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第5章 百合はまだ世界を知らない
#5 杏里と被害者の夫①
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「山田と野崎は周辺を探せ。箱みたいなものを持った不審者がいないかどうかな」
「何ですか、それは?」
「犯人は被害者の内臓を根こそぎ持ち去った疑いがある。だから、クーラーボックスとか、ワンちゃんの籠とか、買い物袋を抱えたやつは要注意だ」
「げえ、マジっすかあ」
大げさにのけぞって、野崎が額を押さえた。
「三上は高山を連れて、聞き込みに回れ。あ、ついでに県警に応援を頼んでくれないか。警察犬の動員も頼むんだ」
てきぱきと指示を飛ばすと、韮崎は杏里に向き直り、若干声のトーンを押さえて言った。
「笹原は俺と一緒に旦那の事情聴収だ。女がそばにいたほうが、旦那の口の回りもよくなるだろうからな。それから、俺が見落としていたことがあれば、おまえも質問しろ。さっき言ったように、旦那が妻を解体した可能性も捨て切れんしな」
階段に一番近い3つ目の部屋が、倉田慎吾の書斎だった。
中をのぞくと、机の前の椅子に、スーツ姿の長身の男が腰かけて、両手で頭を抱えていた。
付き添っていた巡査を退出させると、手近な椅子を引き寄せて、韮崎が男と向かい合う。
片隅に来客用のソファがあったので、杏里はそこに腰かけることにした。
「照和署の韮崎です。このたびは御愁傷さまで」
警察手帳を開いて見せる上司にならって、ソファから腰を浮かせ、杏里も同じことをした。
「笹原です。本当に、なんて言ったらいいのか…」
「静香は…家内は…なぜ、あんなことに…?」
顔を上げた倉田慎吾は、スポーツマンタイプのかなりのイケメンだった。
が、さすがに今は、げっそりと憔悴し切っててしまっている。
目が血走り、泣きはらしたせいで、目蓋が赤く腫れていた。
「慎吾さんが、静香さんを見つけたそうですな? そのあたりのことを、詳しく話してもらえませんか」
「出張から戻って、タクシーで家に着いたのが、11時ごろだと思います。玄関の鍵が開いていたので、おかしいなと思い、大声で何度も妻を呼びました。でも、全然返事がなくって…それで、家中捜しまわって、寝室まで来てみたら…」
そこでまた頭を抱え、泣きじゃくり始めた。
「ほお、玄関のドアに鍵がかかっていなかったと? 電気はどうでしたか? あなたが帰った時、ついていましたか?」
「ええ。家中、明るかったと思います。妻が死んでいるのは、ひと目見てわかりました。なにしろ、あの有様ですから…。それで、動転して外に飛び出したところに、偶然、さっきのおまわりさんが通りかかって…」
なるほど、と杏里は思った。
道理で照和署のメンバーより先に、巡査が現場に来ていたはずである。
「それで、ここからが重要なのですが…あなたがご帰宅なさった時、家の中に、ほかに誰かいませんでしたか? あるいは、ご自宅の周囲で、怪しい人影を見かけたとか?」
韮崎が身を乗り出した。
本気で慎吾を疑っているのか、金壺まなこを猟犬のように光らせている。
「何ですか、それは?」
「犯人は被害者の内臓を根こそぎ持ち去った疑いがある。だから、クーラーボックスとか、ワンちゃんの籠とか、買い物袋を抱えたやつは要注意だ」
「げえ、マジっすかあ」
大げさにのけぞって、野崎が額を押さえた。
「三上は高山を連れて、聞き込みに回れ。あ、ついでに県警に応援を頼んでくれないか。警察犬の動員も頼むんだ」
てきぱきと指示を飛ばすと、韮崎は杏里に向き直り、若干声のトーンを押さえて言った。
「笹原は俺と一緒に旦那の事情聴収だ。女がそばにいたほうが、旦那の口の回りもよくなるだろうからな。それから、俺が見落としていたことがあれば、おまえも質問しろ。さっき言ったように、旦那が妻を解体した可能性も捨て切れんしな」
階段に一番近い3つ目の部屋が、倉田慎吾の書斎だった。
中をのぞくと、机の前の椅子に、スーツ姿の長身の男が腰かけて、両手で頭を抱えていた。
付き添っていた巡査を退出させると、手近な椅子を引き寄せて、韮崎が男と向かい合う。
片隅に来客用のソファがあったので、杏里はそこに腰かけることにした。
「照和署の韮崎です。このたびは御愁傷さまで」
警察手帳を開いて見せる上司にならって、ソファから腰を浮かせ、杏里も同じことをした。
「笹原です。本当に、なんて言ったらいいのか…」
「静香は…家内は…なぜ、あんなことに…?」
顔を上げた倉田慎吾は、スポーツマンタイプのかなりのイケメンだった。
が、さすがに今は、げっそりと憔悴し切っててしまっている。
目が血走り、泣きはらしたせいで、目蓋が赤く腫れていた。
「慎吾さんが、静香さんを見つけたそうですな? そのあたりのことを、詳しく話してもらえませんか」
「出張から戻って、タクシーで家に着いたのが、11時ごろだと思います。玄関の鍵が開いていたので、おかしいなと思い、大声で何度も妻を呼びました。でも、全然返事がなくって…それで、家中捜しまわって、寝室まで来てみたら…」
そこでまた頭を抱え、泣きじゃくり始めた。
「ほお、玄関のドアに鍵がかかっていなかったと? 電気はどうでしたか? あなたが帰った時、ついていましたか?」
「ええ。家中、明るかったと思います。妻が死んでいるのは、ひと目見てわかりました。なにしろ、あの有様ですから…。それで、動転して外に飛び出したところに、偶然、さっきのおまわりさんが通りかかって…」
なるほど、と杏里は思った。
道理で照和署のメンバーより先に、巡査が現場に来ていたはずである。
「それで、ここからが重要なのですが…あなたがご帰宅なさった時、家の中に、ほかに誰かいませんでしたか? あるいは、ご自宅の周囲で、怪しい人影を見かけたとか?」
韮崎が身を乗り出した。
本気で慎吾を疑っているのか、金壺まなこを猟犬のように光らせている。
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