃いたことがあった。
 私の姿を映すだけなら、鏡などには何の価値もない。
 しかし、杏里と一緒となると、話は別になる。
 杏里のビーナスのような肉体に、もしこの世で最も醜いものが絡みついていたとしたら…。
 それはそれで、恐ろしく”そそる”光景ではないか。
 昨夜、杏里をイメージしながら絶頂に達する瞬間、私はふとそう考えたのだった。
 鏡で囲まれた狭い空間で、化け物に凌辱される天使。
 その天使の苦しげな顔が、化け物の執拗な愛撫によって次第に恍惚とした表情に変わっていく。
 その様子を、映画のように第三者の視点で見ることができたら、これはもう最高ではないか。
 私は昔読んだ江戸川乱歩の『鏡地獄』を思い出した。
 あの小説の主人公のように、たとえ狂い死ぬにしても、杏里と一緒なら本望だ…。

 準備には、最低1ヶ月はかかりそうだった。
 私は決行の日を、夏休み初日と定めた。
 夏休みであれば、私も杏里も学校を休む言い訳に頭を悩ませる必要がない。
 その間に、杏里の家庭環境も調べねばならない。
 それから、無聊を紛らすために、写真や動画をたくさん撮らせてもらうのだ。
 夏が近づけば、水着姿の杏里を拝めるかもしれないし、薄着になればなるほど、杏里の肢体は輝きを増すに違いない。

 そんなことを一心不乱に考えながら歩いていたため、学校までの道のりはあっという間だった。
 けれど、家が一番遠いので、私が学校に着くのはいつもぎりぎりだ。
 きょうもラストかと覚悟を決めて、門番の教師に黙礼して校門を通り抜けようとした時である。
 背後からパタパタというせわしない足音が近づいてきた。
「よどみ!」
 振り返ると、杏里だった。
 杏里が、大きすぎる胸を上下左右に弾ませて、息を切らしながら駆けてくるのだ。
 相変わらず超ミニ丈のスカートを履いているせいで、脚を上げるたびに白い下着が見えている。
 私は足を止め、杏里を待った。
 そして、この美しい獲物をわが手にする日を思い、ひそかに興奮した。
 そう。
 いつのまにか杏里は、私の生きる希望になっていたのである。
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