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第1章 転校生
#12 過去の幻影
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翌朝、6時前に起床すると、私は手早く朝食の準備を済ませ、お弁当と母の昼食を作った。
お弁当は杏里のも合わせて、ふたり分。
杏里は見たところ、自分で弁当を作るようなタイプには見えなかったからである。
登校までにはまだ時間があったので、箒と塵取りで家じゅうを簡単に掃除した。
母はおよそ綺麗好きとはほど遠い。
私がいなければ、この家を間違いなくゴミ屋敷に変えてしまう。
だから、こまめに掃除をする必要があったからだ。
さすが元農家だけあって、この家には部屋がたくさんある。
ふすまを全部取り払ってしまえば体育館ほどの広大な広間が出来上がり、その分掃除も楽になるのだが、今は細かく仕切られているため、けっこう面倒くさい。
母の寝ている部屋と普段使わない小部屋はスルーして、奥へ奥へと進んでいく。
最深部の仏間まで掃除を済ませた私は、庭に面した廊下に目をやり、少し考え込んだ。
廊下の突き当りは板戸になっていて、その物置みたいな袋部屋の中に地下への階段がある。
農家に地下室というのは奇異に聞こえるかもしれないが、その階段の下にあるのは前世紀の遺物とでも言うべきおぞましい空間だ。
座敷牢である。
鉄格子で仕切られた座敷牢と、トイレ、そして浴槽。
なんでもこの家の持ち主であった老人は、江戸時代にまでさかのぼる旧家の末裔で、一時はそれなりに羽振りがよかったらしい。
座敷牢に閉じ込められていたのが誰かはわからないけど、兄とか父親とか、たぶん老人の家族の一員だったのだろう。
老人が70過ぎまで独身だったのも、そのあたりに何か原因があったのかもしれない。
ともあれ、私と母がこの家を手に入れた時には、当然のことながら座敷牢は空だった。
母はそこを改造した。
さまざまな器具を持ち込み、拷問部屋に変えたのだ。
もちろん実際に働いたのは母に雇われた業者だが、小道具のアイデアはすべて母のものだった。
だからこの地下室には、生贄を拘束する設備はもちろんのこと、SM用具から各種大人の玩具まで、忌まわしいものはほぼそろっていた。
廊下の端の木戸を眺めながら、私はあの扉を通った犠牲者たちのことを思い出していた。
第1号の悪ガキの母親を手籠めにしたのは、ここに移り住む前のアパートでのことだったから、それは除くとしても、これまでに都合6人が拷問部屋の犠牲になっていた。
最初が、老人の妹とその娘。
次が、私のことを気にかけて通ってきた市役所の生活指導課の若い男性職員。
3番目は、母がゲームセンターで拾ってきた13歳の少年。
そして、私の中学の教育実習生。
最後が、半年前の17歳の家出少女。
私の脳裡に、一番最近に見た不良少女の痴態が蘇った。
ロープで四肢を奇妙なかっこうに緊縛され、天井から吊るされた全裸の娘。
泣きわめく娘の恥部に、手首まで腕を挿入する悪鬼のような母。
私はその乳首に電極を取りつけ、少女が失神しかけると電流を流す係だった。
少女は大量の尿と糞を垂れ流し、涙で顔をぐしょぐしょに濡らしながら母に哀願したものだ。
家にやってきた当初、私をあれほどさんざん嘲ったのに、そのツッパリの面影はもうどこにもなく、年相応のか弱い娘に戻ってしまっていた。
私は激しく首を振った。
ふと、少女の姿に、杏里のイメージが重なったからである。
相反する感情で、私は束の間金縛りに遭ったように動けなくなった。
母に凌辱の限りを尽くされる杏里を見たい、という思い。
天使のような顔に、娼婦の肉体を持った杏里のことだ。
それはそれで素晴らしい絵になるだろうことは、間違いない。
しかし、と思う。
私は杏里に恋をした。
杏里が女の子であることなんて、関係ない。
杏里を自分だけのものにして、この手で弄んだ挙句、一緒に絶頂を迎えたい。
その思いは、絶対に捨てきれない。
