サイコパスハンター零

戸影絵麻

文字の大きさ
上 下
92 / 157
第5章 百合はまだ世界を知らない

#5 杏里と被害者の夫①

しおりを挟む
「山田と野崎は周辺を探せ。箱みたいなものを持った不審者がいないかどうかな」

「何ですか、それは?」

「犯人は被害者の内臓を根こそぎ持ち去った疑いがある。だから、クーラーボックスとか、ワンちゃんの籠とか、買い物袋を抱えたやつは要注意だ」

「げえ、マジっすかあ」
 
 大げさにのけぞって、野崎が額を押さえた。

「三上は高山を連れて、聞き込みに回れ。あ、ついでに県警に応援を頼んでくれないか。警察犬の動員も頼むんだ」

 てきぱきと指示を飛ばすと、韮崎は杏里に向き直り、若干声のトーンを押さえて言った。

「笹原は俺と一緒に旦那の事情聴収だ。女がそばにいたほうが、旦那の口の回りもよくなるだろうからな。それから、俺が見落としていたことがあれば、おまえも質問しろ。さっき言ったように、旦那が妻を解体した可能性も捨て切れんしな」

 
 
 階段に一番近い3つ目の部屋が、倉田慎吾の書斎だった。

 中をのぞくと、机の前の椅子に、スーツ姿の長身の男が腰かけて、両手で頭を抱えていた。

 付き添っていた巡査を退出させると、手近な椅子を引き寄せて、韮崎が男と向かい合う。

 片隅に来客用のソファがあったので、杏里はそこに腰かけることにした。

「照和署の韮崎です。このたびは御愁傷さまで」

 警察手帳を開いて見せる上司にならって、ソファから腰を浮かせ、杏里も同じことをした。

「笹原です。本当に、なんて言ったらいいのか…」

「静香は…家内は…なぜ、あんなことに…?」

 顔を上げた倉田慎吾は、スポーツマンタイプのかなりのイケメンだった。

 が、さすがに今は、げっそりと憔悴し切っててしまっている。

 目が血走り、泣きはらしたせいで、目蓋が赤く腫れていた。

「慎吾さんが、静香さんを見つけたそうですな? そのあたりのことを、詳しく話してもらえませんか」

「出張から戻って、タクシーで家に着いたのが、11時ごろだと思います。玄関の鍵が開いていたので、おかしいなと思い、大声で何度も妻を呼びました。でも、全然返事がなくって…それで、家中捜しまわって、寝室まで来てみたら…」

 そこでまた頭を抱え、泣きじゃくり始めた。

「ほお、玄関のドアに鍵がかかっていなかったと? 電気はどうでしたか? あなたが帰った時、ついていましたか?」

「ええ。家中、明るかったと思います。妻が死んでいるのは、ひと目見てわかりました。なにしろ、あの有様ですから…。それで、動転して外に飛び出したところに、偶然、さっきのおまわりさんが通りかかって…」

 なるほど、と杏里は思った。

 道理で照和署のメンバーより先に、巡査が現場に来ていたはずである。

「それで、ここからが重要なのですが…あなたがご帰宅なさった時、家の中に、ほかに誰かいませんでしたか? あるいは、ご自宅の周囲で、怪しい人影を見かけたとか?」

 韮崎が身を乗り出した。

 本気で慎吾を疑っているのか、金壺まなこを猟犬のように光らせている。






しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

カフェ・シュガーパインの事件簿

山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。 個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。 だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

『 ゆりかご 』  ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。

設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。 最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。 古い作品ですが、有難いことです。😇       - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。            ・・・・・・・・・・ 💛イラストはAI生成画像自作  

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

処理中です...