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第5章 百合はまだ世界を知らない
#29 杏里と第2の猟奇殺人事件①
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窓から差し込む、うららかな春の日差しが眠気を誘い、
「ふああああ」
パソコンの陰で、ふ抜けたあくびを漏らす杏里。
4月初旬の午後。
捜査一課には、現在のところ、杏里ひとりしかいない。
韮崎は会議で県警へ参上し、ほかのメンバーも、それぞれ野暮用で街に繰り出している。
倉田静香殺害事件は何の進展もなく、あれからもう1か月以上経過していた。
結局、陣内摩耶と臓器売買を関連づける証拠は何も発見できず、また七尾ヤチカが見つけた遺体の体内の唾液成分は、事件関係者の誰のDNAとも一致しないまま、すでに捜査は膠着状態に陥ってしまっていたのである。
頼みの零も、結局は動かないままだった。
今のままじゃ、できることは何もないよ。
そううそぶいて、月齢が高くなってきた現在も、家であのモウとごろごろしている始末だ。
杏里にしても同様で、定期的に開かれる捜査会議に出席する以外は、元のデスクワークに戻っている。
「あー、おなかすいたなあ。ちょっと早いけど、お昼食べようかなあ。いいよね、どうせ誰もいないんだし」
パソコンの前から立ち上がり、給湯室でお茶を淹れ、休憩用のテーブルの前に座った。
「きょうは卵焼きとウィンナー、いつもよりひとつずつ多めに奮発しちゃったんだよね。わあ、おいしそう! わくわく」
独り言を言いながら、弁当箱の蓋を開いたその時である。
ふいに、ルルルルルと電話が鳴った。
「な、なによ? 私、今からブレークタイムなのに!」
ぶつくさいいながら受話器を耳に当てる。
と、韮崎のだみ声がいきなり耳に飛び込んできた。
-おい、笹原。始まったぞー
「始まったって、何がですかあ?」
ー今、県警の会議で聞いたばかりだが、第二の殺人だ。あれはやっぱり連続殺人だったんだー
「どういうことです?」
-今朝、港区で新たな死体が発見された。場所は被害者の自宅。死体には内臓がひとつも残っていなかったそうだー
「ま、まさか」
杏里は息を呑んだ。
あんな陰惨な事件が、また…?
そういえば、零がそんなことを言ってたような気がする。
この殺人は、まだ続くって…。
「被害者は?」
-神谷詩織って名前の中学生だ。港第三中学の3年生だということだー
「女子中学生、ですか…?」
何かが頭の隅に引っかかった。
それを思い出した時、韮崎が言った。
-俺は今から署に戻る。おまえもでかける準備をしておけ。まず、港署に寄って詳しい事情を聞くー
「でも、ここ、誰もいないんですけど」
-かまわん。電話を入れて野崎か山田を戻らせる。この事件は、おまえがいたほうがいい。そんな気がしてならないんだー
「ふああああ」
パソコンの陰で、ふ抜けたあくびを漏らす杏里。
4月初旬の午後。
捜査一課には、現在のところ、杏里ひとりしかいない。
韮崎は会議で県警へ参上し、ほかのメンバーも、それぞれ野暮用で街に繰り出している。
倉田静香殺害事件は何の進展もなく、あれからもう1か月以上経過していた。
結局、陣内摩耶と臓器売買を関連づける証拠は何も発見できず、また七尾ヤチカが見つけた遺体の体内の唾液成分は、事件関係者の誰のDNAとも一致しないまま、すでに捜査は膠着状態に陥ってしまっていたのである。
頼みの零も、結局は動かないままだった。
今のままじゃ、できることは何もないよ。
そううそぶいて、月齢が高くなってきた現在も、家であのモウとごろごろしている始末だ。
杏里にしても同様で、定期的に開かれる捜査会議に出席する以外は、元のデスクワークに戻っている。
「あー、おなかすいたなあ。ちょっと早いけど、お昼食べようかなあ。いいよね、どうせ誰もいないんだし」
パソコンの前から立ち上がり、給湯室でお茶を淹れ、休憩用のテーブルの前に座った。
「きょうは卵焼きとウィンナー、いつもよりひとつずつ多めに奮発しちゃったんだよね。わあ、おいしそう! わくわく」
独り言を言いながら、弁当箱の蓋を開いたその時である。
ふいに、ルルルルルと電話が鳴った。
「な、なによ? 私、今からブレークタイムなのに!」
ぶつくさいいながら受話器を耳に当てる。
と、韮崎のだみ声がいきなり耳に飛び込んできた。
-おい、笹原。始まったぞー
「始まったって、何がですかあ?」
ー今、県警の会議で聞いたばかりだが、第二の殺人だ。あれはやっぱり連続殺人だったんだー
「どういうことです?」
-今朝、港区で新たな死体が発見された。場所は被害者の自宅。死体には内臓がひとつも残っていなかったそうだー
「ま、まさか」
杏里は息を呑んだ。
あんな陰惨な事件が、また…?
そういえば、零がそんなことを言ってたような気がする。
この殺人は、まだ続くって…。
「被害者は?」
-神谷詩織って名前の中学生だ。港第三中学の3年生だということだー
「女子中学生、ですか…?」
何かが頭の隅に引っかかった。
それを思い出した時、韮崎が言った。
-俺は今から署に戻る。おまえもでかける準備をしておけ。まず、港署に寄って詳しい事情を聞くー
「でも、ここ、誰もいないんですけど」
-かまわん。電話を入れて野崎か山田を戻らせる。この事件は、おまえがいたほうがいい。そんな気がしてならないんだー
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