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第1章 転校生
#3 美少女
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杏里がやってきたのは、ゴールデンウィーク明けの、よく晴れた朝のことだった。
いつものことながら、長い休みが明けた直後というのは、憂鬱なものである。
特に私のような醜女にとり、学校は監獄だ。
もちろん母と暮らす家も地獄だが、地獄にはまだ自分の部屋という避難場所がある。
だが、学校にはそれがない。
常に誰かに見られている。
誰も何も言ってこないが、考えていることは手に取るようにわかる。
失せろ、化け物。
みんなそう言いたくてならないのだ。
だから私はその時、ただ死んだように心を無にして担任がくるのを待っていたのだが…。
その朝、そこにいきなり”天使”が降臨したのだった。
時差ボケの旅行者のような眠そうな顔の並ぶ教室。
いつものようにがらりと戸が開き、くたびれた中年男が現れた。
ちぇ。
舌打ちの音。
あーあ。
続いてわざとらしいあくび。
が。
担任のバーコード頭の後ろから現れた少女を見るなり、教室じゅうの空気が一変した。
電流が走ったみたいに、その瞬間、みんなが一斉に背筋を伸ばすのがわかった。
クラス全員が同時に発情したかのような感じ。
そう言えばわかってもらえるだろうか。
それほどまでに、その少女は可愛らしく…。
そしてそれ以上にエロチックだった。
ショートボブのやわらかそうな髪。
色白で卵形の小さな顔。
私が他の何よりも驚いたのは、制服の上からでもはっきりわかるその豊満な肢体である。
とても中学生とは思えない、陰影に富んだ曲線。
一見真面目そうなのに、歩くだけで下着が見えそうなくらい、スカートを短く加工している。
「転校生だ」
バーコードが、ねちっこい口調でそう言った。
「笹原、自己紹介して」
覇気のない顔をしているくせに、眼鏡の下から舐めるように少女の身体を見つめている。
何歳になっても男はバカだが、今回だけはこの変態を責める気にはなれなかった。
あの娘が傍に来たら、誰だってその胸や尻に視線をやらずにはいられないと思ったからだ。
「笹原、杏里です。曙高校から、転校してきました。よろしくお願いします」
たどたどしい口調で、美少女が言った。
か細いが、妙にまろやかな、耳障りのいい声音だった。
顔を上げる時、怯えた小動物のような目で、教室の中を見まわした。
私はドキリとした。
その瞬間、艶かしい杏里の裸身が、鮮やかに脳裏に浮かんだからだった。
その裸体の上に、醜悪な肉の塊が、のしかかっていく。
母である。
それは予兆のようなものだったのかもしれない。
あの女なら、やりかねない。
まだ何も起こっていないのに、嫉妬で目がくらんだ。
「鰐部の隣が空いてるな」
ふと我に返ると、バーコードがこっちを指差していた。
鰐部とは、私の苗字である。
鰐部よどみ、というのが、私のフルネーム。
名字も最悪なら、名前はまさに母が悪意を持ってつけたとした思えない、逆キラキラネーム。
クラス全員の注視の中、杏里が歩いてくる。
高校生のくせに、あの腰の振り方はどうだろう。
誰もが少女のパンティをひと目拝もうと、机から身を乗り出し、必死で首をねじっている。
「よろしくね。鰐部さん」
右隣の空席に腰をかける時、はにかんだように微笑んで、杏里が言った。
かがんだ胸元から、豊かな果実に挟まれた深い谷間が覗いている。
私はマスクの中で顔を引きつらせ、歪んだ目を見開いた。
母以外の人間に声をかけられるのは、今年になってこれが初めてだったからである。
いつものことながら、長い休みが明けた直後というのは、憂鬱なものである。
特に私のような醜女にとり、学校は監獄だ。
もちろん母と暮らす家も地獄だが、地獄にはまだ自分の部屋という避難場所がある。
だが、学校にはそれがない。
常に誰かに見られている。
誰も何も言ってこないが、考えていることは手に取るようにわかる。
失せろ、化け物。
みんなそう言いたくてならないのだ。
だから私はその時、ただ死んだように心を無にして担任がくるのを待っていたのだが…。
その朝、そこにいきなり”天使”が降臨したのだった。
時差ボケの旅行者のような眠そうな顔の並ぶ教室。
いつものようにがらりと戸が開き、くたびれた中年男が現れた。
ちぇ。
舌打ちの音。
あーあ。
続いてわざとらしいあくび。
が。
担任のバーコード頭の後ろから現れた少女を見るなり、教室じゅうの空気が一変した。
電流が走ったみたいに、その瞬間、みんなが一斉に背筋を伸ばすのがわかった。
クラス全員が同時に発情したかのような感じ。
そう言えばわかってもらえるだろうか。
それほどまでに、その少女は可愛らしく…。
そしてそれ以上にエロチックだった。
ショートボブのやわらかそうな髪。
色白で卵形の小さな顔。
私が他の何よりも驚いたのは、制服の上からでもはっきりわかるその豊満な肢体である。
とても中学生とは思えない、陰影に富んだ曲線。
一見真面目そうなのに、歩くだけで下着が見えそうなくらい、スカートを短く加工している。
「転校生だ」
バーコードが、ねちっこい口調でそう言った。
「笹原、自己紹介して」
覇気のない顔をしているくせに、眼鏡の下から舐めるように少女の身体を見つめている。
何歳になっても男はバカだが、今回だけはこの変態を責める気にはなれなかった。
あの娘が傍に来たら、誰だってその胸や尻に視線をやらずにはいられないと思ったからだ。
「笹原、杏里です。曙高校から、転校してきました。よろしくお願いします」
たどたどしい口調で、美少女が言った。
か細いが、妙にまろやかな、耳障りのいい声音だった。
顔を上げる時、怯えた小動物のような目で、教室の中を見まわした。
私はドキリとした。
その瞬間、艶かしい杏里の裸身が、鮮やかに脳裏に浮かんだからだった。
その裸体の上に、醜悪な肉の塊が、のしかかっていく。
母である。
それは予兆のようなものだったのかもしれない。
あの女なら、やりかねない。
まだ何も起こっていないのに、嫉妬で目がくらんだ。
「鰐部の隣が空いてるな」
ふと我に返ると、バーコードがこっちを指差していた。
鰐部とは、私の苗字である。
鰐部よどみ、というのが、私のフルネーム。
名字も最悪なら、名前はまさに母が悪意を持ってつけたとした思えない、逆キラキラネーム。
クラス全員の注視の中、杏里が歩いてくる。
高校生のくせに、あの腰の振り方はどうだろう。
誰もが少女のパンティをひと目拝もうと、机から身を乗り出し、必死で首をねじっている。
「よろしくね。鰐部さん」
右隣の空席に腰をかける時、はにかんだように微笑んで、杏里が言った。
かがんだ胸元から、豊かな果実に挟まれた深い谷間が覗いている。
私はマスクの中で顔を引きつらせ、歪んだ目を見開いた。
母以外の人間に声をかけられるのは、今年になってこれが初めてだったからである。
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