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第5章 百合はまだ世界を知らない
#24 杏里と女医の謎②
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「ああ、それは僕も気になっていた。えーっと、なんだっけかな。ちょっと待ってね」
三上がすごい勢いで報告書の束をめくり始めた。
みんなの報告を聞きながら、杏里が徹夜でまとめた資料である。
「あ、あった。これだ」
三上があるページを掲げて見せた。
「ニラさんの調書にあったやつですよ。覚えてませんか? ガイシャの旦那、倉田慎吾の証言に出てきてます」
「旦那の? 俺と笹原が聞き取りしたことは憶えてるが…何かあったかな」
困惑した目を、杏里に向ける韮崎。
そうだった。
同時に杏里も思い出していた。
ほんの一行足らずの目立たない記述。
でも、その件に関しては、まだ誰も捜査を進めていないのではないだろうか。
「で、なんなんだ、それは? 年を取るとな、どうも物忘れがひどくてかなわん」
「ガイシャの倉田静香は、1年前に入院しています。どんな病気かは書いてありませんが、けっこう重いものだったみたいな記述ですね」
そう。
確か慎吾は言ったのだ。
やっとよくなってきた矢先だったのに、と。
「もしかして、静香さんを診たのは、摩耶さんだったんじゃありませんか?」
閃きから当然導き出される推論を、杏里は口にした。
「となると、静香さんの手術の内容も、なんとなく想像できますよね? 摩耶さんの専門分野から考えて」
「臓器移植か」
韮崎が呼吸するクジラよろしく煙を噴き上げる。
「そうです。それがどんな手術だったのか、どこで行われたのか、詳しく調べる必要があると思います」
杏里はここぞとばかりにうなずいた。
「よし。じゃ、三上と高山は、大学病院を当たれ。俺と杏里で摩耶の個人病院を調べてみる。山田と野崎には俺から連絡を入れておく。聞き込みから戻ったら、最近国内で行われた臓器移植について調べておくように、とな」
ようやく捜査が動き出した気がする。
韮崎に続いて捜査一課を出ながら、杏里は思った。
でも、まだ線が一本につながらない。
被害者の臓器移植。
手術後、1年経って失われたすべての内臓。
そして、臓器売買の嫌疑…。
とりあえず、今はもう一度、陣内摩耶に当たってみることだ。
三上たちは軽くかわされてしまったようだが、新たな事実を突きつければ、何か重大な事実をしゃべってくれるかもしれない。
できれば零の手を借りなくて済むように。
とにかく杏里が今願うのは、そのことだけだった。
三上がすごい勢いで報告書の束をめくり始めた。
みんなの報告を聞きながら、杏里が徹夜でまとめた資料である。
「あ、あった。これだ」
三上があるページを掲げて見せた。
「ニラさんの調書にあったやつですよ。覚えてませんか? ガイシャの旦那、倉田慎吾の証言に出てきてます」
「旦那の? 俺と笹原が聞き取りしたことは憶えてるが…何かあったかな」
困惑した目を、杏里に向ける韮崎。
そうだった。
同時に杏里も思い出していた。
ほんの一行足らずの目立たない記述。
でも、その件に関しては、まだ誰も捜査を進めていないのではないだろうか。
「で、なんなんだ、それは? 年を取るとな、どうも物忘れがひどくてかなわん」
「ガイシャの倉田静香は、1年前に入院しています。どんな病気かは書いてありませんが、けっこう重いものだったみたいな記述ですね」
そう。
確か慎吾は言ったのだ。
やっとよくなってきた矢先だったのに、と。
「もしかして、静香さんを診たのは、摩耶さんだったんじゃありませんか?」
閃きから当然導き出される推論を、杏里は口にした。
「となると、静香さんの手術の内容も、なんとなく想像できますよね? 摩耶さんの専門分野から考えて」
「臓器移植か」
韮崎が呼吸するクジラよろしく煙を噴き上げる。
「そうです。それがどんな手術だったのか、どこで行われたのか、詳しく調べる必要があると思います」
杏里はここぞとばかりにうなずいた。
「よし。じゃ、三上と高山は、大学病院を当たれ。俺と杏里で摩耶の個人病院を調べてみる。山田と野崎には俺から連絡を入れておく。聞き込みから戻ったら、最近国内で行われた臓器移植について調べておくように、とな」
ようやく捜査が動き出した気がする。
韮崎に続いて捜査一課を出ながら、杏里は思った。
でも、まだ線が一本につながらない。
被害者の臓器移植。
手術後、1年経って失われたすべての内臓。
そして、臓器売買の嫌疑…。
とりあえず、今はもう一度、陣内摩耶に当たってみることだ。
三上たちは軽くかわされてしまったようだが、新たな事実を突きつければ、何か重大な事実をしゃべってくれるかもしれない。
できれば零の手を借りなくて済むように。
とにかく杏里が今願うのは、そのことだけだった。
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