遠くでお寺の鐘が鳴った。
朝7時の合図だった。
私は地獄への入口から眼を逸らすと、小走りに廊下を戻り始めた。
お弁当は杏里のも合わせて、ふたり分。
杏里は見たところ、自分で弁当を作るようなタイプには見えなかったからである。
登校までにはまだ時間があったので、箒と塵取りで家じゅうを簡単に掃除した。
母はおよそ綺麗好きとはほど遠い。
私がいなければ、この家を間違いなくゴミ屋敷に変えてしまう。
だから、こまめに掃除をする必要があったからだ。
さすが元農家だけあって、この家には部屋がたくさんある。
ふすまを全部取り払ってしまえば体育館ほどの広大な広間が出来上がり、その分掃除も楽になるのだが、今は細かく仕切られているため、けっこう面倒くさい。
母の寝ている部屋と普段使わない小部屋はスルーして、奥へ奥へと進んでいく。
最深部の仏間まで掃除を済ませた私は、庭に面した廊下に目をやり、少し考え込んだ。
廊下の突き当りは板戸になっていて、その物置みたいな袋部屋の中に地下への階段がある。
農家に地下室というのは奇異に聞こえるかもしれないが、その階段の下にあるのは前世紀の遺物とでも言うべきおぞましい空間だ。
座敷牢である。
鉄格子で仕切られた座敷牢と、トイレ、そして浴槽。
なんでもこの家の持ち主であった老人は、江戸時代にまでさかのぼる旧家の末裔で、一時はそれなりに羽振りがよかったらしい。
座敷牢に閉じ込められていたのが誰かはわからないけど、兄とか父親とか、たぶん老人の家族の一員だったのだろう。
老人が70過ぎまで独身だったのも、そのあたりに何か原因があったのかもしれない。
ともあれ、私と母がこの家を手に入れた時には、当然のことながら座敷牢は空だった。
母はそこを改造した。
さまざまな器具を持ち込み、拷問部屋に変えたのだ。
もちろん実際に働いたのは母に雇われた業者だが、小道具のアイデアはすべて母のものだった。
だからこの地下室には、生贄を拘束する設備はもちろんのこと、SM用具から各種大人の玩具まで、忌まわしいものはほぼそろっていた。
廊下の端の木戸を眺めながら、私はあの扉を通った犠牲者たちのことを思い出していた。
第1号の悪ガキの母親を手籠めにしたのは、ここに移り住む前のアパートでのことだったから、それは除くとしても、これまでに都合6人が拷問部屋の犠牲になっていた。
最初が、老人の妹とその娘。
次が、私のことを気にかけて通ってきた市役所の生活指導課の若い男性職員。
3番目は、母がゲームセンターで拾ってきた13歳の少年。
そして、私の中学の教育実習生。
最後が、半年前の17歳の家出少女。
私の脳裡に、一番最近に見た不良少女の痴態が蘇った。
ロープで四肢を奇妙なかっこうに緊縛され、天井から吊るされた全裸の娘。
泣きわめく娘の恥部に、手首まで腕を挿入する悪鬼のような母。
私はその乳首に電極を取りつけ、少女が失神しかけると電流を流す係だった。
少女は大量の尿と糞を垂れ流し、涙で顔をぐしょぐしょに濡らしながら母に哀願したものだ。
家にやってきた当初、私をあれほどさんざん嘲ったのに、そのツッパリの面影はもうどこにもなく、年相応のか弱い娘に戻ってしまっていた。
私は激しく首を振った。
ふと、少女の姿に、杏里のイメージが重なったからである。
相反する感情で、私は束の間金縛りに遭ったように動けなくなった。
母に凌辱の限りを尽くされる杏里を見たい、という思い。
天使のような顔に、娼婦の肉体を持った杏里のことだ。
それはそれで素晴らしい絵になるだろうことは、間違いない。
しかし、と思う。
私は杏里に恋をした。
杏里が女の子であることなんて、関係ない。
杏里を自分だけのものにして、この手で弄んだ挙句、一緒に絶頂を迎えたい。
その思いは、絶対に捨てきれない。
遠くでお寺の鐘が鳴った。
朝7時の合図だった。
私は地獄への入口から眼を逸らすと、小走りに廊下を戻り始めた。
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