サイコパスハンター零

戸影絵麻

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第5章 百合はまだ世界を知らない

#19 杏里と教団②

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「一致したって言ったってだな、まあ、仮にそのふたりが同一人物だとしてもだ。それがどうかしたのか?」
 韮崎は相変わらず気乗りのしない表情で、煙草をふかしている。
 部屋の空気がどんどん白くなっていくのを見て、杏里はせめて電子タバコにしてくれないかな、と思う。
 今度ニラさんの誕生日が来たら、買ってあげようかな。
「でも、新興宗教の教祖と大学病院の女医って変わった組み合わせですよね。しかも、その女医さん、先代の教祖の実の娘なんでしょう?」
 三上が顎の先に手をやって、考え込むような眼をした。
「あの、私、調べてみてもいいですか?」
 三上のフォローに気をよくして、杏里は言った。
「その、智恵の蛇教団ってのを。あの曼荼羅にあったウロボロスも気になりますし」
「しょうがねえなあ」
 嫌そうに頭を掻く韮崎。
「俺はオカルトは嫌いなんだがなあ」
「じゃあ、私と高山でその女医のほうを当たってみましょうか。陣内摩耶でしたっけ。どこの部署にいるのかな」
「先にヤチカから情報を仕入れておくといい。今ならまだ科捜研にいるだろう」
「わかりました。ではさっそく」
 席を立ち、ソファでいびきをかいている高山を三上が起こしに行った。
「俺らも出かけるか。ったく、お嬢のお守りも大変だぜ」
 煙草を灰皿ににじり潰し、よっこらせと腰を上げる韮崎。
「あらかじめ、教団に電話しておいたほうがいいですか?」
 杏里が受話器を取り上げると、韮崎はうるさそうにかぶりを振った。
「馬鹿野郎。こういうのは抜き打ちで行くもんなんだよ。小学校の家庭訪問じゃあるまいし」
「はい」
 杏里はぺろりと舌を出した。
「では、しばしお待ちを。教団本部の所在地、メモしますから」
「あのへんな本、まだ持ってるか? 持ってるなら貸せ。車の中で読むから」
 韮崎が言うのは、被害者宅で見つけたあのトンデモ本のことだろう。
 最初の数ページ読んだだけで、あまりにばかばかしくてバッグの底にしまいこんだままになっている。
「ありますけど、すごいですよ」
 杏里はパソコンの画面の住所をメモ帳に書き留めながら、クスクス笑った。
「なんでも、聖書に出てくるアダムとイブの話は間違ってるんだそうです。本当の神は、アダムとイブをつくった神様じゃなくって、イブをそそのかしてリンゴを食べさせた蛇のほうなんだとか」
「聖書? アダムとイブ? 蛇? なんだそりゃ」
 韮崎は憮然としている。
「OKです。行きましょう。本部は緑区のはずれにあります。未開発地域みたいですから、ここから車で40分くらいはかかりそう」
「遠いな。途中で何か食おう。俺は腹が減った」
「ニラさんのおごりですか?」
 嬉々としてたずねる杏里。
 とたんに、韮崎の太い眉が吊り上がる。
「ばーか、割り勘に決まってるだろ。おまえの大食いには付き合いきれねえからな」

 

 

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