サイコパスハンター零

戸影絵麻

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第5章 百合はまだ世界を知らない

#9 杏里と魔犬③

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 蛍光灯の光の下で見る零の顔は、いつもよりいっそう青ざめて見える。

 シャープさの増した顔の中で、黒目勝ちな瞳が、束の間、居間の照明を反射して光った。
 
 零の目は猫のそれに似ている。

 昼間は瞳孔が縦に細く、夜になると丸くなる。

 だから、夜のほうが顔立ちが柔らかい。

「またその手の事件か」

 先の割れた舌でグラスの中の牛乳を舐めながら、その零が言った。

「外道の仕業には違いないだろうが…ほんとに胸糞が悪くなる」

「内臓のことだけど…どうしてなくなってたんだと思う? また、魔法陣の供物なのかしら?」

 年末の事件を思い返して、杏里はたずねた。

 あの時は胎児だった。

 外道は、4人の妊婦と4人の胎児を犠牲にして、魔竜、ウロボロスを召喚したのである。

「一度失敗したからには、同じことはやらないんじゃないかと思う。それに、あのウロボロスが、そんなに何匹もいるとは思えない」

「でも、失敗したからこそ、またチャレンジするんじゃないかしら? あの時、結局、ウロボロスの円環は完成しなかった。だから」

「まあね。その可能性は、ないことはない」

「来てくれる?」

 零の手の甲に手のひらをかぶせて、杏里は言った。

「今すぐは無理だな。モウのおかげで、きょうは疲れてる」

 月齢が低く、しかも苦手な冬ときているので、零の反応は鈍かった。

「あの犬と格闘でもしてたの?」

「馬鹿な。散歩だよ。犬ときたら、散歩と決まってる。ただ、やつの運動量は半端じゃないから」

 なるほど。

 今夜の零はひどく眠そうだ。

「ねえ。あれ、本当に飼うつもり?」

 おそるおそるたずねると、

「モウは役に立つ。特に、あたしがこんな状態の時はね。今回の事件、意外にあれが活躍してくれたりして」

「あの、煙みたいなもわもわが?」

「ああ、そうさ」

 牛乳を飲み干すと、手の甲で口を拭って、零が腰を上げた。

「じゃ、きょうはもう寝る。明日、そっちに行くから、ニラサキのおっさんによろしく。そうだな。まずは、死体を見せろって、そう頼んでおいてくれないか」





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